2-05 海の恵み
まずは本日の宿を作成するか。
砂浜から少し上がり平らな場所を探す。
クラフトスキルがあっても自然の驚異には勝てないから。
風を避けられて、水が上がらない場所。虫なんかも避けたいぞ。
木の陰で乾燥した場所を見つけた。ここなら、よさそうだ。
今回はクラフトスキルが成長しているので土壁で建ててしまう。
大きさは床面積で十畳ぐらいあれば十分だろう。
形状は強度と魔力の少コスト化の両立を目指してカマボコ型で作成する。
天井と壁を同時に作成できるから魔力の無駄がないし、アーチの形状は強度も高いはず。
出入り口と通気性を考えてカマボコの両端は一部閉じないでおく。
うん、カマボコというか土壁のビニールハウスだな。
土製なのにビニールハウスとは矛盾しているが、他にこの形状を的確に表現する言葉が出ない。
ともかく頑丈さは折り紙つきだ。
ゴブリンの棍棒程度ではビクともしないだろう。
カマボコ両端の開いた部分は流木を立てて塞ぐことにする。
採光と通気性を得るための格子戸の代わりだ。
夜に虫が入るのを避けるために、簾を作って塞げるようにしよう。
材料になる葦は大量に確保してある。
扉になる部分だけは軽い竹を加工して作る。
紐で流木の柱に結わえ付ければ開閉式の扉の完成だ。
さらに竹や葦と枯葉などを組み合わせてベッドを作り、天井の低い壁側に縦に並べて設置する。
細かい部分は後で改良することにして、これで今夜の宿は完成だ。
こんな短時間でシェルターが完成するとは、まさにクラフトスキル様様だな。
文字通りのシェルター風のカマボコハウスが完成した。
だがメルは海岸に行ったきりだな。
日暮れまで時間があるし、俺も行ってみるか。
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「いっぱい貝取れた~」
メルが両手一杯の貝を見せてくる。うん、綺麗だけど貝殻ばかりだね。
持ち歩くのが大変そうなので入れ物を作ってやろう。
クラフト倉庫から一番太いサイズの竹を取り出し、竹筒になるように切断する。
端に二箇所、穴を開けて、そこに竹の枝を差し込んで取っ手に『加工』する、
これで子供用ミニバケツの完成だ。
ついでに、竹で熊手も作るか。潮干狩りセットだ。
「メル、これを使うといいぞ」
「わーい、ありがと~」
メルは熊手で砂浜から貝殻をショベルカーのように持ち上げて、バケツに入れ始めた。
「むずかし~」
ああ、幼児がそういう遊び方するよね……。
「いやいや、それなら手で拾ったほうが早いだろ。それは砂の中の貝を探すんだ」
メルを連れ、乾いた砂浜から干潟へと移動する。
「穴の周りを熊手で掘り返してごらん」
「ほりほり~?」
メルが砂を掘り返すと、すぐにハマグリに似た二枚貝が見つかる。
「おお、けっこうでかいな」
「やった~おっき~」
メルは大喜びでアチコチ掘り始めた。
「俺は他の素材探してくるよ。家はあっちに完成したからな」
「うん、いってら~」
メルは潮干狩りに夢中で、こっちも見ずに答えてる。
「深いとこには行くなよー」
注意だけはして、俺は海岸沿いを探索し始める。
水際を歩いていると、流れ着いた海草を色々と見かける。
ヒジキやホンダワラに似た感じの細長い海草や昆布に似た幅広の海草もあるな。
きれいで鮮度のよさそうなものを選んで収納しておく。
海草を食べるのは日本人以外にはあまりいないらしいけど、こっちの世界では海草を食べる文化はあるのかな。
少し戻って崖の上の竹林に向かうことにする。
崖は急斜面だが何とか登れそうだ。
この世界に来てからスキルのせいか身体能力が上がってるので可能な芸当だ。
竹林はかなり立派なもので太い竹が大量に生えていた。
筍も立派なものがいっぱいあるな。
竹は使い道が多いので大量に確保しておこう。
クラフトスキルで切断箇所を粘土化できるので楽々採取できる。
ついでに筍も確保しておく。
これは長く保管するとアクが強くなるので二日分程度でいいだろう。
ん、なにか動物の足跡があるな。かじられた筍も見つけた。
周囲を探してみると土が掘り返されて、泥が撒き散らされた場所もあった。
これはヌタ場ってやつじゃないか。
イノシシが体のダニを取るために泥浴びする場所ってテレビで見たことがある。
ここはイノシシの縄張りかもしれん。
イノシシの高速タックルはやばいぞ。ちょっと注意して行動しないとな。
しかし、このヌタ場って、ずいぶんデカくないか?
