22話
ちょっと格好つけての発言をしたが本心では、戦いたくない、面倒臭い、痛いの嫌だ、降伏してくんないかな、と実にやる気のないことを考えていたレイは、それでも形として剣に風魔法を纏わせておく。
聖属性魔法を使わないのには訳がある。
一つ、剣と併用する使い手が少ないこと。
これに関しては自分が嘗て勇者であったことがばれていないことを前提にしているが、人族の騎士団、それも団長クラスならば可能だろうが、一般騎士がおいそれと使えるほど聖属性魔法は扱いが容易くない。レイは団長に直々に師事を受けていたので扱える。
そういえば、とレイは思う。団長のことは嫌いではなかった。物語に出てくる王子様のような風貌に、なのに困りきった苦笑を浮かべていた、騎士団の団長らしからぬ男だった。劣悪な環境下にあったのにレイがわりと素直に育ったのは、彼のお陰と言っても過言ではない。
二つ、他の属性との併用が難しいこと。
聖属性の真骨頂は浄化、再生、強化であるが、例えば水属性の『水刃』に併用した場合、本物の剣と比べ物にならないほどの切れ味を得、相手を殺傷してしまう可能性が高い。捕獲して情報を得たいだろうリティスに引き渡すには、やるべきではない。
それに浄化は、人間相手に使った場合、どんな効果、影響があるのか実証されていない。
魔族の場合はその多くが力を失い、若しくはそのまま朽ちるようだが、人間が己の“闇”の部分を浄化されたらどうなるのか、不確かなまま使うには少し怖い部分があるのだ。
三つ、術者の負担が大きいこと。
この世界の属性は大きく分けて七つ。光、闇、炎、水、土、風、木である。
聖属性は光に分類されているが、従来の光魔法と違うのは、元からある太陽光などを媒介にして使うのではなく、あくまで術者の気を用いて使う点である。
つまりは、大事な場面でも気力が底をついていては使えない代物であり、諸刃の剣と言えるのだ。
ーーでも、風魔法だけで対処できる相手かと言えば、否、なんだよね。
「オァアアアッ」
術者が雄叫びを上げながら鏃状の氷を弾丸のように連射する。
レイは剣で弾いたり障壁で防いで推察を進める。
氷は水と風の合成術だ。
合成術を使えるということはそれなりに名の通った人物である可能性を示し、また誰かに雇用されていて、その指示の元で動いていることは確実だと断言できた。
ーーてなると、こいつがやられたことが雇用主にばれたら、新たな刺客が向けられるよね……。村人は別の土地に移動させた方がいいってリズ姉に言おう……。
氷の弾丸を避けるのが面倒くさくなってきたレイは、炎と風を剣に纏わせ一閃する。螺旋を描きながら氷を蒸発させ、術者に一直線に向かう。
「く……っ」
術者はギリギリで攻撃を避けたが、それを見逃すレイではない。身体強化で間合いを詰め背後に忍び立つ。
そしてーー。
トン。
「がっ」
首裏を手刀で叩いて昏倒させる。
術者が倒れきる前に、襟を掴んで顔面から地面への衝突を防いだのは気紛れによる優しさだ。
レイは辺りを見渡し、他に見逃していないか確認する。
なにもないと確認し、ふむ、と一人頷いて。
「……戻るか」
ぼそりと呟いて術者の襟を掴んだまま再び身体強化を使って屋根から屋根へ跳躍、移動を始めた。
ーー先程の優しさが無意味になった瞬間である。




