表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

05 俺と勇者と予言者と


 「おう、目ぇ覚めたかぁ、誠」

 「……アート」

 「おう。飲むか?」

 「……ん」

 

 飛び起きた俺の正面にはアートがいて、見上げた俺に、水の入ったコップを渡してくれた。

 ……っていうか、そうかー、やっぱ駄目だったかー。

 受け取った水を飲みつつ、俺は落胆する。

 

 ノートを見ながら寝落ちした状況を再現したら、もしかして俺の部屋に戻れるんじゃないかって、ちょっと期待してたんだけどなー……。

 考えながら水を飲み干したところで、俺の右手側にも人がいることに気付いた。

 そういえば、女の子の声がしてた――

 

 「ってリオナ! 回復したのか!」

 

 そこに立っているのがリオナだと、俺はようやく気付いた。

 

 「遅い!」

 「はっは。まあ、寝起きだし、しょうがねえって」

 

 ぷりぷりと怒るリオナに、からからと笑うアート。

 

 「なんじゃい、騒々しいのう」

 

 そこに、じーさまが顔を出した。

 じーさまの口調はのんびりめで、怒った調子はなかったのだが、リオナは「す、すみません」と申し訳なさそうに謝った。広場で石化していたはずのリオナが、だ。

 じーさまが見事にやってくれたわけだ、凄いぜ、じーさま!

 

 「無事に戻れて良かったな、リオナ」

 「……まあ、ね。先生のおかげ。それとアートさんにも、色々面倒をかけて……その、ごめんなさい、ありがとう」

 

 しおらしく謝罪と礼をいうリオナを、アートは豪快に笑い飛ばす。

 

 「はっは、俺は大したことしてねえよ。今回の最大の功労者は、誠だぜ」

 「え、俺?」

 

 いやいや、まさか。だって俺、詰め所でノート読んでただけだし。

 

 「おうよ。バジリスクの弱点を教えて、石化の治療法も教えてくれたじゃねえか」

 「バジリスクを退治したのはアートだし、中途半端な俺の知識から薬を作ったのはじーさまだし」

 「そう謙遜すんなって! おめえはこの街の救世主なんだからな!」

 「ええー……?」

 

 謙遜ではなく、公正な事実の把握だと思うのに、アートは「胸を張れ!」と背中を叩いてくる。てか、痛いって。

 

 「それより! 私はあなたに聞きたいことがあるのよ!」

 「ん? 何だ?」

 「これ! これは一体何なのよ!」

 

 そういってリオナがバシッと叩いたのは、俺のノートだった。

 

 「え、何って、俺の覚書ノートだけど」

 

 このノートの文字が、こちらの人には読めないのは確認済みなので、そらっとぼけて答えたのだが。

 

 「覚書!? 嘘言わないで! 私のことを書いてるじゃない! 私の出生、家族構成、村を出た理由から、昨日のバジリスク戦まで! 何なのよ、私の事ずっと観察してたの!? しかもまだ続いてるし!」

 「え……? ちょ、ちょっと待て!」

 

 俺は、怒ってまくしたてるリオナを遮って、逆に詰め寄る。

 

 「リオナ、これ、読めたのか!?」

 「は? 読めるわよ。当然でしょ」

 

 馬鹿にしてるの、と盛大に顔を顰めるリオナに、そうじゃないと首を振る。

 

 「だって、じーさまは読めなかったぞ!?」

 「え?」

 

 驚いたリオナがじーさまを見て、じーさまは重々しく頷く。

 

 「うむ。異国の文字は読めぬからのう」

 「異国の文字? これが?」

 

 どうやらリオナは、異国の文字とは意識せずに読んでいたらしい。

 どういうことだ? こっちの言語を俺が理解できてることなら、夢だからとか、異世界転移チートとかで納得することも出来るんだが。

 

 「ふうむ……。もしや、誠は予言者なのかもしれんのう」

 「おお、やっぱ、じーさまもそう思うかあ」

 

 じーさまの仮説にアートも我が意を得たりと頷いている。

 って予言者? そんなの、俺、小説に登場させた覚えないんですけど!

