20話
いざ戦闘! というときに、レイは重大な問題に気がついた。
「……リズ姉、俺、後方支援に回っていい?」
「そのこころは」
「正直戦いたくないって言うのが一つ」
「正直過ぎです」
「あと、そもそも俺、丸腰」
両手を上げて何も持っていないと、所謂降参ポーズを取った。ついでにズボンとガーディガンのポケットも裏地を引っ張り出す。出てきたのはスマホとキーケースと飴玉が二つ。チョコレートが3個だ。
因みに飴とチョコは朝、淳から貰ったものだ。
今朝は寝坊して、弁当を作ることに手一杯で朝御飯を食べられなかったので、学校に着く頃には腹が抗議の音を立てていたのである。弁当作らずにご飯を食べろよと突っ込む者もいたが、節約思考のレイにとって購買なんて選択肢にない。だからといって餌付けされ過ぎである。
キーケースは、普段は鞄の中だが、朝慌ててポケットに突っ込んだのを、鞄に移そうとしたがなんとなく今日は手元に置いておいた方がいいと勘が働いたのだ。
が、それがレイの明暗を分けた。
「あるじゃないですか」
「はい?」
武器になりそうなものなんて、正直いってないけど。あったとしてもスマホのフラッシュとか? と頭に疑問符を浮かべるレイに、リティスが地面に転がるキーケースを指差した。
「そこから覗いている鍵。現在の自宅の物ですね?」
「え、うん。というか、俺、鍵は家のか自転車しか持ってないけど……」
自転車? とリティスが首を傾げたが、そんな話をしている場合じゃないと本題に戻る。
「その鍵。創生神様が術を屈指して形を変えた聖剣プルガシオンですよ」
「……………………へ」
リティスの爆弾発言に、レイは衝撃のあまり石像よろしく硬直した。
ーーそして。
レイはハッと我に返り俊敏な動きでキーケースを拾い、ーー大きく振りかぶった。
「⁉ 何をしているんですかあなたは⁉」
「あの変態王が命じて作らせた剣を何で俺に持たせるんだ新手の嫌がらせか苛めか苛めなのかディアの馬鹿俺の経歴知ってるくせに何で敢えてこれを持たせたんだーー!!」
「レイ! 私が悪かったです、謝りますから息継ぎはしなさい‼」
リティスが自分の愛剣は構えたまま、慌ててレイのキーケースを持った手を握って拘束する。元勇者も現役騎士の握力には勝てず、あっさりと捕まった。
リティスは猛省した。レイが人間国王を死ぬ気で毛嫌いしていることを本気で忘れていた。
「た、正しくは、プルガシオンを媒介にして様々か付与を行った新しい聖剣です。さすがに創生神様も、そのまま持たせたりしませんよ……!」
「あの剣であることには変わりないじゃんか‼」
「そ……、……否定はできません」
ほらーっ! とキーケースを握り締めるレイの後頭部に、淳の突っ込みという手刀が入った。
「てっ」
「バカレイ。ごねてる場合じゃないだろ⁉ 不本意だとしても、今は丸腰なんだし。戦えない上に状況が理解できてない俺らが言うことじゃないけど、大目に見ろって」
「うぅ……」
手加減なしの手刀に涙目になりながら頭を抑える。
加害者である淳を睨み付けるが、その彼の顔は何処か引き攣っていた。
「ごめん。俺ら、戦う方法なんか持ってないからさ、お前に任せるしかないんだ。無事に生き残ったら魔法の練習とか、メッチャ頑張るから、……だから、ごめん、頼む。今だけは頼らせてくれ」
懇願する淳の声は震えていた。うっすらと目尻に涙も浮かんでいる。梨香もだ。後ろで踞るクラスメイトたちも、涙こそ浮かべていたが、必死に耐えていた。
ーー友達を戦わせなければいけない、自分の不甲斐なさに。
そうだ、とレイは頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
そうだった。
ーー自分が戦わないと、皆死ぬんだ。
「……わかった。魔法の鍛練、ちゃんとやってよ?」
「ん……っ、しっかり会得するからなっ!」
「ん。じゃあ、」
頑張ってくる。
キーケースの金具から鍵を引き千切り、グッと握り締める。鍵はレイの意思に呼応して、強い光を放ちながら膨れ上がりその姿を変えた。
ディアが、現在のレイにもっとも相応しい形状になるように、このために新しく作った魔法、『心象創造』の術式を組み込まれた創生神の叡知が込められた唯一の剣。
ーー神聖霊剣『フライハイト』
日本刀を模した、刃も、柄も、全てが白銀色のレイの剣が、姿を表した。
おかしい、戦闘シーンに辿り着かない……⁉
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