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99話

白い寝間着を着たランディの髪は、令嬢らしからぬ程に短い。人族国家スウォィンツェ国の貴族の女は髪を長くすることが嗜みとされている。嘗て見た絵姿では、ランディの髪も綺麗に伸ばされ見事な細工の髪飾りで頭を飾っていたのをレイは思い出していた。

髪は今や、ナイフで適当に切ったのがわかる程ざんばらで長さも肩に着かない。

その姿が、ランディの覚悟の強さを知らしめてた。


「俺は君の事、名前しか知らなかった。それはそっちも同じはずだよね? 何で会ったことの無い相手にそこまで尽くせるの」

「……えっと、…………」


レイの声音は固い。感情に振り回されてとはカルロに弁明を受けたが、それでもランディはレイにとって大切な義兄であるアイヴィスに殺意を向けた敵という認識でしかない。

ランディはレイの詰問に視線をさ迷わせて口を閉ざした。

しかしレイの射抜くような視線にぎゅうっと胸の前で拳を握りしめて顔をあげる。


「その…お会いするのは初めてですが、私が一方的に姿を拝見したことは、あります」

「いつ?」

「最初は六年前です。それ以降も拝見することがありましたが、最後はレイアーノ様が魔王討伐に向かわれる前日です」


ランディの長兄は文系を多く排出している血筋にしては珍しく騎士団に所属していた。

兄弟の中では仲のよかった長兄にただの会いに行ったのは気紛れ。当時は騎士団なんて乱暴者の集まりとしか思っていなかった。

しかしそこで、自分と年の変わらない少年が騎士団員と混じって剣を奮う様子を見て考えが変わった。

この世界で、実は黒髪は珍しい。その類い稀な色を持つ華奢な少年が己よりも身体の大きな相手を倒していく様は圧巻だった。

目を奪われたランディは、久しぶりに会う兄に挨拶もそこそこに少年の名前を尋ねた。


「私がレイアーノ様の名を知ったのは、婚約するより前の事です。

……私はずっと、貴方とお話ししてみたかった」

「……何故?」


ささやかな願望に、レイはつい質問してしまった。

ランディは気を悪くする様子も見せずにきゅっと唇を噛む。

そして、小さく、呟くようにして言葉を紡いだ。


「貴方が、ーー貴方の目が、当時の私と似ているような気がしたからです」


まるで、人形のような、全てを諦め絶望を宿す、あの瞳が。

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