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42話

アイヴィスに抱き込まれ、両の頬に手を当ててうーうーと唸るリティスはやはりレイの義姉なだけあって目論見は直ぐに悟られた。八つ当たりも込めて、恨めしそうに見やる。


「それより……レイが驚いていなかったことに驚きです」

「帰還したその日のうちにばれてたからな……」

「ん。バレバレ」


ぐっと親指を立てたレイに、ふらりと目眩を起こす。


「な、何故」

「初日の会議の時にリズ姉、アイヴィスのこと名前に敬称だったし。俺が居たときは陛下で一貫してたから、関係が変わったんだなって」

「それだけで……」

「レイの洞察力を舐めてはいけないと良い勉強になったな」

「うむ。些細なことすら見逃さぬから、地球でいうところの警察なんかやらせたら、完全犯罪すら解決させそうじゃの」

「「「確かに」」」


検挙率凄そう。

将来の職業が本人の意思とは関係無しに決まりつつある。勿論雑談の範囲だが。


「そういえば、レイアーノ殿」


にこやかに会話をするレイたちに、フィンがふわりと空を浮いて近寄る。

レイは先程から気になっていた呼び方を訂正する。


「レイで良い。違和感がある」

「ウフフ。承知しました。ではレイと呼ばせていただきます。ーー時に、ナタリーから聴きましたが、貴方がリティス様とアイヴィス殿の仲人になってくれたとか。お礼を申し上げます」

「えー……結果的にそうなっただけだよ」


二人が恋人関係に納まったのは、レイが異世界に行ってしまったことによる寂しさ故だ。

なのでレイが何かをしたといったら否であり、只の偶然……いや、納まるところへ納まった、必然と言える。

だがフィンたちにとっては違うようで、ころころと至極楽しそうに笑いながら首を振った。


「いいえ、レイ。この二人、周りから見ればあともう少しでくっつきそうなのにくっつかない、実にもだもだした関係を百年続けていました。ですから今回の件、我らにとっては青天の霹靂とも言えるのです」

「リティス様がリリカナ様だった頃から仲が良かったのだが、二人とも鈍いのか進展がなくてな。随分とやきもきさせられたものだ」

「……二人をくっつけようと企ててた?」


レイの呟きに返答はなかったが、満面の笑顔を浮かべていたことから答えは一目瞭然である。

聞けば、リリカナだった頃のリティスの風貌は青く煌めく白金色の髪に虹色の光彩が美しい金の瞳だったという。黒銀色の髪に紫の瞳のアイヴィスと並ぶと目の保養で眼福だったのだとか。

ーーしかしだ。たった一年だが、衣食住を共にしていた身としては一つ物言いたい。

アイヴィスとリティス。この二人、別に好きあっていた訳じゃないだろう。いや、友人とか身内としての愛情はあっただろうが、恋愛感情としての愛ではなかった。断言して良い。

当事者の二人はおろか、誰よりも二人と行動する率の高かった、つまり一番の傍観者たるディアが怪訝そうにしていることから間違いない。

つまりーー。


ーー単なるこいつらの色眼鏡じゃないの……?

あと、目の保養目当ての利己主義。……中々に最低だ。


「そうそう、話を戻しましょう。レイ、貴方は友人たちに防壁、治癒を主とした魔法技術の向上を目指しているという見解で間違いないですか?」

「ん? ん」


フィンの当然の話題変換に疑問符を浮かべながらも頷いた。

フィンは肯定を受け、にこりと微笑んだ。


「でしたら、提案です。レイ、私たちと主従の契約を結びませんか?」

「「「はあ?」」」


レイだけではなく、アイヴィスたちもフィンの前触れない提案に疑念を向ける。

神族に次いで崇高な存在と自負している精霊族は、自尊心が高いことで度々騒ぎを起こす。五大精霊ともなれば更に気位が高かろう。

それがまさかの主従の契約を持ちかけてくるーー明日は雪か。それとも槍が降るのか。

顔を強張らせたレイたちに、フィンは構わずにこにこと話を推し進める。


「本当ならば、彼らと直接契約を結ぶことが望ましいのでしょうが、彼らの力量では、我らと契約を結ぶには少々力が足りない。ですが貴方なら、我ら全員との契約が可能です。ひいては、我らの契約主たる貴方の憂いを無くすため、我らから同胞へ友人たちを守護するよう指示を出す理由が出来る、ということです」


ーーそれは、願ってもないことだった。

しかし底知れない相手なだけに、素直に契約を結ぶには少々抵抗がある。

が、それはフィンの声高々に発せられた願望により愕然とすることになろうとは。

フィンはぐっと両手を胸の前で固く握り締め、今まで以上にキラキラした笑顔で興奮ぎみに宣った。


「貴方と契約すれば、我らも魔王城に顔パスで入れる。つまりは二人の恋の行方を具に観察できるというものです‼」

「「「欲望に忠実か‼」」」


やっぱり利己主義ーーというか、自由気まま過ぎである。


「……ディア」

「うむ。……嘘をついていないから、質が悪いの」


神族は嘘を厭う。

嘘をつかれれば、勘というか、本能的に脳が拒絶する。

だからアイヴィスはディアに訊ねたのだが、嘘偽りはないと言う。ーー逆に神経を疑うが。

フィンは興奮をそのままにレイに詰め寄る。


「それで‼ 答えは如何様です⁉」

「えーー。うん、えっと、……………………宜しくお願いします」


元勇者レイ、精霊に勢いで負けた。


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