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51話

場所を執務室から移して応接間である。

大きなソファーの真ん中にアイヴィスが座り、その左右に座ったレイとアルカナがガッチリと彼の腕にしがみついて肩に額を押し付けて俯いていた。

両腕を拘束されたアイヴィスは書類を持つことも出来ず、諦めて魔法で書類と万年筆、御璽印を浮かせて作業を進めている。どんなことがあっても仕事の手を緩めない。部下に負担を掛けまいとする精神が、彼が慕われる理由の一つだろう。

書類を避けた位置に陣取った淳が、やはりスマホを構えて写真を撮って保存した。始終真顔による作業である。

因みに一旦部屋に下がって着替え済みだ。その間たったの五分弱。淳の執念を見た。

朝起きて食事をしようと食堂に向かっていた残りのクラスメイトたちも、途中でレイとアルカナを抱き上げた状態で移動する驚異の腕力を見せたアイヴィスを発見、空腹も忘れて合流した。

そして、代表して梨香が淳に一言。


「速水くん、それ、後でデータ送ってね」

「おうよ」


淳はグッと親指を立てて力強く頷いた。

彼等の間で元の世界に戻ったら撮り貯めた写真を現像し共有、お披露目会を行うことが決定している。勿論、被写体のレイたちには内緒で、だが。ーーレイにはバレていたりするが、提供を条件に見逃されていることは誰も知らない。そしてそう遠くない未来で、大好きな義兄弟と一緒に写っている写真が欲しいと臆面無く言うのだ。つくづくブラコン、シスコンを拗らせすぎである。


閉話休題。


その話は唐突に、ディアから告げられた。


「雪月花が満開に?」


かれこれ一時間程、未だにしがみつかれた状態のアイヴィスがきょとりと首を傾げた。

ちらりと窓の外に視線を向け、ディアに戻す。


「まだ、冬になっていないが……?」

「うむ。真冬になるにはあと二ヶ月は先よの」


腕を組んで頷くディアも、何故そんなことになっているのかと困惑ぎみ(鉄壁の無表情。雰囲気だけが憂いている)だ。


漸く回復の兆しを見せたレイが、アイヴィスの肩に顎を乗せた状態で顔を上げた。


「雪月花って?」

「うん? レイは雪月花を知らないか」


問われ、うん、と声だけで返す。

説明をするのは視線を受けたリティスだ。


「雪月花は、真冬の時期に一週間だけ咲く白い花の事です。神山 ディーオ・プラニナタにだけ咲く花であり、月のような淡い光を放つ事から旅人からは道標の花とも呼ばれていますね」

「他にも、雪月花を煎じた薬は万能の回復薬にもなる事から、薬師なんかには命を繋ぐ花と意味を込めて千年草と呼ぶこともあるそうだよ」


アイヴィスが少々補足を入れ、ディアに先を促す。


「うむ。……その雪月花が異例の開花じゃ。ちいと胸騒ぎがしての。良くない予兆の前触れでなくばよいが」


それ、フラグじゃね? と召喚者組は黙り込んだ。

アイヴィスの腕を離し、手を繋ぐだけに留めたレイが静かに横に首を倒す。


「神山ってことは、アルカナの神体の水源地だよね」

「そうじゃの」

「神山って、確か最高強度を誇る鉱物、シュテルクスト鉱石が採れることで有名だよね」

「そうだな」

「もし雪月花に異常があれば、来年の採取に影響が出て、薬が作れない可能性が出てくるよね」

「そうですね」


アイヴィスたちの返答に、レイはうん、と方針を決めた。


「登山しようか。調査と、シュテルクスト鉱石の採掘をしに」


まるで、ハイキングに行こうとでも言うように、気軽に、あっけらかんと提案する。実際は少々危険が伴われる調査になるだろうと思われるのに、だ。

一同は怪訝そうに声を揃えて叫ぶ。


「「「はあ?」」」


しかし、レイの発言権が思いの外強く、最早決定事項であることを知っている彼等は、無駄な抵抗を秒で諦めざるを得ないのだった。

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