 一体どういうことだと首を傾げる俺の目が、じーさまと合った。

 

 「うむ、この国には、勇者と予言者の伝説と言うものがあるんじゃ」

 「勇者と、予言者?」

 「そうじゃ。魔物が活発になる頃、予言者が現れる。予言者は魔王を倒す運命の勇者を見出し、予言の力で勇者を導くといわれておるんじゃが、彼らは皆、独特の文字を使用しておって、携えた予言書は、予言者のほかには勇者にしか読めなかったといわれておる」

 「予言者? 独特の文字……?」

 

 いやまあ確かに、日本語は、こっちの人たちにしたら独特の文字だろう。

 そして「災いの(以下略)」は、俺が夢で見たものが元ネタになっている。予知夢と言えなくもないだろうが、でも見た夢は断片的で、結構、俺が隙間を埋めたりもした。それって予言なのか? 俺が俺の意思で書いたと思っているものも、神様か何かに書かされてるって?

 むむむ、と俺が唸っているところに。

 

 「じゃ、じゃあ、勇者っていうのは――私?」

 

 困惑するリオナが、誰にともなく尋ねた。

 

 「あー、まあ、そういうことに、なるんじゃないか?」

 

 俺が見た夢は、大半がリオナのことだった。これで彼女が勇者じゃないっていうほうが驚きだ。

 

 「私が……」

 

 俯き、黙り込むリオナ。表情は見えないし声は沈み気味だが、でもリオナは、勇者になって村の人たちを見返してやるって誓ってたんだから、嬉しいはずだけどな。

 

 「それはともかく、もし本当に俺が予言者だったとして。俺の前任者はどんな人だったとか、その後どうなったとかはわかってるのか?」

 「いや、それがようわからんのじゃ」

 「そうだなあ。魔王を倒した勇者と予言者が、その後表舞台で活躍したっつう話はきかねえなあ」

 「田舎でひっそり平和に暮らしましたっていうやつかな」

 

 それか、予言者は異世界の人間だったんなら、帰還したから噂にならない、とか。そうだと嬉しいんだけどな。で、帰る方法を書き残してくれていると、尚嬉しい。

 

 「――誠、図書館に行くわよ」

 「え?」

 「図書館になら、勇者と予言者の本があるわ」

 「あ、なるほど!」

 

 リオナの提案に、俺は、ぽん、と一つ手を打った。

 

 

 

 で。

 

 「随分あるんだな」

 

 一棚埋める勢いで、勇者と予言者、そして魔王の関連本がならんでいて、驚きつつも途方にくれる。

 

 「それだけ魔王との戦いが続いているということよ」

 

 苦い口調で言いながら、リオナは一冊の本を引き出した。「予言者・未来の手記 解読書」だった。

 って、未来って、日本の名前だよな? 予言者は日本人なのか?

 そう思って予言者の名前一覧を探してみると、明日香とか、真治とか、聞き馴染みのある名前ばかりだった。

 

 「私は地球の日本人です。気がついたらこちらの世界に来ていました……」

 

 小さな声でリオナが読み上げた。横から本を覗き込むと、そこには日本語の文章しかなかった。タイトルには解読書とあったはずだけど――ああ、解読は後半にのってるのか? とにかく、リオナは日本語を自力で読んでいるわけだ。

 

 「リオナ、日本語読めるんだな」

 「……私には、日本語を読んでいるという意識がないわ。誠、あなたもそうなんじゃない? その本、この大陸の言葉よ」

 「……おおう」

 

 指摘されて気がついた。確かに、今俺が手に取っている本は、日本語でもアルファベットでもない、本来なら俺に読めるはずの無い言語で書かれていた。

 

 「これが定番の言語加護というやつか」

 

 異世界転移ものにはほぼ必須の、言語に苦労しない加護が俺にも与えられていたらしい。

 

 「でも、リオナはなんでだ? リオナは日本から来たわけじゃないよな?」

 「私は生まれも育ちもこの大陸よ。詳しいことは、この人にでも聞いてみましょ」

 

 そういってリオナが広げたのは、著者プロフィールが書かれたページ。勇者予言者研究の第一人者、ドナルとあった。出身は――って、あれ?

 

 「誠? どうかした?」

 「この街の名前、前に見たことがある。……俺のノートで」

 「! それってつまり、この街で何かが起こるってこと?」

 「俺のノートが、本当に予言書だっていうなら……魔物の襲撃がある、はずだ」

 「っなら、急ぎましょ!」

 

 素早く本を棚に戻したリオナは、俺の手を引っ掴んで図書館を飛び出した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