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78話

掌が、全身が熱い。

熱風に晒され、皮膚が焼き爛れていくのがわかる。

視界斜めに入るアイヴィスとディアは表情一つ変えずに淡々と魔法行使に努めているというのに、自分はこの低落。

情けない、とレイは内心、自分に毒突いた。

ふと、背中越しに仄かに温もりを感じる。

なに、と振り向く前に、手の火傷傷が瞬く間に癒えていく。

フィンの治癒魔法だ。


「フィン」

『気にするだけ無駄ですよ。相手は死滅の始祖王と神の頂点。元勇者といえ、人である貴方が彼等との力に歴然の差があるのは仕方の無いことです』


心を読まれた上での叱咤激励ーー周囲の音がうるさいせいでもあるだろうがーーに、レイはぱちりと瞬きをする。


「えっと」

「そうだな。魔力保有量は俺とディアは通常に比べても規格外なのは知っているだろう? 何を気にする必要がある」

「うむ。神族と魔族の長として余裕を見せんとの。……ここまで大した仕事をしとらんしの」

「言うな、それを……」


フィンの言葉に対する二人の賛助に、レイはポカンと間抜け面を晒した。

いや、なにもしてなくないよね、とか、この前に色々騒動があったよね、ノエルをしばいたり、とか。

言いたいことは色々とあったが。

二人の気遣いが嬉しかった。

アイヴィスはレイの気持ちが少し浮上したのを察して、更に柔らかな笑顔で言葉を紡ぐ。


「それに、お前が本領を発揮するのはこの後だろう?」

「そうじゃの。頼りにしておるぞ」


レイは思わず苦笑してしまった。

励まし、というか発破をかけられたというか、脅迫染みているというか。

ようは、頑張れ、ということを言っているのだ、この二人は。


「……ん。任せて」


人間、頼られるとやる気が出てくるというもので、単純ながらもレイもまた、その思惑に乗ってしまうのだ。

レイはしっかりと前を見据え、魔法に集中するのだった。


しかし、現状はそう甘くはなかった。



噴火は本来、一日で終わるものではない。

それを雪月花に付与した魔法で強制的に断続させずに継続させているのだ。

理由としては、長期戦が望ましくないことが一つ挙げられる。

魔王アイヴィスが魔都を離れている状況は、この戦争時、大変に宜しくないことだ。もし人族が急に攻め込んできたりでもしたら、親衛隊の一部も此方に掛かりきりのため、戦力が半減するどころではない。

同じ理由として、人員不足もある。

現在はレイたちに、召喚者組を加えた面々で抑えているが、その魔力は延々に持つものではない。


現に。


十時間を経過し、召喚者組は一人残らず魔力の枯渇が原因で、駆けつけた街に配属されている騎士たちと交代せざるを得なくなっていた。

そして、レイはおろか、アイヴィスとディアでさえも、疲労が隠せず汗が苦痛を滲ませる顔の顎の先から滴り落ちるようになっている。

本当ならば、ここで治癒や回復魔法を得意とする精霊を呼び出したいところなのだ。

だが、それが憚られる事情があってどうしても二の足を踏む。

噴火対策を海上で行うことは全員が納得したことだが、一つ問題点がある。

どうしても被害を最大限に押さえるために陸から遠く離れた沖でやる必要があった。

安全を最優先とした行為は、しかし山脈があったとしても天に届くほど高く上がった水柱のせいで人族の領地からも視認出来るようになってしまったのだ。

流石に米粒ほどの影の一つが魔王アイヴィスだと気付かないだろうが、それでも混乱に乗じた襲撃の機会だと人族が動かぬとは限らない。

その為、一番の近道であり、その際軍が侵攻する時に必ず通らなければならない『暗黒の森』に、上位精霊たちを配備するしかなかったのだ。

その中には攻撃魔法が得意な五大精霊の残りの三体も含まれていて、増援は見込めない。

では中位、下位精霊はどうかと言えば、彼らはそもそも神山から発せられる魔力の強さにそもそも近寄ることが出来ないのだった。

レイは歯を食い縛り、顔を歪める。


万事休すかーー。


魔力が底をついてきた影響で視界が霞む中、レイの両手に添えられる二つの手があった。

長くなるので途中で区切ります。

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