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81話

疲労で座り込みたい意思を捩じ伏せ、よたよたとしながら余力のある淳の手を支えに、帰り用にと設置しておいた『拠点移動魔方陣』の元へゆっくりと歩く。

あまりにもふらふら、プルプルしているので、女子組からは生まれたての小鹿みたい……と萌えさせていたのだが、余談である。

『拠点移動魔法陣』は、術師の認証を得た者が微量の魔力を通すことで作動する移動手段だ。

前以て入り口と出口を専用の魔法陣で繋ぐことで発動するのだが、確実に全員を転移させる魔力は残らないと判断したディアが作戦の前に準備していたのである。

これのお陰で眠気を訴える身体を叱咤して馬に乗らずにすんだので大助かりだ。ちなみに、馬車の可能性もあったが、縦揺れで録に睡眠が取れないことは明白だったのでレイが全力で拒絶した。単なる我儘である。


魔法陣を設置したのは悪用されることも考え、念の為街から少し離れた場所で、街から魔都側の神山の麓、麓から魔都へ繋ぐようにしてあった。

その時点で既にレイの意識は夢に両足を突っ込みそうだったのだが、ディアの微弱な電流によって強制的に起こされていたのは二人しか知らないことである。

一度目の『拠点移動魔法』を行った先で、中継役となっていたノエルがレイたちの帰還を今か今かと待ち構えていた。


「大儀であったの、そなたら」

「…………あのさぁ」


ふらり、と俯き加減だったレイがゆっくりと顔を上げた。

その顔は、魔力不足の影響で血の気が引いて青白く、なのに異様な程目付きが鋭く爛々と怒りに燃えている。


「俺らは兎も角……アイヴィスたちに対してその口の聞き方はなんな訳……?」


最早前後不覚の状態になりつつある強烈な睡魔により、顔付きが悪鬼も逃げ出すような凶悪なものとなっているレイの一睨みに、ノエルはブルリと大きく身体を震わせて慌てて謝罪した。


「す、すまぬ! えっと、神山の噴火による被害を抑えてくれたこと、テオ様に代わってお礼を申し上げる。本当に、なんと礼を申したらよいか……」

「ふむ。……その礼は後日にしてくれんかの」

「……正直、早くレイを休ませないと倒れそうだしな」

「いえ、もう半分寝てますが」

「ですわね……」


喋ったことで力尽きたレイは、リティスとアルカナが言ったようにすっかり脱力して近くにあった岩に身体を投げ出して休んでしまっている。アイヴィスたちは、あーあ……と疲れた表情で肩を落とした。


「む……そうか……そうじゃの。では後日、礼に伺うが、宜しいかの」

「そうしてくれ」


連絡は後日するとアイヴィスの締め括りにより、ノエルは残念そうにしながらも諦めたようだ。

集団の中では一番余力と力があったアイヴィスがレイを抱き上げ、『拠点移動魔法陣』を踏む。

その時だ、ノエルが何かに反応した。


「!!?」


びくりと息を飲んで獣の耳をピクピクと動かすノエルに、アイヴィスたちが驚いて彼女を凝視する。

寝惚け眼のレイが何……? と顔を上げたところで、それは起きた。


ズズンーーッ


身体が、縦に大きく揺れた。

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