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46話

完全に意識を手放したレイを抱え直し、アイヴィスは深く溜め息を吐いた。

「そういえば、『光天浄界』って高位魔法だったな」

「他にも魔物を打ち落とすのに魔法を連発していましたしね……」

顔を曇らせてリティスが同意する。

最後にディアが重々しく頷いた。

「止めに回復魔法か……うむ、無茶をさせた。すまなんだ」

「「本当に反省しているか/いますか?」」

おちゃらけている風にも取れる言い方に、アイヴィスとリティスが突っ込んだ。

因みにその会話の最中、三人は撤収作業と魔力の底上げを分担して行っていたので、やはり年長者の余裕が見える。

だが、そうでない同年代組+アルカナはレイが倒れたことに激しく動揺、少々収集がつかない事態に発展していた。


「うわぁ、レイ、大丈夫か⁉」

「うわぁん、レイくんが、レイくんがっ……!」

「ど、どうしよう、斎賀くんがっ」

「わ、わたくしが、わたくしが我儘なんか言ったから……」


ーー号泣と動揺の境地に達したことによる放心、興奮状態に陥った彼らに、アイヴィスたち年長者は冷静に一喝。


「「「お前/お主/あなたたち、落ち着け/きなさい」」」

「「「あ、はい」」」


三つの種族の長による覇気の籠った制止の号令に、一発で落ち着きを取り戻した。

ーー冷静ではあったが心配はしていたアイヴィスたちの覇気に、ちょっと怒気が籠められていたので、耐性のない面々が全員、背筋に氷塊が滑り落ちた心地がしたのだが、まあ、余談である。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


食事を摂ればある程度回復できるレイでも、流石に限界まで魔力を使ったことが相当堪えたらしくこんこんと眠っている。

眠りが深いせいかピクリとも微動だにしないレイの寝方に、心配性の淳や梨香たちがずっとそわそわしっぱなしだったのだが、アイヴィスの鶴の一声によって早々に退出させられた。

その際、恨めしそうな視線もあったが、経験値が桁違いの魔王様には些事である。

精霊王であったことにより全属性に適正のあるリティスがレイの回復役を担うことになり、手持ち無沙汰になったアイヴィスとディアはアルカナの神体、神湖クララ・エリクサーの状態を水晶玉に写して検分することにした。

ぼんやりと写し出された映像はやがて明確になり、全貌を明らかにする。

指示した通り、王都の西側の地区に元あったように荘厳な輝きを放つ水を湛えて神湖が出現していた。


「無事に転移出来たようだな」

「ちゃんと言ったであろう」

「レイに怒られて何とかしたんだろうに」


剥れたディア(表情は変わらず。雰囲気だけである)に、アイヴィスは小さく笑った。

しかし、ふと表情を消して真面目な面持ちになる。


「神湖の存在を忘れていたのは失態だったな。水の大精霊 アルカナは他種族との折り合いが悪く接触することが稀だったからうっかりしていた。……よくこの百年も持ったものだ」

「日差しを遮るものがなかったのが大きいの。それに、森とは離れた場所にある神山 ディーオ・プラニナタが水源地だったことも汚染されずに済んだ要因であろう。偶然が重なった奇跡じゃの」


奇跡、と発言した神の一柱であるディアに、アイヴィスはふっ、小さく吹き出した。


「神であるお前が奇跡を口にするとは」

「神とて万能ではないでな。奇跡とも言える事象にすがりたい時もあるのじゃ」

「……そうだな」


類い稀な魔力の持ち主であるアイヴィスであっても、誰かに助けを求めたい瞬間は今までに何度かあった。

そのうちの一つが、レイの帰還によってもたらされた腕の再生。

長引く戦争に、主戦力であり象徴であったアイヴィスの戦線離脱は魔族にとって大打撃だったのだ。それが何者かの意図によって起こった事だとしても、レイの帰還は奇跡そのもの。救いの手だった。

弁明するが、決して、傷を癒してくれたから助かったと思うだけであって、戦力として期待するわけではない。アイヴィスにとってレイは掛け替えの無い弟であり、友だ。彼の力を利用する気は毛頭無い。


「……いっそのこと、神湖を移した辺りに神樹を植え替えるべきなのだろうが……」

「いや、止めた方がよかろう。以前も言ったが、神樹を固定させるということは、リティスの離脱も視野に入れんといけんしの」


神樹とリティスーーリリカナは繋がっている。現在、辛うじて残った神樹に彼女が魔力を注ぐことによって掌程の大きさの植木ではあるが、何とか失わずに済んでいる。それを時間制止の魔法を掛けた瓶の中で保管しているのだが、もし土に植え替えるとしたら、リティスが神樹に引き摺られて人の身体から追い出される可能性があった。

人の身体を失う。つまり神樹を再び神体として活動することを指し、その場から離れられなくなることになる。

戦力が削られることに、ディアが反対意見を出し、リティスが賛同したため先伸ばしになった事案だった。

今となってはアイヴィスも、愛する人が傍にいない状況に耐えきれないので口を紡ぐが、もう一度別の手段を考える必要がありそうだと頭の痛い問題に溜め息を吐く。

問題と言えば、もう一つ。


「結局、レイと五大精霊の契約がされていないな」

「あ」


引っ越しで完全に忘れ去られた五大精霊たちが押し掛けてくるまで、あとーー。

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