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1-10 ゴブリンの群れ

火炎放射(フレイムスロワー)!」


 呪句(スペルワード)を唱えると伸ばした手の少し先から炎が噴き出す。

 まるで自分が人間火炎放射器にでもなったかのようだ。炎の長さは3mから4mぐらいだろうか。

 噴き出す炎は、目標になった薪をあぶる。

 そのまま数秒ほどあぶり続けると薪が燃え上がった。


 そう、新たなスキルを得た俺は、戦いに備えて攻撃魔法のテストをしていた。


 うーん、見た目は派手なんだが、射程が短いし、瞬間的な攻撃力は低いな。

 さらに火炎を放射している間、MPを消費し続けるようだし、集中を切らす事もできない。

 本物の火炎放射器は、射程ももっと長いし、ゲル状の燃料を浴びせて火ダルマにする凶悪武器。

 もっとも使う側も火炎放射器に被弾すると自分が火ダルマになるし、恨みを買って集中攻撃されやすいと聞いた。

 ふー、まったく戦場は地獄だぜ。


火炎爆(フレイムブラスト)


 つづいて、もう一つの攻撃呪文を唱える。これは土魔法のストーンブラストの火魔法版だ。

 狙った空間の一点に真赤な光球が発生して巨大化する。巨大化した光球は爆発的に弾けて燃える。

 試し撃ちでは20mほど離れた地面に置いた薪が爆発的に燃え上がる。

 完全に砕けてはいないようなので熱量はともかく、爆発の衝撃はそこまで大きくなさそうだ。

 しかしゴブリンぐらいなら必殺とはいかないまでも無力化できると思う。

 欠点としては光球が巨大化して爆発するプロセスでタイムラグがある点だな。

 コンマ何秒かだが遅れるので、移動する敵に当てるのは難しそうだ。


突風(ウィンドブラスト)


