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77話

レイたちは直ぐ様所定の配置へ着いた。

商業都市『プロスペリテ』の海岸に精霊王リリカナの姿となったリティスとアルカナが。

海上には無駄な魔力の使用を押さえるため、呼び出しに応じた五大精霊の一柱、フィンの風の力を受けたレイ、アイヴィス、ディアが大きな三角を描くように待機した。

召喚者組は念の為の余波や津波対策として、一部残った親衛隊員と共に横一列に並んで、一枚板の結界を形成、待ち構えている。

思いの外重要な配置であるのだが、レイたちに比べると安全地帯な為その実感が薄いようだ。あとは指揮官が言葉巧みに操作していたせいでもある。詰まる所レイの誘導のせいだった。しかも理由が修行の一貫。質が悪かった。

レイは自分の斜め後ろに待機するフィンに視線を向ける。


「ありがとう、来てくれて」

『礼には及びません。むしろ、このまま蚊帳の外にされるのかとひやひやしてましたわ』


ふふふ、と楽しげに笑うフィンに、レイは肩を竦めた。


「本当はこんな予定じゃなかったんだ……」

『ですわね。アルカナに聞いております。まあ、こうなってしまった以上は、仕方の無いことですしね』

「ん……」


フィンに宥められて、渋々といった体で諦めて頷く。

不意に、ノエルを経由した『思念伝達』により、テオの現状報告がなされた。


「『報告じゃ。四半刻後、噴火が起きるとのテオ様が察知なされた。全員、準備はよいかの?』」

「『えーっと、レイくんや、四半刻って何でしょう?』」

「『……一刻は約二時間。四半刻はその四分の一。三十分ぐらいだよ』」


あと、ふざけて君付けすんな。

重々しい雰囲気を払拭しようと、淳が敢えて軽口を叩きながら質問をする。

それを察したレイも、苦笑を滲ませて返事をするものだから、緊張でがちがちになっていた召喚者組は少し肩から力を抜いた。


「『大丈夫。皆はもしもの時の保険だから、固くならなくて良い。……むしろ俺たちが責任重大だし』」

「『こらこら。お前が暗くなってどうする』」


ずーん、と沈み込んでしまったレイに、空かさずアイヴィスの突っ込みが入る。


「『お主ら、お喋りをしている場合ではないじゃろうに。そろそろ魔法の準備をせんか』」

「「『了解、お母さん』」」

「『遊ぶでないわ』」

「「『はーい』」」

「『……わざわざ思念伝達でする会話ではありませんわよね』」

「『アルカナ、しっ!』」


悪ふざけをする義兄弟に、ディア(はは)の叱責が飛ぶ。

それにアルカナが的確な感想を口にするが、リティスが嗜めた。

危機感の無い異世界組に召喚者組は呆れながらも完全に力を抜く。

途中から故意にではなく素で遊びだしていたレイだったが、功を奏したかとうっすらと笑顔を浮かべた。

魔法を使う際、身体に余計な力が入っていれば無駄に魔力を消費する上、精神的にも長くは持たない。アイヴィスとディアが乗ってくれてよかったと視線を向ければ、二人とも肩を竦めたり微笑を返したりと反応を見せたので、どうやら意図的だったようだ。

楽しげに『思念伝達』で会話をするレイたちに、ノエルが呆れた声で苦言を告げる。


「『……無駄に魔力を消費しておらんかの、そなたら……』」

「「「『あっ』」」」


ばっと全員が口を押さえて口を噤ぐんだ。


予定時刻十数分前から、五大精霊の地の大精霊 アランから、リティスに向けて地中深くに大きな揺れを感じると申告があった。

五分前、遂にレイの指揮の下、号令が掛かる。


「『リズ姉、アルカナ、結界を展開』」

「『了解/ですわ』」


リティスとアルカナは最初に海底から上空にかけて二本の柱を作成。それを引き伸ばし、二枚が重なりあった大きな結界を構築した。そして徐々に両端を接合させたまま外に湾曲させる。これは内側に海洋生物を閉じ込めずに外へ逃がすための処置だ。

次に召喚者組と親衛隊が大きな板状の結界を展開する。

この時点で、既にテオが予想した噴火予定時間の一分前だった。

深く深呼吸をしたレイが、前を見据えて手を前に突き出す。


「『ーー皆、準備は良い? ……来るよ』」


レイの合図と同時に神山を中心に海面までもが大きく揺れた。

地響きと共にレイたちは魔方陣を描き魔法を発動する。

そして。

それは始まった。

ドオンという腹の底まで響く轟音に、噴き出すマグマ。海水に晒されたというのにとてつもない高温の蒸気が肌を焼く。

想像以上の威力であった。


「っ……‼」


表情が苦悶に染まる。

レイたちは魔法の強化に勤めるしかなかった。




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