8話
久しぶりに投稿しました……。
アイヴィス視点の戦争を始めた切っ掛けの語りになります。
そもそもの発端は数千年ほど前……いや、俺以外にとっては最近の話しだったか、と静かに語り出す。
ある日人族の国王は国境付近の魔族の村で、一人の女と出会った。豊かに実った麦の穂のように黄金に輝く髪、夏の空を閉じ込めた青い瞳の美しい女性だったそうだ。
国王は女に一目惚れし、財力を屈指して口説いたそうだ。
しかし女はすでに既婚者であり、腹にはまだ目立っていなかったが子供もいたという。
それでも諦めきれない国王は愚行を働く。軍を動かし、村を襲撃させたのだ。
村人と一緒に夫である男は嬲り殺しにされ、最早顔での認証は難しかったと聞く。
村の女や子供たちは一ヶ所に集められ、国王の前に戦利品として差し出された。そのとき女ははじめて知ったのだ。村を滅ぼした者が、自分を求婚してきた男で、人族の国王だと。
ーー自分の最愛を殺した、忌むべき殺人者だと。
国王はこの世の至福だと言わんばかりの笑顔で女を見た。これで自分のものだ。誰にも渡すものかと、狂気すら浮かべて。
だが、女としてはごめんだろう。
なんせ自分の夫を殺した輩で、今腹にいる子供もいずれ殺すだろうなんてわかりきった国王のものになんか、なりたくもないさ。
女はその頃、臨月を迎え大きく膨れた腹を撫でた。
女は強い魔力の持ち主だった。
そもそも魔族は魔力と美しさが比例する。傾国の美しさを持つ女の力がどれ程のものだったかなんで考えるまでもないだろう。
……女はその場で、自身の全魔力をもって魔術を行使した。それはまだ見ぬ愛する子供に全ての魔力と記憶の継承、子供の安全を図るための転移術。
……そこまでの大掛かりの術を行使すれば魔力は尽き、術者は死ぬ。国王は亡骸を抱くしかできない。これは女が示した最大の復讐だった。
女の目論見は成功。子供は逃がされ、女は死という形で国王の手に渡ることはなかった。
国王は狂っていても真剣に女を愛していたのだろう。……怒りは、世界と、人族以外の全てに向けられた。
理不尽な怒りで無関係なものたちを無慈悲に弑虐していく中、当然立ち向かうものが出てくる。
それが魔王たる俺と神族のディア。精霊族のリリカナだ。
話はこんなものか……。うん? 随分と詳しいとな?
ふふふ……。それはそうだろう。俺は全てを知っている。生まれ持つはずだった魔力に加え、母の魔力を継ぎ、絶望と憤怒の記憶を受け継いだ俺だからな。
ーーそう。
俺こそが女が守って生き延びた子供。過去に飛ばされ、人族の国王に復讐を願われた哀れな子供なのさ。




