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71話

テオはレイたちに対して真摯だった。

懸命に山の存続を願い、人との共存を望んで、人でしかないレイたちにもちゃんと礼節を取る。

その魂の在り方が、高潔な精神が、ーーとても好ましいと思った。


「……出来ることは、限られているけど、それでもいいなら、手を貸すよ」

「レイ⁉」


レイの決断に、アイヴィスから非難の声が飛ぶ。

優しすぎるアイヴィスの事だ。きっとレイたちは避難させて、自分と配下のみで対応しようと考えていたのだろう。

しかし、レイにだって大切な人を身を呈してでも守りたいと思う意思がある。


力が、あるのだ。


「魔力の底上げ、回復……その他諸々で俺の力は必要になるはずだよ。それとも、自分と部下の何人かが犠牲になってでも俺たちを関わらせないつもりだった?」

「それは……」


アイヴィスが言い淀んだ。

図星だったと、レイは怒りを露にする。


「俺はアイヴィスに危険から遠ざけて庇護される程弱くないよ。一緒に戦えるぐらいには力がある。なのに守られて安全な場所でアイヴィスたちの無事を祈るだけとか、真っ平御免だ‼ ……俺だって、家族や友達を守りたいよ……」


不遇な幼少期を送っていたレイにとって、アイヴィスたちのいる魔族領こそが古郷だ。

そしてその古郷には、本来敵である人族で勇者だったレイを受け入れてくれた優しい人たちが住んでいる掛け替えのない場所。


守りたいと、願う人たちがいる居場所。


「少しは頼ってよ。そもそも、火山の噴火なんて状況で戦力が避難させようなんて、身内の憂慮をしている場合じゃないでしょ」


一蓮托生、でしょ。


不適に笑ったレイに、アイヴィスは逡巡する様子を見せたが、何を言っても無駄かと深く溜め息を吐いた。


「……全く……兄心を理解してくれない……」

「お互い様でしょ。アイヴィスが家族を守りたいって思うなら、弟の俺だって同じ心胸だって理解してくれないと」


ふふ、と顔を見合わせた二人は、最善を尽くすために可能性の鍵を握るテオに向き直る。


「それで、具体的な解決策はあるのか?」

「今まではどうやって押さえ込んでたの? 参考になるかも」

「ああ、そうだ。先に念の為、山に住まうーー生命体を避難させた方がいいか」

「生命体って。纏め方が雑だよ」

「いや……他に良い単語が思い付かなくて……」

「……アイヴィス、地味にさっきの俺の発言に対して、動揺を浮き彫りにしてるね……?」

「みなまで言うか、お前……」


切り替えの早いレイとアイヴィスは、テオに質問をして案を練ったり、指示を出してノエルの拘束を解かせたりと行動を開始した。その際、少しのじゃれあいを入れながらだったのはご愛敬だ。

レイとアイヴィスの行動力に目を瞬かせたテオだが、頼もしいばかりだと表情を綻ばせ、自分が持つ情報を提示した。

雪月花の異常開花はテオの判断だったようで、実行はノエルが行っていた。花を媒介に噴火を抑制させていたのだという。

しかし地下深部で発生したマグマに干渉することは難しく、せいぜい今日まで遅らせるのが限界だったそうだ。


「『雪月花に鎮静の魔方陣を刻んで効果を山に浸透させていたのですが……。口惜しいことですが、私の力だけでは噴火自体を抑えることが出来ず……』だそうじゃ」

「……ちょっと、待ってくれる」


テオの説明に、レイは疑問を覚えた。


「刻むって、付与のことだよね? 山神の眷花だとしても、花に可能なの?」


付与に使われるものは、精霊が宿らない物質と認識されている。例えば鉱石や衣服などの繊維である。

花といえば精霊の多くが宿る印象があるが、雪月花は別なのだろうかとレイは疑問に思ったのだ。

レイの質問に、ノエルが大きく瞬きをした。


「む? なんじゃ、しらなんだか」


ノエルは自分の足元に咲く雪月花を指差し、衝撃の事実を告げる。


「これは、植物に非ず。そなたたちも名だけは知っておるだろうが……これは鉱石。シュテルクスト鉱石の原石じゃ」

「「「はあ⁉」」」


花が花じゃなかった。


その衝撃的発言に、レイたちは絶句せざるを得なかった。


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