98話
猫のようにしなやかな動きで下の露台へ飛び降りたレイは、痛みに小さく身体を丸めて踞るランディの背中に向けて声を掛けた。
「ねえ、…大丈夫?」
「ヒェ!? あ、だ、大丈夫、でフッ…!」
あ、噛んだ、と思ったが、それより前にランディが口を両手で覆って涙目になる。
…………。うん。
「根っからのドジ属性か…」
「よ、よく言われます……」
言われちゃうのかー。
まさかの周知のドジっ娘だとは思わず、これでよく叛逆軍を率いてここにたどり着いたものだと感心した。ーーが、瞬時に、いや、カルロが上手くフォローしてたんだろうなと撤回する。何せ一癖も二癖もある聖騎士団長の補佐をしていた彼だ。それとなく転倒を阻止したりなどは訳無いだろう。
ぶつけた頭を撫でつつ、ランディは困惑しきりの表情でノロノロと立ち上がった。
「あ、あの…私に何か御用でしたか…?」
「ん。いや…」
偶々見つけて声を掛けただけ、とは何となく言い辛くてレイが口籠っていると、ランディは不思議そうに瞬きをして部屋の中へと促す。
「あの、宜しければ、中にお入りになりませんか? お茶でも…」
「え? あーううん。すぐに戻るから。窓も開けっぱなしだし」
レイが遠慮して辞退すると、あからさまに肩を落とす。
「そうですか……」
「…………ん。またの機会に頼むね」
「! は、はい!!」
パアッと顔を明るくさせて大きく頷く姿に、レイは予てより気になっていたことを口にした。
「ねえ、…なんで、そんなに俺のことを慕ってくれてるの?」
顔合わせもしたことの無い、名ばかりの婚約者のことを。




