5話
知りたくなかった現実に直面したアイヴィスは、痛む頭を押さえつつ、レイに向き直る。
「レイ、と呼ぶが構わないか?」
レイはこくりと小さな子供のように頷く。
「ではレイ。お前は勇者になりたくないと言ったが、もし勇者でなくなったら今後の人生をどう生きる?」
「今後……?」
「そう、今後だ」
押し付けられた勇者の称号と道筋を歩かせられてきたレイが、普通の生活が出来るとは思いにくい。下手をすれば、自滅する未来しか待っていないだろう。
本来なら、敵である魔王であるアイヴィスが気にすることではない。しかしレイは、死滅の魔王として恐怖の代名詞として恐れられてきた自分に対し怯えもせず、それどころか今までの不満をぶちまけてみせた。沢山の国民や部下に囲まれてはいたが、対等の相手が存在しなかったアイヴィスにとって誰かの愚痴を聞くのははじめての経験である。
そもそもレイは(他称)勇者である。勇者は魔王を討ち滅ぼすことを目的と宿命を一身に負う立場。つまりアイヴィスとレイは似たような孤独を抱えて生きてきたのだ。
ーーそれに、愚痴を聞いていて、この人間面白いな、と興味を持つぐらいには気に入っていた。
自滅阻止を掲げ、アイヴィスはゆっくりと言葉を引き出す。
「今までやりたいことも出来なかったのだろう。なにか無いのか、もし勇者でなくなったら、やっとみたいこと」
「……」
問われたレイはしばらく思考に更けて微動だにもしなかったが、やがて小さな声で呟いた。
「……学校」
「ん?」
「学校に、行ってみたい……」
それは、人間が持つにしては細やかすぎる望みだった。
「城に閉じ込められてたから、勉学は家庭教師に教わってた。 だから、同世代の“友達”に囲まれて、一緒に勉強して、遊んで、……そんな学生生活を送ってみたい」
「……」
レイの生まれ育った国では、勇者を育て上げる教育機関があったはず。それなのに軟禁し、教育を施すとなると、なにか重大な訳がありそうだった。
様々な憶測がよぎるが、アイヴィスはその小さな願いを叶えてやりたかった。
ーーいや、絶対に叶えると決断した。
「ではレイ、俺から一つ提案だ」
「……?」
きょとりと視線と向けたレイに、アイヴィスはにこりと微笑んだ。
「お前、異世界に逃亡する気はあるか?」
「…………………………はぁ‼?」
衝撃な提案内容に、絶句したのは言うまでもない……。
新年明けまし……た。
(何せもう6日)
やっと7連勤が終わりました……
次回辺り、異世界に飛ぶ準備ですかね




