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1-12 コルニア村

【Side:????】


「キャアアアー」

「ウワァァン」


 村の牧場に子供達の悲鳴が響く。村のこんな近くにまでゴブリンが出現するなんて。


「グガァァァ」

「ゲガァァァ」


 牧童の青年二人が四体のゴブリンを棒で牽制しているが、逆に数で勝るゴブリン達は棍棒を振り回して威嚇している。


「アーヤ様も子供達と共にお逃げください!」

「子供達を村までお願いします!」


 同世代の青年二人が戦おうとしているのに逃げるのは嫌だけど、子供達を村まで守らなくては。


「ごめんなさい、二人とも。みんな、お姉ちゃんについて来て!」


 青年達の勇気に幸運の女神様が恩寵を与えてくれる事を祈りつつ、四人の子供達を連れて村へと走る。

 村へと続く森の小道がいつもよりとても長く感じる。

 でも村まで逃げて集会所に立て篭ればゴブリンぐらい平気なはず。


 けれども、幼子を抱きながら必死に走る私達の前方に巨大なゴブリンの影が現れる。

 なんてことだろう、私よりも小柄な普通のゴブリンと違って、目の前のゴブリンは人間の大人より頭一つ以上大きいようにみえる。


「お、おねえちゃん……」

「だ、大丈夫よ。お姉ちゃんがついてるからね」


 抱いていた幼子を地面に降ろしながら語りかける。そう、今度は私が勇気を示す番なんだ。


「みんな、私が合図したら村まで走ってね。後ろは見ないで一生懸命に走るのよ。できるよね、みんな強い子だもんね」


 地面にしゃがみこんで、子供達に優しく語り掛けると手をぎゅっと握り締める。


「うん……」


 子供達の中で一番年長の男の子がうなずく。

 巨体のゴブリンは醜悪な顔にニヤついたような表情を浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。

 私達が恐怖で動けないとでも思っているのかも知れない。

 正直に言えばとても怖い。でも子供達だけは絶対に守る、そう誓って地面についた手を握る。

 せめて子供達には幸運の女神様の恩寵がありますように。


「みんな、走って!」


 叫ぶと同時に、巨体のゴブリンに向かって走り出す。

 走りながら右手で腰に下げていた毛刈り用ナイフを抜く。

 こんなものでどうにかなるとは思えないけど、気を引く事ぐらいできるかもしれない。


 ゴブリンはナイフを見て薄ら笑いを浮かべると持っていた棍棒を振り上げる。

 あんなもので殴られたら一瞬で気絶してしまう。

 だから、私はゴブリンの手前で急停止すると、こっそり左手に握りこんでいた地面の砂をゴブリンの顔に向かって投げつける。


「ゴゴォォォ」


 ゴブリンは眼に砂が入ったようで、出鱈目に棍棒を振り回している。


「今よ、みんな! 走って!」


 子供達はゴブリンを大きく避け、村に向かって走っていく。

 よかった。これでもう少し時間を稼げば、あの子達は逃げ切れる。

 私は棍棒を避けて背後に回るとナイフを背中につき立てる。


「グァァ!」


 ゴブリンは叫び声を上げた。

 でもナイフは思ったほど突き刺さってくれない。さらに押し込もうと力を込める。


「ゴアァ!」


 ゴブリンの肘で突き飛ばされ、地面に倒れこんでしまう。


「ゴァ!ゴァ!ゴァ!」


 怒るゴブリンは地面に転げた私を執拗に蹴り飛ばす。

 激しい痛みに声も出ない。


「魔物が出たぞ~」

「子供達を守れ~」


 でも、村の方角から村人達の声がかすかに聞こえる。

 よかった、これで子供達は助かる……、遠ざかりつつある意識の端で思いながら、私は気を失った。



────────────



「う、うぅぅ」

「おや、気がついたのか?」

「おきたの~」


 黒髪の少女が小さなうめき声を上げた。さっそくメルがその顔を覗き込む。


「え、え、ノ、ノームの子」

「げんき~?」

「コルニア村の人だよね?」


 メルとノエルの問いかけに少女は目を白黒している。


「え、えっと、私、ゴブリンに蹴られて……」

「ああ、あの打撲は蹴られたのか、女の子に酷い事するなぁ。ボクはリルトコル村のノエル」

「メルン~」

「そして俺はトーマ」


 焚き火でお湯を沸かしていた俺は、お湯をお椀に注ぐとそれをもって少女に近づく。


「えっ、男の人! な、なんで!」

「なんでって言われても、ゴブリンから助けたの俺だからかな」

「メルはトーマを助けた~」

「うっ、痛いとこをついてくるなぁ」


 メルの指摘に苦笑しながら、少女にお椀を差し出すと彼女はおずおずとそれを受け取った。


「あ、ありがとうございます。あの、あなたはいったいどこから……」

「あー、出身はとっても遠いというか、知らない国だと思うよ」

「そ、そうなんですか……」

「えーと、トーマを警戒する理由は想像つくけど心配ないと思うよ」


 なんとなく怯えの見える少女を見かねて、ノエルが助け舟を出してくれた。


「え、俺、警戒されてるの?そんなにヤバイ男にみえるかなぁ」

「彼女のコルニア村に理由があるんだよ。ボクは村同士の交易にも関わっているから大体の事情はわかってるつもりだよ」


 ノエルの言葉に少女はほっとしたような表情をみせる。


「そ、そうなんですね。では改めて……、危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました。私はコルニア村のアーヤといいます」

「うん。気にしなくてもいいよ。なんか事情があるみたいだし」

「事情を知るノームの方がいらっしゃるなら、ちょうどいいです。色々お話したい事もあります」

「ボクらノームとコルニア村の交易が最近途絶えていることかな?」

「はい。何か私たちに非があったのでしょうか?」

「そんなことはないよ。でも人族が原因で問題が発生しているのは間違いないね」


 ノエルは鉱山都市に対するノルグラスト帝国の侵略についてアーヤに語り始めた。

 どうやら、ノームとコルニア村の人間は小規模な交易をしていたそうだ。

 ノーム側は鉱山都市で得た金属製品や塩などを、コルニア村側は綿布や毛織物、多少の農作物などを交換してた。

 しかし、コルニア村では交易はノームとしかしていないのだろうか?

 ドワーフの鉱山都市との直接交易してもいいような気がするけどな。


「――という訳で、コルニア村との交易を担当していた者を含めて多くのノームが帰還してないんだ。それでボクらは村に引き篭っていたし。コルニア村からノーム族に連絡を取る方法はなかったはずだから」

「そ、そうなんですね。帝国が鉱山都市にまで……。あ、あの助けに行ったノームの方々はどうなったのでしょう?」

「ボクらにもわからないんだ。誰も帰ってこないから」

「そ、そんな……」


 アーヤは激しく動揺していて表情も青ざめている。

 酷く怯えているようだが、理由が交易ができない事だけとは思えないな。


「お願いです。帝国にはコルニア村の事を伝えないでください」


「やっぱりかー。鉱山都市にもコルニア村の存在を隠す約束になっていたから、そういうと思ってたよ。コルニア村は落人(おちうど)の村なんだね」


「……はい」


 落人(おちうど)の村!

 あれか、日本で言うところの平家の落人(おちうど)の村とか、隠れ里みたいなやつなのか。

 だから人間社会との付き合いのないノームとだけ交易してたわけだ。


 アーヤは村の事情をぽつぽつと語り始めた。


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