24話
馬が余っていたのとなんとなく嫌な予感を察知したレイは、乗馬して移動しようとしていたのだが、色々とプッツンした梨香に肩を捕まれ、「レイくん、説明……いいかなぁ……?」と背後に大蛇を背負いながら、目が笑っていない微笑みを向けられて潔く観念せざるを得なかった。嫌な予感大的中である。
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振動で身体が縦に揺れる。三角座りした尻が浮いては落ちる。さっきからそんな調子で打ち付けているせいで地味に痛い。
休みなしに説明を要求されたレイは、長時間話続けた影響で掠れた声に空咳をして整える。
聞いた内容の不快感に淳と梨香は頭を押さえ、他のクラスメイトたちは他の荷台の縁に手を置いて上半身を乗り出した体勢で俯いたり衝撃に撃沈したりと反応はほぼ一緒で、心証に関しては同じ感想を抱いたようだった。
「……なんッつーか……さぁー」
「うん……。惚れた女の人を手に入れるためにそこまでやる……? 普通……」
「常軌を逸してるよね……」
「それに対して魔王陛下様、マジよくやってくれました」
「うん。めっさいい人。元敵に対してもめっさ優しい」
「魔王がそんなだから、人族の国王の人格の悪さが際立つよなー」
「言えてる‼ きっと自分以外は道具か物にしか思ってないよ、絶対」
ーー等々。
諸々が、回復した彼らの感想である。が、レイにとっては何を今更である。
「えっと、じゃあ、レイくんは、その、異世界人だった……って、認識で、いいの?」
小さく挙手し、吃りながら控えめに発言したのは丸山 鈴。お昼一緒組の一人であり、内気な性格ながら行動は割りと大胆な少女で、梨香の幼馴染みでもある。
「ん。斎賀 黎って名前は神族の長、創生神ディアがつけてくれた」
「そういえば、創生神様は陛下の偽名まで登録していたそうですね?」
並走していたリティスに、レイはこくりと頷く。
「ん。紫月って名前。由来はわからないけど」
「……瞳の色と、何となく、でしょうね」
「だろうね」
呑気に会話を交わすレイとリティスに、淳たちは内容から察した真相に仰天した。
「「「って、待てっ‼ まさかの兄ちゃん、魔王かよ!!?」」」
「正しくは兄貴分だけど」
そうじゃない‼ とクラスメイト総出の突っ込みが入る。海外転勤と聞かされていた友人の兄が、本当は血の繋がりのないただの兄貴分で、しかも異世界在住の魔王だなんて誰が予想しようか。
レイのことが最早よく分からないと内心頭を抱えるだが、話を聞く限りレイに両親がーーそれも顔も名前も知らないことを知ってしまったため、なにも言えなかった。
妙にしんみりして黙り混んでしまったクラスメイトたちに、レイは首を傾げつつも前方に見えてきた建造物に膝立ちになり目を輝かせて指差した。
「見えてきた。魔都ーー王城 リベラシオン」
淳たちの口から初めて見る西洋風の塔のように聳え立つ白銀色の雄麗、堅固な城に感嘆の溜め息が出る。
嬉しそうに顔を綻ばせるレイに、リティスは微笑ましそうに微笑を浮かべる。
ーーすると、急に視界が少し陰った。
「なんじゃ、アイヴィスの言った通り、本当に帰ってきておる」
幼さのある声が頭上から聞こえ、驚いて仰向くと、そこには見覚えのある少女の姿をした創生神の姿があった。
「ディア‼」
「レイよ、お主が何故ここにおる」
厳かに問うディアに、しかし返答ではなく絶叫を返したのは淳たちクラスメイトだった。
「「「幼女!!?」」」
「……なんじゃ、この無礼者共は」
ーー地雷を容赦なく踏まれたディアが絶対零度の怒気を纏ってクラスメイトを見下ろすのに、もうどうにでもなれ、と現実逃避するのは仕方のないことだろう。




