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1-13 ゴブリン集団の脅威1

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 コルニア村は、ノームのリルトコル村の南東に半日ほど歩いた先にある村である。

 農業と小規模な牧畜での自給自足の村。

 自らは外部と交流せずに、たまに訪れるノームとの小規模な物々交換だけで繋がっていた。

 その始まりは十数年前に遡る。

 このコルサド島の北西方向、いくつかの国を挟んでノルグラスト帝国とよばれる覇権主義国家がある。

 帝国はその領土的野心の赴くまま周囲の小国家を併呑し続けていた。

 やがてノルグラスト帝国は、その東にあり海に面したリドニア公国を侵略し、瞬く間に占領してしまう。

 だがリドニア公家所有の交易船団は運よく難を逃れ、一部の避難民などを受け入れて南方に脱出した。

 その船団のうち、非戦闘員を中心とした船がノルグラスト帝国の追跡を避けて、このコルサド島に作った隠れ里。

 それこそがコルニア村だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 アーヤが村について教えてくれたが、なるほど落人(おちうど)の村だな。

 しかも今現在、ドワーフの鉱山都市を占領している帝国とは因縁があるときた。

 この島まで帝国の侵略が及んできた現状では、いつ村の存在がばれてもおかしくない。


「早く村のみんなに帝国の事を教えないと。私、村へ戻ります!」

「でも村はゴブリンの穴のある川の下流方向なんだよね。ゴブリン達に遭遇したら命はないよ。仮に川を迂回していくと道なき道を抜ける訳だから数日かかるだろうし」


 焦るアーヤに、ノエルがその問題を指摘する。

 アーヤからコルニア村を襲ったゴブリン達の話も聞いている。

 人間などの女を母体にする事でゴブリンの上位種が増えるという胸糞悪い話もノエルに教えてもらった。

 だから奴らが迷宮外で集落を作ると爆発的に増える可能性があるらしい。

 何としてもゴブリンを減らさないといけない。


「気持ちが急くのはわかるけど、少し待ったほうがいい」

「で、でも、……」


 気持ちは分かるし、できれば送ってあげたいところだが、それは無謀と言うものだ。

 彼女の村に複数のゴブリンが出た以上、川沿いに村までいく経路には他にも多くのゴブリンがいる可能性が高い。

 ゴブリンの集団と遭遇したら逃げ切れるかどうかさえ保証できない事を説明する。


「今日の戦いでは奇襲でホブゴブリンを倒した上で、派手な火魔法にびびった集団が穴に逃げただけだから」

「そ、そんな、じゃあ村は……」

「君の話だと、村もゴブリンの脅威は認識しただろうから守りは固めたはず。穴から増援が出て行かないようにすれば何とかなるんじゃないかな」

「そんなこと可能なんですか?」

「少なくとも奴らが穴から出てこれないぐらいには叩きのめしてやるつもりだ」

「すごい~メルもやる~」

「へぇ、ずいぶんとやる気だね。かわいい女の子の前だからかな?」

「ノエル、ちょっとお前、なにを言うんだ……」

「で、でしたら、私も手伝わせてください。なんでもやりますから」


 うーん、危険に巻き込みたくないんだけど、必死に訴える少女にダメっていえる雰囲気じゃないな。


「じゃあゴブリンと直接戦わせる気はないけど準備は手伝ってもらおうかな。人手があると色々はかどるし」

「がんばります!」


 アーヤは両方のこぶしを握ってポーズを作る。

 うんうん、かわいらしい姿を見て、こっちのやる気もでるってもんですよ。


 念のため彼女の得意な事を聞いてみると、彼女は弓と簡単な水魔法が使えるらしい。

 いいね。ぜひ水魔法は教えてもらおう。

