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93話

上階ではレイの爆弾発言による騒ぎ。下階ではランディとカルロがーー一方的だが言い争いをしていて、魔族側の衛兵が止めようと間に入り、更に騒動が発展している。

なにこの展開、とレイが脳内逃避を始めた時、傍観者に徹していたディアがポツリと呟いた。


「五月蝿いのぅ……」


ヒエッっと悲鳴を飲んだのは誰だったか。

不機嫌を隠そうともしないディア(母)の重低音に、子供たち(仮)は肝を冷やし背筋を震わせて、一斉に姿勢を正した。

因みに、さてどうやって止めようかと頭を悩ませていたアイヴィスは、危険を察知して早々に無言で端へと避難をし、レイたちに迎えられている。危険察知能力の高さは随一である。

すぅ……っとディアは徐に手を伸ばす。

そして。


ピカーーーーッ‼


閃光という攻撃がランディたちを襲った。


「ギャーー⁉ 目がっ目がぁ⁉」

「っ⁉ 目眩ましですか……!」

「何で我々も攻撃対象にーー⁉」


思わぬ攻撃に巻き添えになった衛兵の悲鳴に、レイとアイヴィスが沈痛の表情を浮かべて胸を押さえる。


「…………無差別攻撃とはこの事だな」

「ん。そうだね……」


淳たちにいたっては「あ、ジ○リの某有名なシーンだ」、と呆けたことを考えていたりする。

一部、健気な衛兵が被害にあったが、概ねディアの策通りに騒動は強制的に収まった。


「はて。それでお主ら。ここへ何用じゃ」

「「「その前に攻撃に対する謝罪は無しかーー⁉」」」

「無駄に言い争っておったお主らが悪い」


はんっ!と鼻で笑ったディア(しかし無表情である。彼女の表情筋は年に数回しか働かないのだろうか)が、腰に手を当てて断言した。


「時間は有限じゃ。儂らは長命である故、些細じゃが、お主らはそうではない。一刻も時間は無駄にするでないわ」


そう言って衣を翻して室内へ戻るディアの背中を見送ったレイたちは同時に一言。


「「「お母さん……カッコいい……」」」

「いえ、あの、え? 何故お母さん? 家族なんですか⁉」

「いやー……そもそも種族が異なりますし」


子供たち(仮)の母に対する謎の賛辞にランディが叫び、カルロが困惑気味に回答する、が、混乱の渦に叩き込んだ当人たちは早々ディアに軽鴨宜しく後を着いていってしまった。

最後の良心、アイヴィスは深く溜め息を吐いて、ランディたちを見下ろす。


「……取り敢えず、立ち話もなんだ。中へ入っておいで」

「「「はあ……」」」


襲撃者なのに、敵陣、敵の大将であることを忘れ、ただ頷くしかなかった。


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