32話
レイたちは、今度はどういうわけか城のバルコニーで寝そべっていた。しかもご丁寧にディアの『創造』で作った超巨大な、所謂レジャーシートの上で。
その上。
「お臍を見るぐらいでいいから上体を起こして五秒キープ。五セット行くよー」
「「「それって上体起こしじゃね⁉」」」
「マラソンの後に上体起こしとか鬼かっ」
「意味があるからやってる。はい、一回目ー」
慈悲の欠片もなく、容赦なく焚き付けたレイに不平不満のヤジが飛ぶ。が、そこはやはりレイである。さっさと上体起こしを始めた。それも、腕を胸の前で交差させてしっかり上体を起こすものだから、最早文句の言えようがなかった。
女子たちが疲労のため少し遅れたが、全員が無事終わらせた。
次にレイは、目を閉じて腹の上に手を置くように指示をする。
「全身から力を抜いて。光の球体を作るイメージをして、腹に力を入れる」
淡々と紡がれる指示に、淳たちは深く深呼吸をしてイメージした。
「作った球体を手に移す。……ゆっくり、慌てなくていい。出来た? 移ったら目を開けて。手を空に向けて、ーー外に放出する!」
「「「!!?」」」
レイより一息置いて、全員が行ったところ、極一部を除いた大多数が手から光の球体を出した。
驚いた彼らは疲れも忘れて跳ね起き、興奮して騒ぎ立てた。
「えっ、何で⁉」
「マジで出来た‼」
「スゲェ‼」
興奮冷めやらぬクラスメイトたちに、レイは静かに起き上がって解説する。
「走り込みをやらせたのは、身体から余計な力を抜くためだ。初めて魔力の構成を行うと、力を込めやすいから。上体起こしは身体の一部分から力を集めることの練習。魔力を身体全体から力を放出すると加減を間違えて暴発させる恐れがあり、下手をすると命に関わるから。だから一番力を込めやすい腹部を意識させるためにやらせた」
ちゃんと考えられていた特訓方法に唖然とする。
梨香が遠慮がちに手を挙げた。
「えっと、寝転がってやるのは……?」
「もし暴発してあらぬところに射出されたら? 壁とかにぶつかったなら修繕すればいいかもだけど、人に当たったら大事だよ。即死じゃなかったら治癒できるけど、そういう問題じゃないでしょ」
「そ、そうだね」
「……ただここの装飾品、どれも一級品だし、あらゆる術の集大成たる魔道具とかも平然と飾られてたりするから……」
壊すのも怖い……。
遠い目で呟いたレイに、全員から血の気が引いた。
ーーどれ程の価値がついているんだろう……!
青ざめるしかないクラスメイトたちに、レイはあっさりと話題を変えて次の課題を容赦なく突き付ける。
「そうそう……。魔力制御が出来るようになったら、次は魔物討伐に『暗黒の森』に行くから、そのつもりで」
「「「鬼ぃっ!!!!」」」
元勇者 レイアーノ。
……以外とスパルタ教師であった。
ブクマと評価、ありがとうございます‼




