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1-11 黒髪の少女

「えへへ~すごい?」


 潅木(かんぼく)の中から現れたのは、置いてきた兜を被るメルの姿だった。


「……メルか。助かったよ、ありがとう」


 俺は、まだクラクラする頭をさすりながら立ち上がる。

 油断した。少女の救助の前に、奴らの生死を確認するべきだった。

 メルが来なければ死んでいたかもしれん。

 それに兜を装備していなければ、後頭部に石が直撃した時点で即死していた可能性もあった。

 実際、兜の上から後頭部を押すと痛むからコブぐらいできているだろう。


 そうこうしている内にゴブリン達の体は消え、魔石とわずかな装備品のみが残る。

 間違いない。迷宮から出た『はぐれ』のゴブリンだ。

 だが、すでに『はぐれ』が群れの規模にまで増えている。


 いや、今現在も安全ではないな。ゴブリンが戻る前にここを離れなくては。

 ドロップ品を回収してから、気絶している少女を担ぎ上げる。

 メルに先頭を任せて警戒をしながらシェルターへと向かう。



────────────



「さて、この娘は一体何者だろう」


 シェルターに帰還した俺は娘を寝かせて意識が戻るのを待っていた。

 運ぶ時点でフードは脱げていて、顔は(あらわ)になっていたが、改めて見ると、その美しさにしばし息を飲む。

 泥や血で汚れてはいても、本来の肌の白さと(つや)やかさは隠す事ができない。

 また、長く美しい黒髪は異世界なのに和風な雰囲気を感じさせる。

 それに顔の造形にも親近感がある。この世界の人間はみんなアジア人に近い顔立ちなのか。


 ただ少女の美しさに比べると着ている服は普通というか、野暮ったい。

 地味な色合いの上着やシャツなどで、すべて木綿のような生地である。

 メル達と大差ない品質だから普通の村娘風なのだ。


 メルには長老達に助けを求めに行ってもらったので、ここには俺しかいない。

 とりあえず応急処置だけでもしなくては。

 俺は先日集めた薬草をクラフト倉庫から取り出すと乳鉢ですりつぶし始めた。

 もちろん乳鉢はクラフトスキルで石を変形させたものである。


 すりつぶした薬草を混ぜ合わせた薬を塗ろうとして、はたと気づく。服を脱がさないと!


「こ、これは、ち、治療だし……」


 打撲の跡が全身にあるし、一部は血がにじんでいるんだ。

 こ、これは必要な事と自分に言い聞かせながら、そっと娘の服を脱がせていく。

 緊張で震える手で脱がせていくと、やがて少女の肌があらわになる。

 きれいな白い肌のあちこちが赤黒く変色していて痛々しい。

 べ、別に意図的に見ているわけではないが、下着に隠れた胸はやや慎ましやかだ……。


「や、やくそうを、ぬ、ぬるだけだから……」


 泥と血を拭い取りながら、震える手で打撲の跡に薬を塗っていく。うわぁ、やわらか~い。


「う、ううん」


 傷が痛むのか、うめき声を上げる少女。なんだろう、この背徳感。

 だが、打撲痕は腰にもある。少女のコットンパンツというかズボンのようなものに手をかける。

 俺は意を決して……。


 ガン! 「ぐわっ!」


 頭のてっぺんを襲う衝撃と痛みに叫び声を上げる。


「いや~、メルからゴブリンやっつけたって聞いたんだけど、生き残りがいたようだね」


 振り返るとそこには、杖を構えたノエルと笑い転げるメルがいた。


「い、いや、これは、ぬ、ぬるだけ、ぬるだけ、それだけだから」

「それにしては、ずいぶんと鼻息が荒くなっていたようだけど」

「そ、そんなことはないさ。お、俺は冷静だ」

「ぬるだけ~ぬるだけ~」

「ぐふっ!」


 両手をにぎにぎするポーズをとるメルにトドメを刺され悶絶する。


「まあ、いいよ。ともかく女の子の治療をしないとね」


 ノエルは両手で杖を構えると呪文のようなものを唱え始める。


「大地を巡る魔素(マナ)よ、我が身を巡れ、巡れ。其は(そは)生命(いのち)の煌き(きらめき)となりて、この身を(いや)せ。治癒(ヒール)