 こちらは風魔法の攻撃呪文だが、殺傷力は高くない。文字どおり、突風で相手を吹き飛ばす。

 倒木にぶち当てたら細い枝が折れたので、ゴブリンぐらいなら転倒間違いなしだろう。

 攻撃呪文としては弱そうだが、使い方次第では有効な呪文だと思う。


 他にも着火、送風、落とし穴などの非攻撃呪文もあるが、戦闘中に使えるものは、この三種と土魔法のストーンブラストの合計四種だろう。

 残念ながら、今ある攻撃魔法には長射程のものがない。

 この世界では魔法の射程は弓に劣るのかもしれない。


 魔法の確認以外にも用意すべきものはある。

 洞窟は迷宮へ繋がっていると思われるので、たいまつの準備は必須だし、作ったばかりの短剣に握りや鞘も作らなくては。

 もう慣れたもので、竹、木、蔦などを材料にクラフトスキルでちゃっちゃと作成する。

 さらに、もしもに備えてかく乱用の道具も作っておこう。


 作ったものや予備の武器をクラフト倉庫に格納すると、用意した竹装備に身を固める。兜は、今必要ないだろう。


 危険に巻き込むことはしたくないから、メルンが姿を現す前に洞窟の確認に行く。


 土壁の家の中に竹製の兜を置く。

 メルンが欲しがるのが予想できたのでメルン用の兜だけは作っておいたものだ。

 兜飾りの立物(たてもの)には『幼』の一字だ。


「喜んでくれるかな?」


 ニヤッと笑うと石槍を手に立ち上がる。

 深刻になると戻れないフラグが立ちそうだから、ここは陽気に出発するのだ。



────────────



 俺は渓谷の洞窟に近づくと、洞窟側の崖の上に登る。崖の上から近付き、身を隠して観察するためだ。

 だが、洞窟の前には予想を超える光景が広がっていた。


「グア、グア、グア」

「「「ゴッゴ、ゴッゴ、ゴッゴ」」」


 そこには十体近くのゴブリンが群れを成しており、更に洞窟から数体のゴブリンが姿を現してきた。


 マズイ、これは手が出せる数ではない。

 洞窟が迷宮につながっているのも確定と見ていいだろう。

 ともかく、ここは一度戻るべきだろう。あの数を相手に無理は出来ない。


 その時、撤退を決断した俺の目にとんでもないものが映る。


「グォ、グォー、グォー」

「ガァ、ガァァー、ガァァー」


 下流方向から三体のゴブリンが洞窟に向かってきていた。

 それはいい。逃げれば問題ない。

 だが、その中の一体は人間並みの体格をしており、さらに肩には蔦で縛られた人間を担いでいた。


「ン、ングー、ングー」


 遠目に縛られた人が暴れる様子が見えた。

 フード付きの上着を着ているため、ここからでは性別まではわからん。


「ガゥ!」


 巨体のゴブリンは、こうるさげに唸ると頭を殴りつける。

 その一発で意識を失ったのだろう。縛られた人のフードから長い黒髪がこぼれる。


 女性だ。それも体格から若い女の可能性が高い。

 もはや撤退の二文字は頭から消えた。

 放置した場合、女性の未来は悲惨なものになる。救出の方法を考えなくては。


 三体のゴブリンの方向へ、できるだけ静かに移動を開始する。

 奴らが合流する前に行動しなくてはならない。


 俺は三体のゴブリンと洞窟前の集団双方を魔法の射程に収める位置に移動すると、兜を取り出して装着する。

 それと同時に魔力循環も始める。可能な限り威力を高めるのだ。


 魔力を十分に練ったところで、腰に下げた袋から作っておいた乾燥した泥団子のようなものを、いくつも取り出す。

 そして身を隠した体勢のまま、複数の泥団子を洞窟前のゴブリン集団に次々と投げる。


「グァ?」


 泥団子は集団の手前に落ちると粉々に砕け、その中に封じられた灰の粉末を巻き上げる。

 そう、ここに来る前に作っていた、かく乱用の煙幕だ。

 スキルで細かく粉末化された焚き火の灰は空中に舞い上がり周囲を黒く染める。


「ウィンドブラスト」


 囁くように小さく唱えた呪句にも関わらず、練られた魔力で生み出された強烈な突風は煙幕とともにゴブリン集団を襲う。


「グガァァ、グガァァ!」

「グォォー、グォォー!」


 ゴブリン集団の多くは突風により転げ、そうでないものも眼の周りをかきむしる。


 よし!一時的だが、集団側のゴブリンの視力は奪った。

 これでゴブリン集団はしばらく無力化できるだろう。


 一つだけ残していた煙幕団子を巨体のゴブリンに向けて投げる。

 煙幕団子は狙い通りに三体のゴブリンの手前に落ちて煙幕を張る。


 俺は、それを確認すると、石槍を握って崖の上から滑り降りる。

 絶壁ではなく斜面に近いから出来た芸当だが、竹防具がゴリゴリと音を立てて削れる。


 俺が川原に降りると、ちょうど巨体のゴブリンが肩の人間を投げ捨てたところだった。


「この野郎!女性は大事に扱え!」

「グオオオオ!」


 普通のゴブリン二体は眼をこすっていたが、どうやら巨体の方はあまり効果が無かったようだ。怒りに燃えて叫びを上げている。

 だが、まだ距離がある。女性を担いでいなければ、こっちのもんだ。


「フレイムブラスト!」


 ドーンという音と共に、爆発的に燃え上がる火炎が巨体の頭を包む。


「グアァァ!」


 顔を抑えてもだえ苦しむ巨体のゴブリン。

 その腹に全力で走りこんできた俺の槍が突き刺さる。


「グォォォォォ……」


 奴は断末魔の叫び声を上げると、ゆっくりと倒れていく。

 これで正面の敵は残り二体。奴らは視力を回復しかけている。

 石槍を抜いている暇はないとあきらめ、左手を右腕に添える初期型魔力循環ポーズをとる。


「ストーンブラスト!」


 大量の石が地面から吹き飛ばされ二体のゴブリンを襲う。

 丹田のチャクラ回転法を覚えた今、同じポーズでも、その効果は比べ物にならない。


「ガァァ!」

「グェ!」


 石によって打ち据えられた二体のゴブリンたちに向かって走る。

 俺は腰から石斧を抜き、奴らの脳天をかち割った。


 だが、洞窟前のゴブリン集団も体勢を立て直しつつある。

 すでに何体かは武器を構えて威嚇しているが、一人で突っ込んでくる勇気は無いようだ。

 こちらも油断無く斧を構えながら、魔力循環を行う。


「フレイムブラスト!」


 練った魔力で放った魔法は、先ほどの巨体ゴブリンを倒した時よりも大きな炎を生み出す。


 炎は近付き始めていたゴブリンの先頭の一体を焼き、ゴブリンは悲鳴を上げながら絶命する。


「グギャァァァ!」

「「「!!!」」」」

「「「ゲェーゲェーゲェー!」」」


 それを見た残りのゴブリンは悲鳴のような叫びをあげて、洞窟へと逃げていく。


「ふう、助かった」


 正直、奴らが犠牲を厭わずに一斉にかかってこられたらヤバかった。

 必要以上に魔力を込めた炎でビビるのに賭けたのだが、成功しなければ袋叩きだったかもしれない。

 だが気を抜いてる暇はない。女性とおぼしき人を担いで逃げよう。


「きれいな黒髪だ……」


 近くで見ると放り投げられた女性は若く少女のように見えた。

 肌は泥と血に汚れているが地の色は白く、長い黒髪は艶やかで綺麗なストレートだ。

 美しい髪の一部も血で汚れてるのが非常に痛々しい。

 そんな事を考えながら倒れた少女を覗き込む俺の後頭部を衝撃が襲う。


「ぐがっ!」


 後頭部を打った石が地面に転がると共に俺も地面に倒れこむ。

 薄れそうになる意識を必死に繋ぎ留め、四つん這い状態のまま背後へ目をやる。

 そこでは腹に槍を刺したままの状態で、頭を真っ黒に(ただ)れさせた巨体のゴブリンが立ち上がっていた。


 マズイ、マズイ、マズイ、気は焦るが四肢に力が入らない。

 脳を揺らされてフラフラの状態では魔法を使うこともできない。


石撃(ストーンブラスト)~」


 突然、飛来してきた石が巨体のゴブリンの頭を打ち、奴は崩れ落ちる。

 声の方向、断崖の潅木の間から『幼』の一字がのぞいていた。


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