 弓は鳥を狩るぐらいで魔物に使った事はないらしいが、無手よりいいので持たせておこう。


 もちろん弓はクラフトスキルで作成する。材料は定番の竹である。

 竹を平たくしたものを何枚か貼り合わせる和弓モドキだ。

 素材や組み合わせ方を変えたものを何本か試作して一番良いものを使うことにする。

 竹加工については粘土化スキルでお手の物だ。

 矢は石を(やじり)にしたものを大量に用意するつもり。

 だが鉄の(やじり)はまだ手間がかかりすぎて用意できないだろう。


 しかし鉄の使い道はあるので材料となる炭を用意する必要がある。

 登り窯に興味を示したノエルが見ていてくれるというので、先日と同じように窯に火を入れて炭焼きを進めておく。


 その間に竹で和弓モドキを三張り作った。

 指をかける部分など細部はアーヤの意見を参考にして、大きさ別に大中小の三種作ったのだ。

 アーヤはこの中サイズ程の弓を使っていたらしいが、和弓は本当はかなりデカイものだったような記憶がある。

 俺は大サイズを使うことにして、これは2m弱の大きさがある。

 小サイズはメル用だが、1m未満の小さなものでもノーム族にはそこそこの大きさだ。


 俺達はアーヤから弓の撃ち方を教わると試しに鳥を狩ってみる事にした。

 これには矢羽が必要だからという理由もある。

 とりあえず鳥撃ち用の矢は(やじり)もなしで、矢羽代わりに竹の葉で代用している。

 矢軸も竹で素人の作だが、反りや節の部分は滑らかになるようにスキルで整形しておいた。


「弓は村で使っていたものとは少し違いますけど、この矢は凄いです。表面が綺麗に仕上げてあって中心の軸が一切ずれていません。これなら良く当たりそうです」

「弓は俺の国で使われていたものに似せてるからね。改良点があれば直すから教えてくれ」

「たぶん大丈夫です。でも、こんなに手早く弓矢を作ってしまうなんて凄いです」

「ハハハ、材料の下ごしらえは済んでいたから……」


 アーヤの賞賛がこそばゆいが適当にごまかす。

 こんな異常な生産能力はクラフトスキルのお陰だし、あまり広めたくない。


「ふんす~うぬ~」


 メルはノーム用に作った小サイズの弓を引こうと格闘しているが弓の弦が重すぎたようだ。

 調整すると飛距離は落ちそうだけどしかたないな。

 弓の弦を調整してあげ、さっそくと三人で試射を兼ねて鳥撃ちをすることにした。

 この森にはノームの『人払いの結界』の影響で大型生物はいないが、そのせいか逆に鳥の数は多い。


 幸いにも短時間の狩りで三人で合計五羽の鳥を得る事ができた。

 なんとアーヤとメルが二羽ずつで俺が一羽だけである。

 いや、大きさなら俺のが最大だから。

 羽を広げれば俺の身長ぐらいあるキジに似た鳥が地面を走っていたところを、俺に気づいて飛び立つ瞬間に仕留めた。

 意外なのはメル、飛距離のでない弓で鳩に似た鳥を二羽も狩っていた。

 メルは身を隠して近づくのが得意で、獲物にかなり接近して仕留めていたようだ。

 両手に鳥をぶらさげてドヤ顔である。


「にくにく~おにく~」


 アーヤがさばいてくれると言うので、精錬スキルで修復した鉄のナイフをアーヤに渡して頼む。


「よく切れそうなナイフじゃないか。どこで手に入れたんだい?」


 ノエルが目ざとくナイフの出来に気がついた。お客さん、目の付け所がいいですな。


「精錬スキルを手に入れたんでね。ゴブリンの持っていた錆びたナイフを鉄鉱石で修復した」

「な、なんだってー」

「けどなぁ、製鉄より手っ取り早いけど精神力(MP)が持たないんだよ」

「いやいや、そんなの当たり前だから。スキルで物質加工の段階をとばす事はポーロ様ぐらいしか出来なかった事なんだよ」

「そうなんだー」

「軽いなー。村にある『修復』の高位魔道具(アーティファクト)並なんだけど……」

