60話
珍しいな、とリティスは剣を構えながら視線をレイに向けた。勿論警戒も怠らない。
何が珍しいって、レイが先導して攻撃を仕掛けていることがだ。
レイが風魔法で雪月花に当たらないように女の上半身を狙って威嚇し、隙が出たところで接近するのは危険と判断したアイヴィスが、殺傷力のある氷の刃を広範囲に放つ。
女はどうやら土魔法を得意とするようで、先程から魔法を展開しようとしてレイの『光効無奏』による妨害にあって失敗していた。何度か実験と称した披露はしていたものの、実戦では今日が初使用であるのに本番に強い、一度で成功させた。なんて心強いことか。
長年の相棒かのように息の合った連携を見せるレイとアイヴィス。戦闘中という状況ながら、どこか二人とも楽しそうだ。口元が笑みを象っている。
一方、攻撃無法を悉く無効化され、防戦を強いられている女は苛つきで固く歯を食い縛った。長い髪で隠れ表情はよく見えないが、覗く目は爛々と怒りで血走っている。
次の手が来るならばそろそろか、とリティスは一人腰を落としてその時に備えた。
アイヴィスは、今までにない戦いやすさに舌を巻いた。
相方が戦いやすいように頃合いを見計らい、絶妙な頃合いで補佐をする。簡単に見えて難しい匙加減に、女は翻弄され、逆にアイヴィスにとっては戦いやすい戦況へ持ち込まれていた。
アイヴィスはにぃ、と口角を上げる。
ーーああ、なんて心地好いことか。
次から次へと攻撃の手段を絶たれ、いよいよ後の無い女は、本気の魔力弾を放った。
しかしレイがお得意の結界であっさり回避。それどころか、アルカナにも使った『反鏡結界』で魔力弾を跳ね返した。跳ね返った攻撃は女の不意を着いて着弾。結界を張る余裕すらなかった女はその場に膝を着いて崩れ落ちた。
だが、戦意はまだ失われていない。
女の身体が大きく震えたのを確認したレイとアイヴィスは剣を構えた。
女は地面に手を着いて空気が震動するほどの魔力を浸透させる。
ーーが、なにも起こらない。
驚愕した様子で手を離した女の耳に、不適な声が届いた。
「残念ながら、これ以上の土魔法の使用は禁止させてもらいます」
こちらも、地面に手を着いていたリティスが魔法を行使させていた。首で揺れている金色と宵色の石が魔力を帯びて淡く輝いている。
レイとアイヴィスの魔力でそれぞれ付加してある鉱石を用いた、此方も新しく開発された魔法、『鏡界壁離』。水魔法を一枚の板状の結界として展開、聖属性魔法で強化し、アイヴィスの闇魔法が無効化する。本来なら術者の前に展開するものだが、リティスはそれを地中に展開し、女の魔法講師を阻害することに用いた。精霊王としての知識のある彼女ならではの活用法だろう。
「これで、雪月花の保護も完了しました。……そろそろ詰み、ですね」
にこりと微笑むリティスに、どういうわけかレイとアイヴィスが顔を青ざめた。
なんせ、近くに立っていたからこそ分かる冷気を存分に肌で感じてしまったので……。
ーーリズ姉/リティス、怒ってる……‼
アイヴィスが首を絞められた時点で静かに怒り狂っていたリティスの本気を見てしまったレイとアイヴィスは、実は彼女に任せるべきだったとちょっと後悔した。
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