2-01 村への道程
アーヤのコルニア村へ向かうことになったが、その前に片付けておく事がある。
登り窯の炭の回収と仕掛けた罠などの回収だ。
仮に獲物が掛かってた場合、命をムダに散らせた事になる。
確認してみたら、落石トラップにはアナグマのような獲物がかかっていた。
アナグマの仲間だと旨いが、良く似たタヌキはとても臭いらしい。
アナグマの仲間であることを期待しよう。
魚の罠にもナマズに似た魚が何匹も入っていた。
クラフト倉庫には時間停止とかの効果がないので早めに食べないとな。
すべての罠と炭を回収すれば、旅立ちの準備は完了だ。
ところで、そういえばアーヤに俺の素性を説明していない。
村に行けば、当然そういった事も話題になる。どう説明すべきか考えておくべきだな。
渡り人の事は簡単に明かしてもいいものか?
共にゴブリンと戦ったアーヤに嘘はつきたくないし。
渡り人である事を明かした上で秘密にしてもらうように頼んでみるか。
「なあ、アーヤは渡り人って知っている?」
「渡り人ですか?はい、この世界とは異なる世界より流れてきた人の事ですよね。トーマさんのように」
「うんうん、そう……って、バレてんのかーい!」
「ごめんなさい。実はなんとなくそうではないかと……」
「疑っていた?」
「はい……」
「かぁー、なんでバレたのかー」
「スキルと魔法の使い方が普通じゃありませんし、トーマさんの知識も異質です」
「そうかー、バレバレだったのか。ゴメン、隠し事をしてて」
「ごめんなさい。実は私にも話していない事があります」
「うん、そうなの?」
「私の正式な名前はアヤナ・イズミと申します。曽祖父ヤタロー・イズミ公爵は渡り人であったと伝えられています」
「えええぇぇぇ!」
右手を胸に当てた礼の姿勢をとって名乗りを上げるアーヤに驚く。
それってどう考えても日本人の名前だよね。
「アーヤって日本人の子孫だったのか!」
「曽祖父は、この地で貴族と結婚して公爵となりましたので、日本国の人の血はわずかですが……」
クォーターの子供だから、……えーと八分の一でワンエイスとか言ったっけ。
「だからその黒髪なのか」
「はい。この黒髪は曽祖父に似ていると祖母が教えてくれました。一方でエルフの金髪が遺伝しなかったことを残念がってましたけど」
「おお、エルフ!」
「ええ、その祖母がエルフなんです。村に祖母はいませんけど、エルフや、その血を引く人は多いですよ」
「ほおぉ、それは楽しみだ、テンション上がるー」
つまりアーヤは日本人のワンエイスでエルフのクォーターって事か。
曽祖父が公爵って事は貴族に連なる者だろうし設定多いな。
でも血が薄くなっちゃうとエルフ要素はあんまり出てないみたい。
一応、色白で美少女って点は関係ありそうだけど、おもいっきり黒髪だしなー。
「……エルフは綺麗な人が多いですものね」
まずい。アーヤから若干すねたようなオーラが漂ってきているな。
「いや、アーヤの黒髪も綺麗だよ。俺の国に行けばアイドルにだってなれそうだ」
「"あいどる"ですか?」
「うん、数万人の前で歌ったり、踊ったり、握手したりする若く美しい女性の事だ」
「そんな……恥ずかしい……それに、そんな大勢と触れ合うなんて……」
アーヤは頬を染めてモジモジとしたしぐさを見せる。
う、うん、それはそうだよね。握手はちょっと違うか。
「まあ、そのぐらい人気がでるだろうってことだから」
「はぁ?」
まあ、機嫌は直ったみたいだし、これでヨシ。
そんなこともあって、アーヤの村について少し教えて貰う事ができた。
今までの会話からなんとなく予測していたけど、ドワーフの鉱山都市を占領しているノルグランド帝国はアーヤの住むコルニア村の人にとっても敵国であった。
コルニア村はノルグランド帝国に滅ぼされたリドニア公国の難民が開拓した村だそうだ。
道理で村の事が帝国に露見するのを恐れていた訳である。
帝国がいまさら彼女達のような難民に興味があるかは謎だけど、アーヤの曽祖父の肩書きが気になる。
「なぁ、曽祖父が公爵ってことはアーヤはお姫様じゃないの?」
「……そう呼んでくれる人もいますが、直系ではありませんし、いまさら姫も何もありません」
「なるほどねぇ」
アーヤは否定しているけど、こりゃ姫様扱いに近い感じだったように思える。
まあ難民の開拓村なので、生活レベルはそんなに高くなかったのは着衣で分かるけどね。
ともかくコルニア村へ出発だ。
