56話
さてと、とレイは前置きをして、箸を皿の上に置き姿勢を正してから和やかな団欒を中断させた。
「お行儀悪いけど、これから先、何があるか分からないし現在位置の把握と進路確認をしておこう」
「「「それ、フラグじゃ……」」」
「ーーはい。地図に注視ください」
「「「流された⁉」」」
淳たちの一斉の突っ込みに、レイは一瞬、あ、やば、と焦りを見せたが、何事もなかったかのように表情を取り繕い、無理矢理軌道修正を図った。残念ながらその時の表情も、正面に居たアイヴィスしか目撃しなかったため、あっさりと思惑が通ってしまった。主に、「まあ、俺たちが手を貸せば良いしな」と完結させてしまった、義弟を全力で甘やかそうとする兄馬鹿のせいである。
レイは真面目な表情で一枚の紙に書かれた地図を取りだし、輪になって食事を摂っていた皆の中央に広げた。
「今いるのは、丁度この辺り。山の三分の一ぐらいかな。目的地までは今のままの速度で登れば、あと三時間強で着く予定」
レイが指で現在位置と目的地を順に指差す。
アイヴィスが感心した風に腕を組んだ。
「距離を考えれば、随分と早い速度で登ったんだな」
「ん。皆の体力がついてきた証拠。努力が実を結んだ成果だよね」
にこりと微笑むレイに、誉められたと照れ臭そうに表情を綻ばせた召喚者組。諷示に故意に速度を上げていたと言っていることには、生憎とアイヴィスたちしか気付くことはなかった。容赦がない上に義兄に負けず劣らず策士である。
「一応、経路は整備されている道のまま行くつもりだけど……」
ちらり。
視線を向けられたディアが、うむ、と頷いて返した。
「『霧瞳視』で辺りを監視しながら進んでおるが、今のところ引っ掛かるものはないのぉ」
感知魔法『霧瞳視』。魔力を霧状に散布、展開し媒介とすることで周囲の様子を映像で入手出来る『気配感知』よりも遥かに上級の魔法である。熟練の術者なら、直径三、四㎞程の魔法行使が可能だ。因みにディアは軽く直径十㎞を超えている。
「……『霧瞳視』、手透きの時でいいから教えてくれる?」
「うむ。構わんよ」
『霧瞳視』の魔法事態を知らなかったレイが、貪欲に知識を得ようと教授を願い出た。
ディアから快諾を得て、お礼を言いほくほくとした笑顔を見せながら、先へ進める。
「じゃあ、道は予定通りで行こう。予定としては雪月花の群生地の調査からだけど……」
「それで良いと思うが。シュテルクスト鉱石を採掘してからでは、例え異空間収納があるとしても負担になるだろうしな」
「一応高位魔法ですからね。連発しないに限るでしょう」
深く頷いたリティスに、聞き手に回っている召喚者組は大分遠い目をして過去を振り返っていた。
つい先日、魔力の枯渇によってレイが昏倒したことは彼等にとってトラウマそのものである。当の本人が次回は気を付けると宣誓してはいるものの、何時も飄々としている友人が倒れた光景が目に焼き付いて払拭出来ない彼等には慰めにもならなかった。
重くなりつつあった雰囲気に、珍しく空気を読んだ最高齢、ディアが咳払いを一つして関心を引いた。
「ごほん! ……えー、それでじゃ、結局道筋はと予定は計画通りでよいのじゃな?」
「……ん。それで良いと思う。ーー原因が解明できないと、また後日調査に来なくちゃいけないから、出来れば今日、解決出来れば良いけど」
骨折り損になるし。
困ったように眉を八の字にするレイに、アイヴィスが苦笑を漏らす。
「そうだな。俺もそんなに城から離れるわけにはいかないし、出来れば短期解決を願いたいが」
「冬になれば、春までの備蓄問題なども舞い込みますしね。今年は豊作に恵まれて昨年よりはましなのでしょうが」
最近は親衛隊の仕事よりも秘書的な役割も担っているリティスが疲れた表情で肩を落とした。
義兄姉の苦労が偲ばれる声音に、レイは内心で願望を口にする。
どうか、今日中に解決しますように、と。
そして。
数分前に自分で立てたフラグを回収するのが、レイがレイたる所以である。
ーー大いに不本意であるが。
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