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69話

神山が噴火する。

レイとアイヴィスが導きだした答えに、周囲は騒然とする。


「噴火って……マジで⁉」

「本当なの? レイくん……」


次々と詰め寄られ、レイは表情を暗くしたまま小さく首を動かして頷いた。


「神山と滅び。そのキーワードから考えられる事象は、それしか……」

「そんな……!」

「え、ちょ、それが本当だとすると、逃げないと」

「何処へ?」


レイは漸く顔を上げる。

そして緩く首を振って現実を突き付けた。


「火山が噴火した場合、溶岩流、火砕流、火山灰など、様々な被害が発生する。その中でも火砕流は足で逃げられる速度ではないし、どれ程の範囲に被害が及ぶのかわからない……。そもそも、魔族領の限られた領土の、何処に逃げるの」


この季節に吹く風の方向を考えれば、確実に王都と神湖の方向へ火山灰は向かうだろうことは想像するに容易い。

溶岩流と火砕流においてはどちらへ方向を向けるのか検討もつかないが、アイヴィスの母が止めて欲しいと願ったことが答えなのだろう。未来で生まれる我が子に願うほどに被害が拡大する場所。多くの人口が集い、その住まう人たちの財産たる家がある場所。それは、一つしかない。ーー王都と、隣接する神湖だ。

もう一つ、彼女は言っていた。

時間がないと。

つまり、噴火は何時かまでは不明だが、今日、発生するのではーー?


「噴火自体を阻止する方法はないのか?」

「そ、そうだよ! この世界には地球と違って魔法があるじゃない‼」

「無理じゃろう」


朝比奈の言葉に皆川が顔を明るくさせるが、ディアが否定する。


「神山が、何故神の山と言われておるのか、知っておるか? 個の命を持たぬのに、膨大な魔力を宿しておるからじゃ」

「えっとぉ……それの何が問題なんですかぁ?」


瀬名が胸の前で小さく挙手した。

それにリティスが解答する。


「神山が宿す魔力は、それこそアイヴィス様やディア様には敵いません。ですが通常の魔族や神族の魔力と比較すると、かなりの差があります」

「……どれぐらい……?」

「……軍の精鋭、千人が全力で魔力を放出しても、足りないでしょう」


絶望的な数字に、召喚者組は言葉を失った。

その間、一人頭をフル回転させるレイは、徐に懐からスマホを取り出した。


「レイ……? 何すんの?」


目敏く様子に気が付いた淳が覗き込む。

横顔を晒すレイの目は、諦めていなかった。


「噴火の具体的な仕組みが知りたくて」

「……異世界だし、ネット繋がってねえよ?」


現に淳たちのスマホはネットに接続できない。

レイは顔も上げずに操作を続けて言った。


「俺のは、大丈夫。ディアの創った特別使用だから」

「「「スマホがチート仕様……‼」」」


異世界にいても使えるスマホってなんだよ……と淳が頭を抱えるのを横目で見ながら、レイは目的のページを開く。

噴火は、地表に近づくにつれ、重力などの圧が減り、膨張したマグマが噴き出すことで発生する。

ーーでは重力魔法を使うのはどうか?

ーー否、その場凌ぎにしかならないだろう。

レイは瞬時に考えを否定した。

魔力が枯渇すれば振り出しに戻るしかないし、鉱石に付与して効果を持続させようにも、神山なんて呼ばれる程の膨大な魔力を持つ土地だ。鉱石に込められた魔力もすぐに底を尽きることは明白である。

では、今打てる最善策とはーー?


そして、さ迷わせた目で、雪月花と地面ーー神山を見た。

可能性としてはーー。


「ノエル、起きてる?」

「うえ⁉ お、起きておるが……?」


噴火の件を聞いた辺りから逃げ出そうとして、しかし縄で拘束されていてじたばたしていたノエルが石像よろしく動きを止めた。


「雪月花が今年開花したのはいつだか、正確に知っている?」

「……丁度、一週間前じゃが……」


命の感じさせない、死の季節である冬にのみ咲く雪月花。

開花の条件となっているのは、何か。


「雪月花は、神山の魔力を具現化している……?」

「どういうことだ?」


アイヴィスがレイの立てた予測に眉をひそめた。

レイは目を合わせて、多分、と前置きをする。


「真冬、神山の魔力を帯びて育った草木が枯れ果てた後に唯一咲くのが雪月花。近くに来てみてわかったけど、雪月花の保有魔力量は神山と全く同質のもので、花にしては桁違いすぎる。それどころか、リズ姉に張るほどの魔力量だよね」


神体を失っているとはいえ、精霊王である、リティスと。


アルカナが確かに、と呟いて雪月花に視線を落とす。


「雪月花は、確かに他の草木とは違って魔力量が異常ですわね。それに、その土地で育った草木と言えど、ここまで神山と同質の魔力を持つものかしら……?」

「ん。ここからは、俺が立てた仮説ね」


レイはスマホの電源を落とし、胸に押し付けて皆の顔を見渡した。


「雪月花は神山の守護。全ての命が枯れる草木と入れ替わりに花開き、何かから守っている」


膨大な魔力は、感じ取れるものの恐怖を煽る。

恐らく神山の余波を受けた強い魔力を放つ草木が、侵略者たる神山の敵から守っているのだ。

例えば竜などの大型の種族から。

神山に暮らす小さき命を守るために。

まるで意思があるかのような現象だ。

仮説と現象によって浮上する、一つの可能性が、ある。


「雪月花には、神山の守護、……えーっと、山神って言ったらいい? が、宿っているんじゃない?」


そう言って、視線を向けた先で、雪月花が強く発光した。




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