今からでも急げば日暮れ前に村にたどり着けるだろう。
「まって~」
歩き始めて数分も経たないうちに、背後からの声が俺達を呼び止める。
「メルもいく~」
背中に大きなリュックを背負ったメルが追いかけてくる。
「はいはい、こうなる気はしたよ。まあいいさ。旅は道連れってね」
小さく苦笑するとメルに手を振り、追いつくのを待つ。
アーヤも微笑んでいるし、メルが同行するのを喜んでいるみたいだ。
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コルニア村への道は、まず渓谷を下流方向に向かう必要がある。
この川は最終的に海まで注いでいるが、その前に東へ進路を変えて森に入っていく必要がある。
森から村へと入る場所はアーヤが分かるそうなので、彼女に案内は任せることにする。
途中、例の土砂ダムを越えるが、ダムはしっかりと水をたたえている。しっかりと『石化』したダムの壁面も問題ない。
溢れる水も、きちんと脇の水路から下流側に流れている。
おや、メルがダムの壁に小さな石積みの祠のようなものを組んでいるな。
「メル、なんだそれは?」
「ノエルに頼まれた~」
「ふーん、なにかのおまじないかな」
「こわれないようにして~」
ふむ、石を組んだだけでは崩れやすいからな。スキルで硬化してやる。
メルは小さな木箱を中に入れると、石で入口を塞いだ。
「かんせ~、にんむかんりょ~」
ご神体か? よくわからんが、さっさと進むことにする。
ここからの道中にはゴブリンの残党の危険があるので、警戒しながら川沿いに進んでいく。
予想通り、数度ゴブリンと遭遇したが、二、三体の集団だったので問題なく排除できた。
俺のレベルも上がっているし、全員が弓や魔法の使い手だから奴らは近づく事さえできなかった。
「もうじき森へ入る場所です」
「そうか、日暮れ前にたどり着けそうでよかった」
「よかった~」
アーヤが嬉しそうに報告してくる。
だが進んでいくうちに、前方から打撃音とうなり声が聞こえてくる。
どうやら、人とゴブリンとで戦闘が行われているようだ。
「どけぃ! ゴブリンどもー!」
「グブゥゥ!」
遠目にゴブリンの一体が斧で首を刎ねられるのが見える。うわっグロイな……。
だが、ゴブリン達の数は多い。
普通のゴブリン十体近くにホブゴブリンが二体もいる。
対する人間側は三人か?
それとも近くに味方がいるのか?
「あれはヤーゴルさん達です」
やはりアーヤの関係者か。
「アーヤとメルは近づかずに援護を!」
二人に声を掛けると、人間側に加勢するために走る。
走りながらも魔力循環を意識して魔力を高めていく。
やがて、近づく俺にゴブリン達が気づいて威嚇の声を上げる。
「ゴアアァァァ!」
「これでもくらえ!ウィンドブラスト!」
奴らの手前で足を止めた俺は槍を地面に立て、右腕に左腕を添えた魔力循環型のポーズで魔法を放つ。
ゴオオォォ!
激しい突風がゴブリン達を襲う。
人間を巻き込まないように後方のゴブリン集団に打ち込まれた突風は複数のゴブリンを転倒させ、ホブゴブリンさえも体勢を崩す。
そして、そこを狙ったかのように援護の弓矢が飛んでくる。
「「ゴブゥ!」」
転倒していたゴブリン二体に矢が突き刺さる。
まだ死んではいないが、作成者の俺には矢羽の種類で、あれが毒矢と判別できる。
これで二体は戦力外だ。
「フレイムブラスト!」
「グアァァ!」
体勢を崩したホブゴブリンの顔面を俺の火魔法が襲い、奴は悲鳴をあげる。
魔法の連発で魔力循環不十分だから倒しきれない。
だが、こいつはすぐには反撃できないだろう。
俺は地面につき立てた槍を構えると今度こそ突撃する。
狙いは残る無傷のホブゴブリンだ。
「ゴアアア!」
ホブゴブリンの振り回す棍棒をいなすと、空振りでがら空きとなった脇腹を槍で切りつける。
鉄槍にバージョンアップした成果が発揮されて、易々と切り裂く事ができた。
「グゥゥ」
倒れこむホブゴブリンの首に止めの一撃を打ち込む。
「ゴブゥゥ」
地に沈むホブゴブリン。
周囲を見回すと、顔面を焼いたホブゴブリンも援護の毒矢で仕留められていた。
残るゴブリン達は混乱して、もはや組織的な抵抗も出来ずに右往左往している。
だが奴らを一体でも逃がせば後の憂いとなる。
ゆえに残りのゴブリンはすべて殲滅された。
【現在開示される情報による暫定地図】
位置関係が判りにくいかと地図を作成してみました。
うまくいっているでしょうか?