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3話

アイヴィスに客室に通されたレイは、なんだこれ、座り心地よすぎじゃないか? 秒で熟睡できそう、と感想を懐いた長椅子でぼんやり、ゆったり寛いでいた。

因みに。国王に対する怒りで周りがよく見えていなかったレイは、入り口に護衛としてリティスがいるにも関わらず、自分をもてなすために給仕をしているのがまさかの魔王自身であることに気がつかなかった。


「ほら。熱いから気を付けろ」

ふくよかな香り高い紅茶を差し出されて、レイはほう……っと溜め息を吐く。

名の通り清んだ紅色に湯気が立ち上ぼり、柑橘系の爽やかな香りが胸を満たす。


アイヴィスの入れ方が上手なのだろう。王宮に閉じ込められ、それなりに豊かな食事をしてきたレイだが、香りを嗅いだ時点ではっきりとした違いがわかる。


「い、頂きます」


紅茶の香りで冷静さが戻ってきた頭で考えたら、敵地で魔王がいれた飲み物を口にするのはどうかと思うが、死ぬなら痛みと苦痛ならどっちかましだろう……と自殺願望者のような考えが捨てきれていなかったので結局飲むことにした。


フーフーと息で紅茶を冷まして一口、口に含む。

「美味しい……」

「それはよかった」


微かな苦味の後に来る茶葉特有の甘味。

ちゃんと茶葉の量、湯の温度、抽出の時間を守って入れたのだろう、今まで飲んだ紅茶の中でも群を抜いて美味だった。


茶葉の出来も違うのだろうが、魔族の頂点たる魔王が人間国家の給女よりももてなしが上手いとはどういうことだろう。とうの魔王アイヴィスに至っては、隣で優雅に足を組み、良い出来だ、と自画自賛してご機嫌である。


……そう、何故か隣である。


目をぐるぐるさせて混乱するレイは、これがアイヴィスの対処だとは気付かなかった。


実は押し付けられた勇者の称号だとレイは思っているが、常時無意識に纏っている魔族を討ち滅ぼすために創り出された聖なる力『聖魔法』の効果はアイヴィスが今まで会った人間の誰よりも圧倒的に強かった。

それこそ目を合わせればレイの聖魔法の効果でアイヴィスの魔力が暴走させられかねなかったぐらいには。


つまり隣に座ったのは目を合わせないための行動である。

レイが勇者になりたくないと断言したため、事実が語られることは永劫無いが。


やはり魔王が一番お人好しである。

お茶飲みだけで終わりました。

みなさま、この時期の食中毒にご注意下さい。(いや、引っ掛かったのは私ではないんですが!)

年末年始の稼ぎ時に食中毒……シフト……もう頭が痛い……(泣)

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