せっかくなので、罠を仕掛けておくことにする。
罠はシンプルな落とし穴だ。
クラフトスキルで穴掘りが楽々だし、掘った土も倉庫に収納すればいい。
落とし穴の蓋はスキルで固めた土の蓋だ。
イノシシは匂いに敏感だって言うから、ヌタ場の土を回収して作った。
落ち葉も散らせば、スキルのおかげでぱっと見にはまったくわからないぞ。
餌には鳥の内臓でも使ってみるか。
竹林での採集を終えて、カマボコハウスに戻ってくる。
そろそろ日が傾きかけてきているので、夕食の支度を始めるか。
まず、石を組んでかまどを作る。
かまどにはフライパン代わりの石板をのせる予定だからしっかりと固定する。
石板は、清潔そうな岩を集めて粘土化する。
これにはフライパン同様に縁を数センチ盛り上げて、蒸し料理も出来るようにする。
さらに、ピラルクもどきの大魚をさばくために巨大まな板も準備する。
これは竹を板状に変形して接合すれば簡単にできる。
同様の手順で石板の蓋も作成しておく。
「うぉっ、この魚かてぇぇ!」
さっそくピラルクもどきをさばこうとナイフを入れてみるが、ウロコが硬くてまったく歯が立たない。
まずウロコを剥がさないと無理そうだ。
ナイフが痛みそうなので、石でウロコ取りのような道具を作り剥がしていくが、かなり面倒だ。
ウロコ一枚が数センチのサイズなので、一度に剥がすことはできなくて数枚ずつ剥いでいく。
このウロコは頑丈だな。厚みもあるし、何かに使えそうだから、保管しておこう。
ようやくウロコを剥がし終えたので、さばき始めるが三枚に下ろすなんては不可能なサイズ。
背中の身、ハラミ、尾の身など部位ごとに切り取るが、もはや肉の解体のようだ。
ちなみにピラルクもどきは刺身では食べるつもりはない。
淡水魚は寄生虫の危険が高いからだ。
まあ、醤油もなしで刺身は微妙だし。
脂の多そうなハラミの部分は焼きで、逆に少なそうな尾の身は保存用の燻製にする予定。
ここで問題がある。
燻製を作るにはソミュール液という塩水につけるか、塩をまぶす必要があるんだけど、手持ちがそんなにない。
なんせ一メートル越えの大魚の分だからな。
苦肉の策として、海水を煮詰めて塩分濃度を高めることにする。
海水が塩分濃度が三%くらいだったはずなので、四倍以上に濃縮すれば十二%で燻製のソミュール液に近くなる計算だ。
竹で海水をためる大型の樽を作成すると、きれいな海水を大量に汲んでくることにする。
「うおぉ、重い!」
あたりまえだが海水を数十リットル汲んだ樽は重い。水中から持ち上げるだけで一苦労だ。
転移前なら確実に腰を壊すだろう。
「あ、そうか、収納すればいいのか」
クラフト倉庫を開いて、はたと気づく。
「まてよ、樽にいれなくてもいいのでは?」
試しにクラフト倉庫を水中で開いてみる。
うん、開いただけでは海水が謎の空間に吸い込まれたりはしない。
次に海水を収納するイメージをすると、確かに収納されたのがわかる。
水中から出て倉庫から取り出すイメージをすると開いた空間から流れ出す。
クラフト倉庫内では収納物が別々に格納されているようなので、他の物が濡れたりということもない。
いいぞ、これなら大量に運ぶのも楽々だ。
せっかくなので百リットルぐらい収納しておく。
海から上がると早速かまどで海水を煮詰めていく。
前に作った石鍋で煮詰めていくわけだが、当然一度には出来ないので、大体の量を測りつつ追加していこう。
海水が煮詰まるのを待つ間に魚をドンドンさばいていく。
身の量が多いな。メルと二人ではハラミだけでも食べきれるかどうか。
背の身と尾の身は全部燻製にしよう。
そうこうしているとメルが戻ってきた。
「ただいま~。貝いっぱい取れた~」
「おお、大漁だな」
メルの採って来た貝はミニバケツでは収まりきらず、ついでに渡してあった麻袋にもいっぱいだ。
砂抜きするために、海水を入れた樽の中に入れておこう。
「なにつくってるの~?」
海水を煮詰めている石鍋を覗き込むメル。
スープでも煮てると思ったのか、お玉で味見するようだ。
「しょっぱ~」
ああ、ひさしぶりにメルの顔にバッテンマークがでたな。
「海水を煮ていたんだよ」
「海のお水でしょっぱくなるの~?」
ああ、まだ海水を試してなかったのか。
「そうだ、海の水には塩がいっぱい溶けているんだ」
「ふぉぉぉ! お塩いっぱい~、すごいね~」
そう、ここは恵みの海だ。
せっかくの機会だからな、色々やってみようか。