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みんなで札探し3

 

「……はぁ」


 男は深くため息をつくと、


「じゃあ、あんたはなんで安い札を集めてる? 言っとくが、5ガル均一品なんてのは、そこの掲示板に飾ってある札の下位互換とかいうもんじゃねぇ……もはやなんで刷られたかもわからない代物だぞ?」


 私はその質問に、即答します。


「このディアロランのチャンピオン、ティルダ・キャッツを倒すためです……」


「ティルダ・キャッツを倒すぅ? っはっはっはっはっは!」


 店番の男は、それを聞いて大笑い。


「あんた、だったらすげぇ不釣り合いなことをしてるからやめとけよ! そんな安い札で何が変わるっていうんだぁ?」


「……っ」


「諦めな、俺もティルダ・キャッツに挑むとかなんとか抜かした奴を散々見てきたが、もう一度店に姿を現すことはなかった……それくらい、あいつは最強だ……何もさせちゃくれねぇ」


 私は、黙ってもう一箱開けると、静かに札を確認していきます。

 諦めがつかないところを見て、やれやれと店番の男は首を振ります。


「……あいつが現れてから、札屋はギリギリの経営さ、たまに来るのは生活用の札が欲しい決闘者じゃねぇ連中ばかり、まぁその分そこそこの値段で買ってもらってはいるがな」


「なら、奴の札を複製して売ればいいのではないか? あれだけ強いデッキだ、相当1枚辺りの値段は取れるだろう?」


 マスティマさんは、そう切り返します。

 が、すぐに否定的な答えが返ってきました。


「ティルダが俺たちに札を公開しないのさ……」


「……なに?」


「まぁ、強者なら当然の判断だとは思うぜ? そりゃ嫌だろうさ、自分が作ったデッキなのに、それを簡単に真似されて、ましてやそいつに負ける可能性が出てくるんじゃな……」


 酷い話です。

 人それぞれ、デュエルでのプレイングは違います。

 ですから、自分のデッキを全て公開したところで、それをそっくり真似た相手にプレイングの差で勝利すればいいのに。


「……強さを求めるために、その手段選んできた」


「あぁ?」


 マーメイさんが、そう呟きました。


「ワタシ、ちょっとティルダの気持ちわかるヨ……自分のデッキがどこともわからない奴に使われてたら、嫉妬しちゃうネ……」


「だが、だからといって……」


「じゃあ聞くヨ、マスティマ……自分の切り札が誰ともわからない奴に使われてたらどう思うカ?」


「……!」


 マスティマさんは、何も言い返せませんでした。


「きっと、デッキ単位でも同じネ……だから、ティルダは自分のデッキを公開しないヨ」


 確かに、一理あります。

 私も、スペルシードラスがどこの誰とも知らない奴に使われていたら、悲しいです。

 なぜなら、私と淳介を何度も救ってきた大切な切り札だから。

 ですけども――。

 私は、初めて淳介の考えを聞かずに、断言しました。


「それは、ただの独占です……」


「ウィズ?」


 私は、箱を綺麗に片づけてしまうと、札を10枚ほど束にして店番の男に手渡しました。


「おじさん、これをください!」


「あ、あんた……本当に買うのかい? いくらなんでもこいつらじゃ……」


「私が買いたいから買うんです! それに……」


「それに?」


「ますます勝ちたくなりました、ティルダさんに!」


 そう言って、ニッコリと私は笑います。


「……ったく、さっきの話全く聞かねぇ子だな、ほれ」


 店番の男は、私の手渡した札の束をそのまま突き返しました。


「……えっ?」


「いいよ、そいつらはどこの店にもよく探せば30枚は見つかる札だ……金はいい」


「で、でも……」


「かぁ~、こんな時に店の心配まですんじゃねぇよ、明日明後日なくなるわけでもあるまいし!」


 「でも、商品は商品……」と私が言おうとした時でした。

 そっと大きな腕が、私の帽子に覆い被さりました。


「ありがとよ……決闘者に店側の心配されんのは、これが初めてだった……」


「おじさん……」


「まっ、勝てるかどうかは別だろうけどなっ! っはっはっはっはっは!」


「むっ、勝ちますよ! 待っててください、この札達の値段を私が100倍……いや、10000倍にしてあげますから、……使うかどうかはまだわからないですけど」


「おい聞いたぞ今の、やっぱ無理してるじゃねぇの!」


「い、いつかは使いますぅー!」


 その後、少しの間言い合う私をマスティマさんとマーメイさんは茫然と見つめる時間が過ぎていくのでした。









「……ったく、あんな札で一体何しようってんだか、ん?」


 店の扉が開く。


「お客さん、悪いがもう店じまい……っと、なんだお前かよ」


「随分と楽しそうに話していたじゃない、ギグおじちゃん」


「ちっとも楽しくねぇよ、金にほとんどなってねぇからな……」


「で、なんの話をしてたの?」


「ティルダを倒すとかいう話さ」


「……その人って、魔法使いみたいな格好をした子?」


「なんだ、お前の知り合いか?」


「いや、違うけど……昨日のコロシアムにいた」


「……どんな顔してた?」


「有り得ないって顔」


「だろうな……けど」


「けど、なんだい?」


「なんか、不思議な奴だったな……」


「不思議……?」


「そう……その他にも、連れが二人いたんだが、俺の店で5ガル均一の箱を漁りながら楽しそうに情報を共有してた」


「情報を共有?」


「そう、いつか戦うかもしれねぇ同士で、この札はどうだとか、あの札はどこかになかっただとか……ったく、普通はやらねぇぜ、いくら仲がいいって言っても……自分はこういう戦い方をしますーって言ってるようなもんだからな」


「……」


「……なぁ」


「ん?」


「お前も、もう一回挑んでみたらどうだ、ティルダによ……」


「……」


「正直、惜しかったと思うぜ……てか、もうお前しか活路はないとも思ったくらいだ」


「……」


「っと、話し込んじまったな……飯だろ、食ってけよ」


「その子って……今どこにいるの?」


「あぁ? まぁ宿とってるんじゃねぇか?」


「そう……」


「なんだよ、会いたいのか、そいつらに……」


「……」


「そこは黙るなよ……なら、探してみな? ティルダを倒すなんて言ってた奴らだ、そう簡単にこの街を離れたりはしないだろう……って、あの野郎、食ったら即座にいなくなりやがってぇ!」


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