90話
バルコニーに肘をついたレイは、ランディに構わず、眼鏡をかけた優男風の聖騎士団副団長に話し掛ける。
「カルロおじさんは何やってるの?」
「「「おじさん⁉」」」
何気無く口にした呼称に、何故か召喚者組が盛大に驚いた。
「え、何?」
きょとんとするレイに淳が代表していやいやいや、と手と首を振る。
「いや、お前、あの人におじさんはないわっ! 見た感じ二十代だろ⁉」
後ろでうんうん、と頷く友人たちに、一人事実を知るレイは遠い目をした。
「ああ……違うよ。あの人、確かに見た目は二十代にしか見えないけど、実年齢は四捨五入すると五十に近いから」
一同に衝撃が走る。
「嘘だ⁉ どう見たって大学生ぐらい……っ」
「あーうん。聖騎士団員の上層部は、皆若作りっていうか……うん」
「うん。時に、何故四捨五入した?」
騒ぐ召喚者組たちに、冷静なアイヴィスが適当な相槌を打つ。
更にディアが便乗した。
「ふむ……。あやつがおじさんなら……儂らはなんじゃろうな」
「「「」」」
その場にいた全員が硬直する。
長命である魔族は見た目に反して百歳越えが多いが、アイヴィス、ディア、リティス、アルカナにいたっては千年はゆうに越えて生きているわけで。ーー先祖、とか言えるわけがない。
やっべ、地雷かも、とレイは内心冷や汗を掻いた。
因みにその間侵入者はそっちのけだ。
アイヴィスまでもボケに回り、終いには石像化してしまったので、最終突っ込み役のリティスが軌道修正を図る。
「アイヴィス様、ディア様、レイ。敵を放置するのはよしてください」
「「「あ、はい」」」
にっこりと微笑むリティスの目が笑っていない。
レイとアイヴィス、ディアが瞬時に謝罪を入れたのは仕方がないだろう。
隣で、流石はお姉さま、とアルカナが目をキラキラさせて賛辞する。
近頃の力関係が合間見える一小間であった。
カルロは下からそのやり取りを見て、ポカンと口を開けて呆けた表情を隠せない。
「なんと言うか……仲良くなりましたねぇ」
「…………それで、質問の回答は?」
小さく咳払いをして取り繕ったレイは再度カルロに視線を落とした。
カルロは苦笑して先ずはと軽く頭を下げる。
「そうですね……取り敢えず先に、ご挨拶を申し上げる。
僕ーーいや、失礼、私はスウォィンツェ王国の聖騎士団にて元騎士団長の地位についておりました、カルロ・モーグルと申します。
隣にいるのは聖騎士団所属の魔導師兼副団長のルイス・ホーク
……戦場以外でお会いするのは初めてですね、魔王アイヴィス殿」
「そうだな。現、聖騎士団団長、カルロ。
まさか親しげに話し掛けられるとは思わなかったぞ。
ーー用件を聞こうか」
戦場で何度も剣と魔法を交えた間柄だ。
一触即発な雰囲気に、周囲に緊張感が走る。
ごくり、と息を飲む声が聞こえた。
そして。
「ふ」
「っ、」
「「「ハハハハハハハッ!」」」
急に笑いだした二人に、一同目を白黒させるしかなかった。




