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83話

淳がアイヴィスに抱えられた状態で、隣にいたはずのレイがいないことに気が付いた。

その視線を受け、次いでアイヴィスが気付き、何処に行ったのかと困惑しながら勢いよく顔を上げる。

レイは直ぐに見つかった。

地割れの亀裂が到達していない、しかし確実にそこへ向かうであろう場所。安全なんて、数分の猶予しかない危険な場所に、レイはいた。

衝撃で声を上げることも出来ず、慌てて立ち上がろうとするが、それよりも先に他の面々も気付いて次々に叫び出す。


「な、何であんな場所に……⁉」

「レイ! そこから離れなさい‼」

「レイくん! レイくん‼」

「何やってるんだ、斎賀‼ 早くこっちにーー」


駆けつけようとするも、魔力不足による体力の低下と酷い地震により足を前へ進ませんことが出来ない。

地割れは大きな音を立て、奈落を作りながら突き進む。真っ直ぐに、待ち構えるようにして立つレイの元へ。

アイヴィスは、必死の形相で叫び、走り出した。


「レイーー‼」


レイの足元まで、亀裂が到達するまで残り五メートル。

ピクリと、弛緩していた腕が微かに動いた。

残り四メートル。

表情の無いレイの目が、亀裂を捉えた。

残り三メートル。

ふらりと、身体が崩れ落ちーー否、膝をついた。

残り二メートル。

アイヴィスの手が、レイに向かって伸ばされる。

残り一メートル。

レイの指が、割れていない土に触れた。

残りゼロメートル。

指に、亀裂が到達した。

ーーと同時に。


ふっ、と。表現するならこうだろうか。

音もなく、忽然と。

目の前で起きていた地割れという災厄が、今まさにレイを飲み込もうとしていた現象が、『消えた』。


「えっ、…………?」


思わず、といった体で漏れた言葉は、全員の心中を代弁していただろう。

それこそ、掻き消えた、というか、出来事そのものを抹消されたというか。当事者からしてみれば漠然としない異常な現象だったのだから。

茫然と目の前で起きた出来事をのみ込めないでいると、それを成したであろうレイの身体がゆっくりと弛緩し、横に倒れ込んだ。


「っ、レイ!」


我に帰ったアイヴィスを先頭に全員が駆け寄る。

抱き起こしたがレイはピクリともしない。不安が過る一同に、ノエルが恐慌を滲ませる声音で止めを刺す。

彼女だけは、獣人族故に発達した耳が、的確にレイの現状を把握してしまっていた。


「の、のう……息を、しとらんぞ……」

「「「!!?」」」


アイヴィスが口元に手を当てて呼吸を確かめる。

ディアが手を取って手首に指を当てて脈を取った。


アイヴィスの口から、苦悶の悲鳴染みた声が漏れる。


「レイ……どうして……っ!」


回復魔法を、と思うが、ここにいるのは魔力が枯渇した集団ばかりだ。全員が魔法を行使してもレイを蘇生させるほどの魔力回復は難しいだろう。


何か、何か手はないのか。


焦燥ばかりが募る。

その時、アルカナが一つの活路を見出だした。


「ーー……っ! 義兄様っ」


アルカナは真っ直ぐそれを指差す。


「神湖ーー神湖の水底へ……!」


それだけが、最後の希望。

喪わないための、唯一の手段。

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