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96話

カチンッ、と茶器が小さな音を立てた。


「さて。そろそろお前たちの事情を聴かせてもらおうか?」


アイヴィスは麗しい微笑で先を促す。痺れを切らしたな、と隣でクッキーを頬張るレイは他人事だ。

カルロは冷徹さを感じさせる笑みを浮かべるアイヴィスに若干の恐怖を抱きつつも、話し出す機会を伺ってきたのでありがたく乗っかった。


「…そうですね。ーー事の発端は、国王、ルーカスの正式な開戦宣言から始まります」

「「ーーー!?」」


レイとアイヴィスは揃って息を飲んだ。

前々から不穏な行動を繰り返していたが、ここに来て大々的な戦争の開始の発表である。時期早々とは思っていたが、あまりにも突然だ。

突拍子もない、それどころか計画性のない行動に驚けばいいのか、呆れればいいのか。

魔族領はこれから本格的な真冬の時期となる。領内でも地域によっては寒暖差が激しいが、それが人族領と比べればかなりの差となる。人族領は滅多に雪が降らない、比較的暖冬の分類にあるが、魔族領はその真逆。降雪は大人の腰ほどまで降り積もることがある程の厳しい寒さに見舞われる。暖かい冬に慣れている人族にとって、冬の進軍は不利でしかなく、苦行であることは簡単に想像がつく。

それなのに時期を誤ったとしか思えない開戦宣言。カルロたちですら納得の行く理由を得られず反発した国王の思惑が読めなかった。


「…考えすぎなのかな。なんか、とんでもないことをやらかしそうな気がしてならないんだけど」

「いや、俺もそう思う。…道徳に反したことを仕出かしていそうだな」


人を人とは思わない獣。

レイとアイヴィスが抱く人族の国王、ルーカスの感想は一致していた。


「もしかしたら、村の襲撃に使っていた魔法の改良と魔道具による大量使用が可能になったのかも。

…フィンに頼んで調べた方がいいかな」

「そうだな…頼めるか?」

「ん」


さくさくと対策を練る義兄弟二人に、カルロは本当に仲良くなったな、と苦笑を漏らす。


「そして、ランディ様をお連れした理由ですが…彼女は不穏な戦争に民の命が失われることを嘆き、戦争が始まる前に魔族と同盟を結ばんと提案した、ーーまあ言わば私たちの旗印、になりますね」

「ほう。その割にはアイヴィスに啖呵を切っていたようだが」


高みの見物を決め込んでいたディアがからかい混じりに口を挟む。

カルロは頬を掻きながら肩を竦めた。その表情は、苦笑半分、微笑ましい半分と言ったところだった。


「それは、まあ、あれですよ。恋する乙女の暴走と言うか…」

「「ああ……」」

「ん?」


アイヴィスとディアは納得し、死んだ魚の目で椅子に背中を預けた。わかっていないのはレイだけだ。


ーー誰だって、自分が恋しい人を殺した相手が目の前で微笑を称えていたら、目的を忘れて殺意の一つも抱くだろう、きっと。

大変長らくお待たせいたしました…!!

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