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88話

平和な時間は長くは続かなかった。


レイたちが襲撃の報告を受けたのは、微睡みからなんとか抜け出た昼餉の時刻のこと。

例に漏れず、腹の虫で起きたレイの第一声「お腹、空いた……」に全員が苦笑し、仲良く食堂に向かっていた。


食堂とは、アイヴィス専用に作られた王が食事をする部屋の事ではなく、騎士や文官、給士たちが食事をする場の事である。

一緒に戦う仲間なんだし、交流は深めておいた方がいいんじゃない?と、戦略的な意味合いで発言したレイに、嘗て微笑ましい義兄弟のやり取りに和んでいた部下の面々は常々仲良くしたいと思っていた。その結果、我々と仲良くしようと努力してくださってる……!と方向違いの見解をした彼らは案に飛び付く勢いで賛成。正しい意味で言葉を受け取ったはずなのに、従者たちの心中も把握してしまったアイヴィスが、まあ、意見自体は一致しているし、いいか、と若干真顔で同意。ディアたちと召喚者組も同様である。

ーー悲しい(第三者的には愉快この上ない)すれ違いであった。


途中でアイヴィスと連立っていたリティスと合流し、和気藹々と食堂へ向かう。


その時だ。腹の底に響く轟音が響いたのは。


ドオォォォォンッ‼


「⁉ 何?」

「え、何? 何⁉」

「何か爆発した?」


騒ぎ出す召喚者組。

対照的に異世界組はというと慣れた様子で分析、結論も早々に出した。


「敵襲のようだな」

「ええ。ですが……外、ですね」

「レイの時はどうでしたの?」

「俺に聞くの……。……俺の時は、無駄な戦闘を省くために王の間までは気配を消して入ったけど……」

「ふむ。戦いの基本じゃな。後で人が集まると面倒じゃが、将を先に打てば組織は麻痺するものじゃしの」

「まさかの余裕⁉」


衝撃を受ける淳に、レイたちは顔を見合わせ一言異口同音に答える。


「「「城の中はおろか、外で騒ぎを起こしている時点で三流/だしね/だからな/じゃからの/ですから/ですもの/」」」

「「「あ、そうですか……」」」


余裕綽々で断言して移動を開始したレイたちに、召喚者組は頼もしいと思えばいいのか、呆れればいいのかわからなくなった。

もっとも、レイたちが狼狽える様子を見せないのは、『魔力感知』で相手の人数と力量を図った上でのこと。

特にディアと、彼女に『霧瞳視(むとうし)』を習ったレイは、侵入者の現状が見えていた。


数は三人。

一人猛然と魔法を行使し剣を振るっているが、残りの二人は、何故か戦う意思がないようにも見える。

流石に抜刀はしているが、攻撃を往なすだけで反撃に転じる様子がない。


ーーというか、


「……あの二人、聖騎士団の副団長……?」


レイの疑問の声はあまりにも小さくて周りには聞こえていなかった。




門前を一望出来る真正面の二階の露台。

そこで一先ず様子を見ることになった。ーー部下たちに危険だと追いやられたとも言う。

侵入者を改めて見ると、嘗ての寄せ集めチームであったレイたちと歴然の差があった。

レイたちのチームが侵入したのは玉座のある王の間で、しかも魔王アイヴィスと対峙している。

一方、目の前で戦闘を繰り広げている面々は、王城へ入る門を潜ったところで騎士団員ーーではなく、門番相手に悪戦苦闘していた。……実力が無さすぎる。


先陣を切っていた金髪の少年が、こちらに気がついた。

レイの存在をばれるのは不味いと、アイヴィスが何気ない動作でレイを物陰に押しやる。

意図を理解して、レイは素直に隠れる。


少年は露台にリティスを従えて立つアイヴィスをキッと睨み付けて指を突きつけた。


「その異常なまでの美貌……魔王アイヴィスだな⁉」

「…………誉められた?」

「誉め言葉だと理解してないですよ、あれ」


美貌で獲物を特定するって何だ。

呆れて思わず半眼になるレイたち。

少年は讐敵に向かって宣言する。


「嘗て貴様に殺された先の勇者の仇、ここで討たせて貰うぞ‼」

「「「…………………………は?」」」


アイヴィスとリティスが物陰のレイの方向へ視線を向けた。

レイを囲んで隠れていた召喚者組は、疑問符を浮かべながらレイを見やる。

そしてレイも、自分を指差して目を瞬かせた。

ことん、と首を傾げる。


「……………………俺?」


特大の疑問符を浮かべ、見知らぬ筈の自称勇者を見下ろすしかなかった。


ただ、一つ言おう。


死んでいない。

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