74話
レイにとっても、リティスが全力を出せないことが最大の問題であった。
魂に残った力だけでもそれなりの力を使えるが、“リリカナ”が宿ってしまった“リティス”の身体では精霊王の魔力に堪えうることが出来ない。下手をすれば体内からも体外からも崩壊しかねないのだ。
正しく諸刃の剣である。
だが、火山の噴火を止めるということは即ち、大袈裟に言うならば惑星に干渉するに等しい行為。その大それた行為を成すには、並外れた魔力の持ち主が出来るだけ多く欲しかった。
その状態で、リティスの魔力不足は大きな痛手だった。
しかし、テオの存在で光明がさした。
テオは精霊の集合体。では、精霊王であったリティスの魔力と同調することが出来るであろう可能性。
つまり。
雪月花を依り代に、精霊王を顕現することが、可能なのではないかーー。
レイの掲げた策に、一同は言葉を噤んだ。
ある者は驚きで。
ある者は本当に可能なのかという疑念と不安で。
「ーーそうだね、『魂魄顕現』とでも付与しようか。付与した雪月花にリズ姉が依り憑けば、多少は劣るかもしれないけど、精霊王としての力を奮えると思うんだ」
雪月花に付与された『魂魄顕現』により、魂に刻まれた精霊王としての役割と魔力を引き出すことが出来れば、問題となっていた魔力不足が解消される。
しかし、それには当然危険を伴う。
「雪月花に宿るのはわかったが……それでは今、使っている“リティス”の身体が死んでしまうのではないか?」
「そうじゃの。ここは敢えて、装備するだけの方がよくないかの」
「ん……最初は俺もそう思ったんだけど」
アイヴィスとディアの意見に、レイはふるふると首を振った。
「装備しただけで『魂魄顕現』をした場合、例え身体を守るための付与を行ったとしても、完全に影響を残さずにいられるとは思わないよ。それに、下手な付与をすれば、力が半減、振り出しに戻る」
「………………しかしだな」
渋るアイヴィスだが、当人であるリティスが覚悟を胸に前に進み出る。
「私は構いません。レイの策に、賛成です」
「リティス……!」
驚愕が混じった抗議の声に、リティスは力強い光を宿した瞳でアイヴィスと目を合わせる。
「ここで尻込みしても、何も解決しません。だったら、レイが最善を考えて熟考した策に乗るべきだと思うのです」
「…………しかし」
「それに、私の魂が抜けた状態の身体のことについても、レイはちゃんと考えているようですし」
ねえ、と微笑みを浮かべてレイに向き直ったリティスに、頷くことで答えた。
「ん。リズ姉が身体を留守にしている間、身体を『異空間収納』で保護する」
「『異空間収納』って……どういうことですの?」
聞き手に回っていたアルカナの問いに、レイは実際に『異空間収納』を開いて説明する。
「お昼に、『異空間収納』に入れていた弁当を食べたでしょう? あれ、出来立ての状態のまま潰れたりとかすることなく保たれていたよね。それってつまり、『異空間』の中では時間の流れが存在しないってことじゃないの」
ディアに伺いの眼差しを向ければ、深く溜め息を吐いて、稍あって肯定した。
「そうじゃ。……本来『異空間収納』は時空魔法に属する。一歩間違えれば理を曲げることに成りかねんから説明を渋っておったんじゃがの」
「ん。逆にあそこまで説明を拒否られれば悟るよね」
「逆効果……」
肩を落とす(しかし表情は鉄壁の無表情)ディアに、アイヴィスが非難の目を向けた。
そうこう言っている間に、リティスが覚悟を決めてしまったことでレイの策が決行されることがほぼ本決まりになりつつあった。
アイヴィスたちもわかってはいるのだ。
例え危険を犯してでも。どんなに拒絶しても。
ーー時間に猶予はないのだから。
渋々自分を納得させ、深い溜め息を吐いたアイヴィスとディアを見て、レイは作戦の本決まりを告げた。
「じゃあ、俺が考えた策で行こう。ーー止めるよ、絶対に」
ここに、自然災害という脅威との戦いが幕を開ける。
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