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58話

くるり、くるり。

真っ白な衣服の裾を優雅に詰まんで可憐に踊るように回る。

ふわり、ふわり。

金の髪が動きに合わせて緩やかに背中で揺れた。

無邪気に、でも幽艶に。

美しすぎる女は、その顔に微笑を称えながら雪月花の花の中で綺麗な歌声に乗せて唄う。


死滅の魔王に似た、その顔で。


「誰、だ?」


アイヴィスの固い声がレイたちを現実に引き戻した。

しかし答えるものは居らず、女の歌声が響くのみ。

そして。

いつの間に距離を詰めていたのか、一瞬で眼前に立った女はゆるりと微笑んで白い繊手を伸ばした。


アイヴィスの、頚に。


「ーーッ!?」

「アイヴィス‼」

「アイヴィス様……っ」


女がアイヴィスの頚を締め上げる光景を見て短い悲鳴とも取れる焦りの声が上がった。

レイたちはアイヴィスから女を引き離そうと駆け寄るが、バチンッと音を立てて弾かれる。


「結界……⁉」

「このっ……‼」


レイが顔を怒りに染め、異空間収納で持ち運びしていた神聖霊剣『フライハイト』を抜刀した。

しかし、結界を破壊するために振り上げられた剣は、中途半端な位置で制止することになる。


ふふふ、ふふふーー。


直接脳に笑声が、愉悦を含んで響く。

『肉体強化』の魔法を使うも、ギリギリと頚に食い込まんと力が込められる指。魔法により微塵も効果がなく、全く脅威ではないにせよ、流石に自分を嗤いながら害そうとする相手にアイヴィスは不快さと腹正しさを覚えて女の腹部に魔力弾を放とうと掌を向けた。

ーーだが、それよりも早く動く影があった。

愉しそうに、嬉しそうに嗤う女。

その横面に、ーー何者かによる蹴りという物理攻撃が炸裂した。


「ギャッ⁉」


短い悲鳴と共に女の身体が雪月花の海に吹っ飛ばされて転がっていく。距離にして、おおよそ五m程。


「「「へ…………?」」」


ぽかん、と全員が動きを止め、間抜け面を晒す中、アイヴィスの危機を救った相手にぎこちなく視線を向ける。

相手はすぐに判明した。何せ強烈な蹴りを繰り出したディアが、未だに勇ましく片足を空に浮かべたまま目を据わらせて女を睨み付けていたので。


「………………」


ディアが蹴りを繰り出したのはわかった。女が吹き飛ぶほどの威力と、ディアと女の身長差から考えるに、どう考えても助走をつけての跳び蹴りをしたんだな、とも。

レイとアイヴィス、リティスの兄弟(役)は母(役)の暴動に頬を引き攣らせた。だってまさかの蹴り。それも得体の知れない女の横面に、魔法ではなく助走で威力倍増した情け容赦なしの跳び蹴りを繰り出したのだ。横面にだ。大事なことなので二回言ったが、同姓だからといって許される行動ではないだろう。多分。………………いや、敵だから良いのかもしれない、うん、むしろよくやってくれた。ディア万歳。ーーと思い始めてしまった彼等も最早同罪である。そもそも、蹴りの印象が強すぎて、先に剣を抜刀したり魔力弾を撃とうとした自分たちの事は完全に棚上げだ。

結論からいって、似た者同士な家族(設定)である。

そんな掌を返した彼らの内心をを知らない召喚者組はというと、(皆の心のお兄ちゃん)アイヴィスを救ったディアの勇姿に歓声を上げた。


「流石‼」

「すごい、ディアさん! お見事‼」

「惚れ惚れする蹴りでした‼」

「カッコいい! 一生着いて行きます‼」


……主に、女子会によって仲良くなった女子たちよる歓声であったが。女子たちがディア色一色に染まりそうで少し不安を感じるレイであった。

声援を受けたディアはというと、ふと、唇を笑みに型どった。ーー無表情が標準装備の彼女が。

どよ、っと表情筋が生きてた、だと……⁉ 的な意味合いが込められた顔で驚きに目を見開いた。

ディアは普段の鉄壁の無表情は何処へ行ったのか、綺麗な微笑を称えて敵と認識した女を見下ろす。

「はて。姑息にもアイヴィスによく似た顔に変化して此方の動揺を誘おうとしたようじゃが、残念ながら相手が悪かったの」

整った顔に柔らかな微笑、一切の感情を感じさせない瞳が無機質な人形のような残忍で酷薄な印象を与えている。

「さて、お主が今危害を加えたのは、儂にとっては長い付き合いの旧友での。ついでに一年前からはこの子らの母親のような役どころも担っておる。ーーでじゃ。その儂が、お主の悪行を、許すと思うてか?」


倒れ込んだままだった女がふらりと身体を起こした。その顔は怒りで歪み、瞳が血走っている。

ディアは化けの皮が剥がれつつある女に小さく嘲笑した。

淡い藤色の瞳を細める。


「覚悟せよ。我が子らを傷つけようとした罪、その身を持って償わせてくれるわ」


うっすらと微かに笑い言い放ったディアは、正しく神代から生きる神の一柱としての威厳に満ちていた。


一方。

我が子ら発言をされたレイたち(義)兄弟たちは顔を覆って身体を震わせていた。

ーー主に感動で。


お母さんカッコいい……!


声に出さなかったからいいものの、出していたら完全に空気ぶち壊しである。しかも敵前であるのにだ。


本当に家族大好き連中が揃ったものであるーー。

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