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44話

安堵の溜め息を吐く五大精霊たちに、成る程けしかけるためだったかと納得した。

アルカナの葛藤に気が付いていたが、それを解消できるのはリリカナーーリティスだけだと判断した五大精霊たちは、二人が対面する日を待った。

蓋を開けたら第三者による徹底抗戦……基、一方的な毒舌によって何故かいい方向に丸く収まるという結果に終わった。第三者ことレイは納得と同時に盛大な苛つきと五大精霊たちの無能さに呆れた。

端からリティスに丸投げし、話を聞いてやるでもなく放置した結果が今回の暴走だろう。自分の心中を聞いてもらい、相槌を打ってもらうだけでも心の負荷の軽減は図れたはずだ。それをたった一人置き去りにし、勝手に今後の方針を取り決め茅の外に置いた。ーー馬鹿馬鹿しい。どう考えても原因は彼らにあるようにしか思えない。

氷点下の冷たい視線を向けられたアルカナ以外の五大精霊たちは、あたふたと視線を反らし冷や汗を掻く。

レイは一先ず五大精霊に関しては放置を決め込んだ。

後ろで同様の見解に行き着いたアイヴィスとリティスの悪寒を感じる素晴らしい笑顔が目に入ったので、彼らに任せることにしたのだ。どちらに怒られるのがましだったかなどレイには関係無い。絶対に、無い。

レイは服を握り締めて俯くアルカナに、意識して柔らかい声音で話しかけた。


「……アルカナ?」

「…………なん、でしょう」


顔を上げずに涙で掠れた固い声で返答するアルカナにやり過ぎたなと今更ながらに反省する。

しかし過ぎたことを悩んでも後の祭り。レイは優秀な頭をフル回転させて言葉を選んだ。


「これ、ありがとう。ーーそれで、アルカナはどうしたい?」

「……? わたくしは……?」


レイの質問にぐすぐすと鼻を啜りながら漸く顔を上げた。それに内心少しほっとして続ける。


「そう。アルカナの兄姉は契約するって決めたみたいだけど、俺はそれをアルカナに強要するつもりはないんだ」


アルカナはびくりと身体を震わせ、怯えた表情を見せた。

レイは構わず話を進める。


「アルカナはリズ姉……リリカナに戻ってきて欲しい、森を再興させて欲しいっていうのが望みみたいだけど、それは何故?」

「それは……」


言葉を濁すアルカナに、レイは自分の推測を突き付けた。


「もしかしなくても、アルカナは神湖 クララ・エリクサーから離れられない?」

「……! は、い」


やっぱり、と苦い気持ちになる。

風、炎は兎も角として、土と木の五大精霊は、おそらく神体を固定していない存在なのだろう。全ての土と木に宿り、神体としている彼らは、行きたい場所にあるそれらを神体とすることで活動を可能としている。ーー神体が固定されているリリカナとアルカナは別として。

アルカナは神湖 クララ・エリクサーを神体とする精霊。つまり、本体たる神湖からはあまり距離を離れられないのだ。逃げることも出来ずに燃えてしまった世界神樹とリリカナと同様に。

だからアルカナはリリカナに戻ってくることを望み、行動に移した。事情を知ってしまえば、当然の行動だったのだ。


ーーしかし。ここにいるのは規格外が代名詞と言っていい、化け物揃いである。


「なら、神湖の場所を移動出来れば、解決する話だよね」

「…………………………は?」


間抜け顔と声を出したアルカナに罪はないだろう。それぐらいレイの言葉は突拍子もないことだった。

レイは後ろに待機していたディアに考えを振る。


「ディア」

「うむ。神湖そのものの転移じゃろう? まあ、可能じゃの。神湖の源の湧水の水源地も移動もそんな手間じゃないしの」

「次、アイヴィス」

「土地問題だな? 王都の西側が広大な更地になっているから、そこを使うといい。一応俺の所有する土地だから、気兼ねは要らない」

「ん。解決」

「えええぇぇぇ…………」


さくっと解決策を提示したレイに、アルカナは驚けばいいのか呆れればいいのか、わからずに頭を悩ませることになった。

呆気にとられる五大精霊たちは置いて、規格外集団はさっさと神湖の移動準備を取りかかる。

百年に及んだ孤独が、簡単に解決されて茫然自失するしかないアルカナに、リティスは労りを込めて肩を叩いてやることしか出来ないのだった。

体調不良により、日にちが空いた上に短いです。

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