 杖の先に淡い光がともり、ノエルは、その光を少女の一番ひどい傷にそっと押し当てる。

 光は少女の身体に吸い込まれるように消え、同時に打撲痕が薄くなっていく。


「おお、治癒魔法(ちゆまほう)か」

「完全に癒すにはもっと重ね掛けしないといけないけどね。とりあえず跡が残りそうな傷は、もうなさそうだね」

「そうか、それなら安心だ。しかし治癒魔法には呪文が必要なんだな」

「何言ってるんだい。基本的に魔法は、集中・呪文詠唱・呪句(スペルワード)の段階を経て発動するものだよ」

「いや、メルは呪句(スペルワード)しか唱えてなかったぞ。俺もそういうもんかと思って使ってたが……」

「ああ、メルは天性の才があってね。へぇ、君も無詠唱で発動できるの。さすが『渡り人』というべきか」

「メルとトーマすごい~」


 メルは胸をそらせて仁王立ちする。


「一応ボクも無詠唱はできるんだけど効果が落ちるんだよね。ちなみに魔法適正の低い人間族は集中が長いし、呪文の"巡れ"の部分もさらに繰り返すはずなんだけどね」


「俺とは集中のイメージが違うんだな。俺は元の世界の心身鍛錬法からヒントを貰った自己流だよ」


 簡単に俺の集中法を説明して実践してみせると、ノエルは感心したようにうなづいていた。


「なるほど輪の形で魔力を循環させるのか。理にかなったやり方だね。君達の世界の"気"の考え方は魔素(マナ)の流れにも通じるものがある」

「俺たちの世界では魔法は無いけど、第六感とか、人間に未知の力があるという説は昔から言われていたから」

「うんうん、もしかしたら二つの世界で影響を与え合っていた可能性も……」


 ノエルは白衣のポケットから羊皮紙と羽ペンを取出し、メモをとり始めた。


 ぐぅ~、そんな事を話していたら、メルのお腹がかわいい自己主張をする。


「おなかへっちゃった~」

「そうだな。飯の準備をするか。ノエルはその娘を見ていてくれるか」

「うん、まかされた。料理よりボク向きの仕事だよ」


 ノエルの年頃の女性としてはどうかと思われる主張は置いといて、夕食の準備を始めますか。



────────────



「うまうま~」

「おいしいね。君がこんなに料理上手だったとは」

「いや、材料の種類が限られているんで、大したもんではないけどな」


 夕食は昨日と同じ鍋だったが、メルとノエルは喜んでくれている。

 少女はまだ眠ったままなので鍋を囲むのは三人だけだ。

 少女を集落に運ぶべきではないかと思ったが、ノエル曰く、掟で外の人間を入れられないそうだ。

 俺はいいのかと思ったが、俺は最初に集落内の『降臨の地』にいたため、中の人間が外に出ている扱いらしい。

 ともかく少女が目を覚ますまでは、ここで寝かすしかなさそうだ。


「まだ日も経ってないのに、この土壁の家を良く出来てるね。例のクラフトスキルで作ったんだ?」

「ああ、魔力循環の使い方を理解してからは色々できるようになってね」

「すばらしい。さすがポーロ様のスキルだ。僕らは土魔法が得意だけど、こんな融通の利いた事は出来ないよ」

「メル、石でド~ンってできるよ」

「おいおい、頼むから壊さないでくれよ。ちなみに俺はクラフトスキルはまだまだ成長すると思う」

「いや、クラフトスキルだけじゃないよ。君の成長率は異常だよ。短時間でスキルがいくつも増えてるし、レベルや生命力、魔力も何倍にもなってるじゃないか」


 ノエルは『識者の眼』で俺を眺めてあきれた様に肩をすくめる。

 そう、ゴブリンを倒した後でレベルアップしていたようだ。

 投擲術(とうてきじゅつ)、斧術も得ているし、クラフト倉庫もスキルアップしているな。

 ノエルに頭のコブを治療してもらったせいか、治癒魔法もLv0だがスキルに追加されている。


「だけど、まだゴブリンの群れと正面から戦うのは無理だ。数が違いすぎる。今日だって奴らが逃げずに犠牲覚悟で俺に向かってきたら返り討ちにあってた」


 戦いは数だよ、アニキ!って、偉い人も言っていたしな。


「ボクも参加できればいいんだけど森の外に出る事は長老には禁止されてるんだ。集落の回復魔法の使い手は少ないからね」

「なるほどな。だが奴らは危険だ。あのホブゴブリンがたくさん外に出てきたら手がつけられなくなる」


 巨体のゴブリンはホブゴブリンと翻訳されるようだ。

 あれが最後の一体の訳がない。まだどんどん穴からでてくるだろう。


「メルがド~ンってできる!」


 いつの間にか兜を被ったメルがドヤ顔を決めている。


「そうだな。頼りにしてるぞ」

「ほんとはメルも森の外に出るなって長老に言われてたはずなんだけどねぇ」


 今日はメルに助けられたからな。前線に出すわけには行かないが、後方において連絡役ぐらいは頼もう。

 残念ながら俺一人の力だけではどうにもならない。みんなにも知恵や力を貸してもらおう。



────────────

名前 : 鬼界 冬馬

種族 : 人族

状態 : 正常


Lv5

HP : 560 / 560 ( 500+60)

MP : 5030 / 5030 (5000+30)


スキル

 言語理解 Lv3

 環境適応 Lv2

 身体強化 Lv1

 槍術 Lv1

 斧術 Lv1

 投擲術 Lv1

 魔力操作 Lv2

 土魔法 Lv2

 火魔法 Lv2

 風魔法 Lv1

 治癒魔法 Lv0

 工作 LV1

 鍛治 Lv1



継承スキル

 クラフト

  神粘土 Lv2

  精錬 Lv1

  加工 Lv2

  分析 Lv1

  変形 Lv2

  加熱 Lv1

  倉庫 Lv2

  植物知識 Lv1

  生物知識 Lv1

  鉱物知識 Lv1

────────────


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