21話
神聖霊剣『フライハイト』をまじまじと見たレイは、実物の日本刀に内心ちょっと興奮しながら振り上げ、魔力を籠めて斜めに軽く降り下ろした。
ーーブオン‼ ゴオオオオオオッ……ーー
纏わせていた魔力は三日月状の刃となって放たれ、一直線に地面を大きく抉った。それだけではなく、目の前に建っていた家を真っ二つに切り裂いたのだ。後に知ることだが、ディアの付与により、『魔力増幅』が付加されていたために、予想外の威力となってしまったのである。
「……………………えっと。自重、シマス」
「…………そう、ですね」
「ソレガイイトオモウ」
「そ、そうだねっ」
唖然として硬直してしまったレイに、顔から血の気が引いたリティス、石化したかのようにびしりと動きを止めた淳と梨香が首振り人形宜しくこくこくと頷いて同意する。軽い動作でこの威力なのだ。本気を出したらなんて想像するのも怖かった。
頭を振って一度視界の現状を切り離し、フライハイトの付与も利用して『気配探知』を全開にする。本来レイが使える三倍の範囲で術が展開された。
ーー生命反応は、ここにいる全員だけ……? ここじゃないのか……でもこの人数を傀儡にするなら近くにいるはずだけど……ーー
ふと、『気配関知』に『視覚同調』を組み込み、景色を同時に見れるようにする。
そしたら案の定だった。村の端に繋がれた馬小屋、馬の影に隠れた人間の姿が見えた。
馬に紛れることで生命反応を隠匿していたのだ。ーー数は、一人。
「リズ姉、傀儡は任せていい?」
「勿論です。此方にも騎士団員としての意地があります」
任せておきなさいと、先程とは比べ物にならない動きで襲撃者と切り結ぶリティス。
レイは一つ頷いて自身に『身体強化』の魔法を掛ける。
強靭な身体を持つ魔族とは異なり、一般人よりは動けるぐらいの身体能力しかないレイにとって身体強化の魔法は必要不可欠だった。
足に力を入れ、一気に跳躍する。屋根から屋根に移動し、主犯たる術者に逃げられる前に駆け抜ける。
一瞬にして目的地に辿り着き、レイの接近に気がついていた術者が馬小屋から出ようとしている姿が見えた。
ーー逃がさない。
屋根瓦を強く踏み込み、飛びかかる勢いで剣を振り上げた。馬に当たらないように位置と威力を調節して放たれた残撃は、術者すれすれに通過。馬小屋を豪快に両断した。
「なっ……!」
「見つけた、術者。素直に敗けを認めて捕縛されるなら危害を加えない。でも、抵抗するなら多少の怪我は覚悟してもらう」
切っ先を術者に向け脅し掛ける。
術者は基本的に体術に縁がない。剣士や闘士の援護が資本で、魔法が使えればいいという考えの術者が多いが、ひょろりとした痩せ細った顔を見る限りこの術者も例に漏れないようだ。
術者は錯乱ぎみに杖を両手で握って唇を戦慄かせて叫ぶ。
「な、何で人族がっ。魔族の味方をしているんだ⁉ この裏切り者が」
「もとより味方だった覚えはない」
怒声に、屁理屈とわかっていても反論を返した。だって、本当に思い出すだけでも殺意が涌き出てくるのだ。それも底無し沼のように上限なく。レイの人族の国王に対する恨みは根深い。
「くっ……このぉ、死ねえぇぇぇっ‼」
杖の先端から鋭利な氷の礫が複数放射された。どれもレイの急所を的確に狙っているが、相手が悪かった。他称とはいえ元勇者。その程度の攻撃では驚きは勿論、微動だにしない。
レイは指一つすら動かさずに、前方だけに一枚の板状の結界を構築する。その厚さは薄いながらも、見事に氷の礫を弾いてみせた。
自分の攻撃が砕け散って無効化されるのを見た術者はさらに術を展開しようと杖を両手で構えた。降伏の意思はないと、態度で表したのである。
レイは目を細め、弛く刀を握って構えを取る。
ーー敵ならば、多少の荒療治は仕方がない。
「そう……。じゃあ、何処からでもどうぞ」
術者に向けられた切っ先が、キラリと鋭利な光を反射した。




