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82話

縦に揺れたのか横に揺れたのかもわからないほどのあまりに大きな揺れに、不意打ちを食らった面々は衝撃に立っていられず膝をついたり倒れ込んでしまった。

殆ど眠っていたレイは、驚きでアイヴィスの腕に庇われながら完全に目を覚まして目を見開く。

直感だが、今の地震はただの地震ではない。噴火とも違う。でも、確信があった。神山の噴火と同様に、不吉なもの。

レイの勘が、叫ぶ。


何かが、崩れ、ずれたのだと。



ビシッ。

それを最初に視認したのはアルカナだった。

ビシッ、ビシビシッ……ーー。

全員が、繰り返される音に、発生源であろう場所に、視線を向ける。

ズズズズズズズ……ーー‼


地面が、ひび割れた。

表現するならその一言だ。

目の前で、ゆっくりと、しかし確実に地面がそこの見えない溝を広げていく。

地割れだ。それも、大規模の。

恐慌状態になった女子たちが悲鳴染みた叫び声を上げる。


「えっ、えっ⁉ 何で⁉」

「待ってよ、早い……!」


地割れは大きな音と揺れを立てながらジグザグに、しかしある方向へ真っ直ぐ進んでいく。

ーー魔都へ向かって。

突然の事態に周囲が雑然とする中、唯一、ディアだけは、この急に起こった現象が何であるのが見当がついてしまった。

喘ぐように、震える口で声を絞り出す。


「しまった……。無理に未来を変えたことで、『歴史修正機能』が働いたのか……!」

「『歴史修正機能』……⁉」


ディアは簡潔に早口で、捲し立てるように解説をする。


「本来ならば、定められた未来が変わることはない。しかしそれが何らかの形で覆られた場合、世界がその間違った歴史を修正しようと別の形で歴史を正そうとする。それが『歴史修正機能』じゃ」


この世界に、地球におけるパラレルワールドの考えはない。

世界が道筋を決め、定められた未来を筋書き通りに進んでいく。

決めつけられた、一本の道を。


つまりだ。

この残酷な世界は。

運命は。


魔都の存在を、否定したのだ。


レイは、アイヴィスは、その身勝手な道標に激昂し叫ぶ。


「ふざけるな……!」

「こんな……俺たちの未来を勝手に決めつけるなんてっ」


どうしたらいい。

どうすれば。


この場にいる全員が、殆ど魔力が底を尽き掛けている。魔法は使えない。

アイヴィスが『思念伝達』で魔都にいる部下に決死の指示を出す。

リティスが少しでも地割れを止めようと地属性の精霊に呼び掛けた。

ディアも、地を司る神族に連絡を取ろうと魔力を振り絞っている。

レイは思考を巡らせた。

自分は、魔力が完全に尽きている自分は、何が出来る。

何か手は。

この事態を解決させる策はないのか。


『ーーーーーー』


焦りで頭の中が滅茶苦茶になっている時、あの日聞こえた声が、囁いた。


『貴方は、持っているでしょう?』

『この理不尽な運命を覆す手段を』

『ふざけた宿命(さだめ)を、』


女が、遠くで笑う。


『※※※する、力を』


レイの世界から、音が消えた。

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