55話
所謂レジャーシートに並べられた、数々の重箱に彩り良く詰められた弁当。
シンプルな塩むすびとそぼろと細かく刻んだ野菜を甘く似たものを混ぜ込んだ混ぜご飯のお握り。新鮮な野菜とハム、卵を挟んだサンドウィッチ。おかずには弁当の定番の唐揚げ、ミートボール、鶏肉と豚肉をそれぞれ使った野菜の肉巻き、甘い味付けの玉子焼き、ほうれん草のソテー、根菜の金平、肉じゃが、筑前煮、ブロッコリーと海老、茹で玉子のサラダ等々……興が乗ったレイがここぞとばかりに作りたいものを詰め込んだ豪勢な弁当が振る舞われた。
そして一部、レイの指導を受けながらアイヴィスが腕を振るったと知って、召喚者組は戦慄した。
「料理……っ! 魔王が料理……‼」
「わかってたけど! なんて家庭的な魔王なんだっ!」
「チートだ! この義兄弟ホントにチート‼」
「この人たち私たちをどうしたいの……!」
思い思いに叫ぶクラスメイトにレイは呆れた眼差しを向け、アイヴィスは錯愕して目をパチリと瞬かせた。
「えーっと、俺は何か不味いことでもしたのだろうか……?」
「気にしないで。誉め言葉だから。それにしても滾り過ぎな気もするけど」
溜め息を吐きながら取り皿と箸の準備をするレイに、淳たちは一斉に振り向き握り拳を作る。
「「「だって! 弁当美味しそう‼」」」
「それはどうも」
はい、どーぞ。ご賞味ください。
日本食万歳‼ という福音声が聴こえた気もしたが、軽く流して簡潔に礼を言いながら皿と箸をアイヴィスに渡す。
因みに、アイヴィスたち……というより、この世界では基本的に本来ナイフとフォーク、スプーンの銀食器を使う食文化なのだが、レイたちが来てからというもの、同じように食事をしようと召喚者組に合わせて箸を使おうと地道な練習を重ね、今では器用に箸で食事を出来るようになった。召喚者組が感涙してアイヴィスに抱き付いたのは良い思い出である。
実は淳指導の元仕込んでいた醤油と味噌が解禁になって初めてのちゃんとした和食であったので、召喚者組は嬉々として取り皿に料理を盛り付けていく。
しかも少しも冷めていない、出来立て状態の料理だったため、尚更だ。
異空間収納にしまわれていた弁当は、どういうわけか熱々の料理が冷めることも、氷が水一滴すらも融けない謎の保温、保冷機能がある。
だが、ディアに質問しても無言の睨みあいの応酬で回答を拒否された。異空間内では一体何が起きているのだろうか。
其々が好きに料理を取り、膝の前に置いて手を合わせる。
号令を掛けるのは、レイから視線を受けて苦笑しつつも引き受けたアイヴィスだ。
「では、全員飲み物も行き渡ったな。ーーいただきます」
「「「いただきます‼」」」
全員揃って軽く頭を下げ、一部を除いて一斉に料理にパクリと口をつけた。
そして。
「「「~~~~~~‼」」」
箸を握りしめ、ふるふると身体を震わせ、感動の声を上げた。
「「「うっま!」」」
「美味い……! うっわ、マジで出汁と醤油と味噌って偉大……!」
「うんうん! 肉じゃがも中までしっかり味が染みてて美味しい」
「煮物って、こんなに美味しかったんだな……」
「……肉じゃがに味噌を入ってるのか?」
皆が美味しいと感想を述べる中、朝比奈が箸で馬鈴薯を摘まんだままじっと見ている。
レイは肯定して頷いた。
「ん。こく出しに隠し味程度だけど」
「へえ……美味いな」
朝比奈は感心した風に箸を進める。
こてりと小首を傾けたレイは、まあいいかとアイヴィスたちを見た。
「どう?」
「うん? ああ、美味いよ。出汁、だったか。出汁と食材の味が活かされていて良い味だな」
「ええ。出来上がった色を見て少し不安でしたが、美味しいです」
「ふむ。美味だの。……それにしても、レイ。腕を上げたの」
ほのぼのと食事を進めていたアイヴィスたちはにっこりと微笑んで感想を言う。
「そ。良かった」
口に合わなかったらどうしようと思っていたレイは、好評だとわかってほっと息を吐いて笑った。
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