「へー、そんな便利なものがあるのか」

「あっ、いまのなし、なしだから!」

「ノエルさんや……、まあ、そういうことにしておくよ」

「秘密だったのに……」


 ノエルも結構そそっかしいな。

 まあ秘密をばらす気はないし、アーヤも離れた場所で鳥をさばき始めてたので聞こえてないだろう。


 アーヤが鳥をさばいている間、俺とメルは森を探索する。

 各種素材や食材の採集が目的だ。さらに俺には特に目星をつけて置いた素材がある。

 それはトリカブト。今までにも見つけていたが必要ないものなので無視していた。

 しかし弓があるなら魔物退治に有効じゃないか。こいつの根が矢毒に使えるはずだ。

 他にもロープなどの材料になる蔦、木の葉、樹皮、樹液、木の実、薬草、香草などを手当たり次第集めておいた。


 採集を終えて拠点へ戻ってみると鳥はすべてアーヤがさばき終えてくれていた。

 矢羽になる鳥の羽や、その他の小さい羽毛や臓物などもすべてクラフト倉庫に回収しておく。

 臓物は罠の餌になるし、その他の素材も何かに使えるかも知れないからな。


 川に仕掛けた罠も回収してみると、前回とポイントを変えたせいか今回はモクズガニのようなカニが大漁だった。

 このカニ、そんなに大きくはないが良い出汁がでそうなので、今夜も鍋は作ろう。

 魚の罠は鳥の臓物を餌に再びポイントを変えて設置しておく。今度は深めに沈めておこう。


 鳥の臓物がたくさんあるので落石トラップも作っておく。

 平らで大きな石を組み合わせた木の枝で支える罠だ。

 餌を狙って来た動物が木の枝を引っ掛けると石に押しつぶされる単純な仕組み。

 普通は自然の石をギリギリのバランスで支える配置に手間がかかるが、クラフトスキルで石や木を変形できるので俺には楽勝だった。

 今後も狩りに時間をとられたくないので、できるだけトラップを活用していくべきだな。


 晩飯は材料が豊富なので豪華になった。

 鳥肉の串焼きと鳥肉、カニ、キノコ、ノビル、ヨモギなどを入れた鍋、芋の蒸し焼き、サルナシもどきのデザート付きである。


「おにくうま~」

「肉もおいしいけど、ボクらには薬草を料理に入れる発想は無かったな」

「ヨモギのことか? 肉や魚の臭みを減らしてくれるし、味も悪くないだろ」

「ふむ、少し苦いけど慣れれば悪くないよ」

「私の村でも料理に入れた事は無かったですけど、とってもおいしいです、このお鍋」


 ヨモギのほろ苦さは春菊のようで俺は好きなんだが、皆の認識ではヨモギは薬草だったか。

 ヨモギ餅とか天ぷらとかもいけるんだけどな。


「にが~」


 メルだけは顔に×マークがでそうな表情をしていた。こども舌なんだろうな。


 夕食後は矢の量産を始める事にする。


 矢は弓の大きさに合わせて作っておくが、さらにトリカブトの毒矢も作る。

 触れないように注意しながらトリカブトの根をすりつぶし毒を抽出する。

 竹の矢軸の先端の穴に少量の毒を詰めて、粘土化した竹でギリギリ漏れ出さないよう薄く塞ぐ。

 その先に両端を尖らせた石の鏃を取り付けて完成だ。


 毒矢が突き刺さると同時に、鏃が毒を詰めた部分を突き破って毒を漏出させるようにしてみた。

 毒の変わりに炭を溶かした黒い水でテストしてみたが、うまくいったので量産する。


 普通の矢が大中小二十本ずつ、毒矢も同じ数だけ用意した。

 それぞれ矢に判別できる印を付け、矢筒も別々に用意して間違わないようにする。

 かなり大量の矢だが、みんなが手伝ってくれたおかげで、俺はスキルを使う必要のある部分にだけ集中できた。

 スキルの慣れとMPが増えている事もあって休むことなく作成してしまった。


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