31話
突然だが、オレの名前は天崎 晶。
クラスの連中と一緒に異世界に召喚された一人だ。
オレは実のところ斎賀のことが気にいらない。
何でかって?
オレは小さい頃から見目が整っていたお陰で女を絶やしたことはないし、勉強だって必ず上位に食い込んでいるぐらいには頭だって良い。
花道街道まっしぐらのオレの人生に陰りが指したのは、高校に進学してから。ーーそう、斎賀 黎と会ってからだ。
あれはなんだよ⁉ ちょっと童顔だけど有り得ないぐらいに整ったさらさらの黒髪に青い瞳、ハーフゆえの透明感のある白い肌は‼ ……いや、魔王サマの方がヤバイけど。あれは傾国だけど。うん。
オレだって平均より身長ある方なのに、あいつはそのオレよりも高くて、尚且つ鍛えてるのかムダにいいプロポーションなんだよ。モデルかっ‼
頭だって、学年首席を落としたことないしっ……なんだよ、あのチート野郎は⁉
しかも実は異世界から移住してきた元勇者だって言うし……。
誰だって憧れるじゃん? マンガみたいに格好いい剣振り回して、魔法バンバン使って称えられるの。
でもあいつはそんなのいらないって言う……。すごい魔法使うくせに。魔王サマからも頼りにされてるくせに。ホント、なんなんだよ……。
でも、今になってオレはこいつのこと認めなきゃいけないと思い始めてる。
いや、ホントにちょっとだけだからな⁉ 米粒ぐらいの差だからな⁉
……いやぁ、まあ、うん。
だってこいつ、あり得ねぇよ……。
ーーなどと、現実逃避に似た心境で心の中でぼやいていた天崎 晶は、息を切らしながら前方で喚く淳の声を聞いていた。
「レイくん、ちょっと、ペース落としてくんねぇかなぁ!!?」
「……? だいぶ落としてる」
「「「これで!!?」」」
彼らに絶望が襲った。
レイがクラスメイトたちに言い付けた最初の特訓は、まさかの王城の敷地の走り込みであった。
王城の敷地はレイたちの通う学校の、校庭三つ分程に該当する。
外周を走らされるよりかは遥かにましなのだろうが、それを、レイの速度に遅れずについてこいと言われた際には壮大な悲鳴が上がった。
元で、他称と言えどもレイは勇者だった。
いやいややっていたにせよ、習慣というのはそう簡単には止められないもので、異世界に渡ってからも毎日のように走り込みと剣の稽古、体術の鍛練を欠かしていなかった。
対してクラスメイトたちはといえば、部活に入っていたとしても目的が違う。取り組んできた基礎、時間、量が天地程に差がある。……追い付けるわけがなかった。
「おまっ、なんでっ、息っ、乱して、ないんだよっ」
「毎日このくらいの距離を、もっと早い速度で走ってるし。このぐらいは余裕。喋ってたら、余計に体力使うけど」
「そう、なんだけどっ……!」
気力だけでなんとか着いていっている者と、運動部所属でギリギリ着いていける者とで別れた。淳は剣道部所属で体力がある方だが、それでも既に息を切らしていた。
レイは敷地の半分まで来たところで、ハンデとして半周を言い渡され前方で待機していた梨香たち女生徒たちに向かって叫んだ。
「梨香たちそろそろ参加するよ! ペース落とすから、頑張れ‼」
「「「お前何で女には優しいんだよ⁉」」」
「男と女の体力一緒にするわけにはいかないし、女子供は守るものだって何処ぞの騎士団長から教えられた」
「「「フェミニストかっ‼」」」
男子生徒からの怒りが爆発するが、レイには何処吹く風である。
「魔法覚えるんだったら体力着けないと。魔力切れが原因の死因とか、笑えないから」
「「「うぐぅ……っ」」」
正論に、黙り混むしかない男子生徒たちであった。
長いので切ります。
次回も修行編となります。




