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97話

カルロの話では、ランディが先導して引き連れてきた数は凡そ三千。連れてきてこそいないが他にも雲隠れした民もいるらしいのだが、これは人族国家の正規軍の大半であった。

元々ランディは公爵家の令嬢だが、婚約関係にあった勇者ーーレイの事だーーの足手まといにならぬように、聖騎士団副団長カルロの指南のもと剣術と魔法の鍛練を積み重ねてきたのだと言う。直向きに学びを乞うランディの姿勢に感化され、一月も立たぬうちに騎士団員は殆どが彼女に対して友好的になった。その結果が、今回の離反にほぼ全員が大挙して従う結果となったのだから、ランディの人心掌握の才は目を見張るものがあるといえる。

補足だが、ランディの固有魔法は光で、彼女自身それに準えたかのような見事な黄金の髪の持ち主であったことから影で『黄金色の戦乙女』と言われているそうだがーー本人は露知らず。

ランディに付き従って国境を越えてきた騎士団たちは魔都の近くに待機しているそうで、アイヴィスが許可したことによりリティスを除いた親衛隊がカルロと共に呼びに向かったのであと二、三時間程で合流するだろう。

代表としてカルロたちを連れて現れたランディだが、城を目前として敬愛する勇者の敵がここにいるのかと助けを求めに来たはずなのにごちゃごちゃと考えていたら最終的には脳が許容範囲を越えたらしい。いきなりプツンと理性が切れて本人もよくわからないままに暴走した、というのが今回の襲撃の顛末だったそうだ。

因みに我に帰ったランディはというと、己の過ちに非常に後悔してアイヴィスに綺麗な土下座で謝罪したのだから、本当は素直な良い子なのだろう。一部始終を見ていた淳たちが、後ろで異世界にも土下座ってあるんだーと現実逃避していたが。




☆☆☆



待機していた叛逆軍の面々が到着し、代表者を交えて今後の対策を練るとアイヴィスが重役たちを集めて会議を開くこととなった。

レイたちは今取れる行動はないことからとアイヴィスに先に休むように進められてそそくさと自室に下がった。

部屋に備え付けられている湯殿で簡単に汗を流したレイは、淳と入れ違いで厚手の羽織を持って湯冷ましを兼ねて露台に出る。

窓を開けば冬特有のキンと肌を刺す冷たい風が吹き込んできた。反射的に身体を小さくして耐えたレイは、持っていた羽織に袖を通しながら外へ出た。

レイの部屋からは街並みの明かりがよく見える。灯された明かりの数だけ住まう人がいることを思えば、何故か感慨深くなった。

ふと、レイは下の階を身を乗り出して覗き込んだ。

レイたちの部屋の下は客室となっていて、使う者はいない。

しかし。

いないはずの客室の露台に、三角座りーー所謂体操座りをして心ここに非ずなランディの姿があった。

ランディも湯上がりなのだろう。男装も兼ねていた軍服を脱いで白い寝間着を着ていた。つまりはネグリジェなのだが、疎いレイはネグリジェとワンピースの違いが曖昧だ。寝る時に着るか否かでしょ、とその通りなのだが気遣いにかけた見解をしている。この場に淳がいたなら、寝巻き姿の女性には気を使えと叱っていたことだろう。実際、この後リティスに嫁入り前のお嬢さんの寝間着姿を見るのは失礼ですよ、とお叱りを受けるのだが、余談である。

ランディは上着も羽織らず薄着のままだ。寒いだろうにじっと前を睨むように見て、真っ直ぐ姿勢を伸ばしている。

考え事でもしているのだろうか、とレイは声を掛けることを躊躇ったが、このままでは風邪を引きそうだし見つけてしまった以上見て見ぬ振りはできなかった。


「ーーねえ、上着着ないと風邪引くよ」

「!!?」


突然声を掛けられたランディは立ち上がろうとして、ーー盛大に寝間着の裾を踏んづけた。


「あ」


そして姿勢を建て直すことなく露台の柵に頭を強打。悶えて踞った。

原因となったレイは、唖然となりながらも小さく謝罪を述べた。


「えっと…ごめん」


果たして謝罪が痛みに呻いていたランディの耳に届いたかは、謎である。


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