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決闘者としての憤り2


「例えあなたがどれだけ手を抜こうと、私は油断しませんからね! 私のターンです!」


「お好きにどうぞ」


 気合を入れて自分のターンを始めるウィズに対して、微塵も怖さを感じていない様子のケイル。

 本当に腹が立つ奴だ。

 これから伏札が無ければワンショットキルだって俺達のデッキにはありえるっていうのに。


「いきますよ、私は置き札より2枚ドロー!」


 俺とウィズは引いた札を確認し、ニヤリと笑う。

 どうにかこのターンの間に準備は全て整えることは出来そうだ。


「いくぞ、ウィズ!」


「はい、淳介!」


 掲げる札はコスト3連詠唱札『魔力補給』。


「この札の効果で、私は置き札より2枚札を手札に加えます!」


 これでコスト3連詠唱札を条件とした札もコストを支払わず発動が可能になった。

 さらに手札は回る。


「場にある連詠唱札をコストに、コスト2『蓄積する魔導の力』を発動、さらに『賢者の瞑想』を2枚、順に発動!」


 墓地へと、7枚の手札が捨てられ、手札は残り4枚。


「ほほう……これはすごいねぇ」


 これにはケイルも関心の一言。


「へへっ、まだまだ……さらにいくぞ、ウィズ!」


「私はコスト3『魔力補給』発動し、効果で手札を2枚増やします! そしてコスト3『知と魔の変換』を発動!」


「知と魔の変換……?」


「この札の効果は、自分の手札を全て捨て、同じ枚数を引いたあと、余分にもう1枚引く事ができます!」


 これで一気に墓地へと札が5枚増える。

 それでいて、手札は変わらずにおまけで札を1枚引けるというお得な連詠唱札。

 デッキに2枚しか採用していないため、なかなか来ないが今回は助かった。

 これで連詠唱札の使用枚数は9枚。

 墓地には札が使用した札を含め、31枚。


「私はこれでターンエンドです……」


 あとはギリギリまで次のターンで置き札を削っていく。

 そうして溜めた大量の墓地を利用し、あれを発動させることが出来れば、いける。

 勝てるんだ、このデュエル。


「不思議なものだね……」


 ふと、ケイルはそう言う。


「不思議……だって?」


「あぁ、そうさ……君達は僕のデッキを勝ちたいという意思が感じないというじゃないか、何も知らない癖に」


「っは、なんだそりゃ……目的や意図が全く理解出来ないデッキのどこに勝ちたい意思を感じるっていうんだよ!」


 ケイルは、はぁーと長いため息をつく。

 と、唐突にこう聞いた。


「君達、ジグソーパズルは好きかい?」


「……は?」


 思わず俺は、間の抜けた声が溢れてしまった。

 ウィズもこれには理解不能の様子。


「なんですか、急に……」


「あぁ、ごめんごめん……いきなり言われても意味がわからないよね……」


 そう詫びと言い直しをするようにして、ケイルは続ける。


「僕はね、デュエルというのをジグソーパズルって例えているんだ……」


「ジグソーパズルに……?」


 何を言っているんだ。

 ケイルは理解に苦しんでいる俺達に、また語り出す。


「ジグソーパズルにも、完成させたいと思う人はいるけど、その大きさやピースの数、そういうものは変わってくるのさ……ある人はピースが少なくて、手短に完成出来る物が好きっていう人もいるし、中には物凄く巨大で大量のピースがあるパズルを完成させて達成感に浸りたい人もいる……」


「……」


「デュエルも同じさ、手っ取り早く完成という名の勝ちが欲しいなら、軽い札で構築されていくし……相手の動きを完全に封殺するために、長い時間を要するんだったら、デッキを作る時間もかかれば、一回のデュエルも長くなる」


 確かに、理解しようとすれば、例えられなくもない。

 ケイルの言い分からすれば、速攻でケリをつけたい奴は手短に決着がつくように立ち回るし、相手の行動を完全に封じて勝ちたいなら、比例してデッキ構築にもデュエルにも時間をかける。

 前者なら、完成に時間のかからないパズルを、後者なら巨大で、ピースの多いパズルを好むということだろう。

 普通の人には絶対理解してくれない例えだと思うけど。


「だけど、実際には早くに決着をつけようとすれば、たちまち相手にそれを妨害されてしまう……つまり、どちらかと言えば、じっくりと相手の戦略を潰して勝利に導いた方がデュエルっていうのは勝率上高いといえる……わかるだろう?」


 ケイルは、俺達を指差す。


「君達は、どちらかと言えば後者だ……相手の戦略を見て、次はどうするかを考える、だから君達はデッキの動きだけで何もかも決めつけてしまうわけっ……」


「腹が立つって言いたいのか」


 俺はケイルの長々とした印象表明を遮るようにそう言った。


「ん?」


「そう聞こえるんだよ、お前の長い話、全部な! 要は何も知らない俺達が偉そうにお前のデッキは理解出来ないって言うのが腹立つって意味だろ?」


 ケイルはキョトンとしているが、俺は続けざまに煽りを効かせる。


「そんなに虫の居所が悪いんだったら、少しは俺達のデッキに抵抗してみればいいじゃねぇか! けど出来ないんだろ、出来ないよな、さっきから的外れな事ばっかしているんだからよ!」


「じゅ、淳介……」


 ウィズはそんな俺を諭そうとするが、俺は身体を前のめりにしながら吐き捨てた。


「悔しかったら――ここからデュエルを終わりにでも持っていって見ろよ!」


 静かな熱帯雨林に、その声は大きく響き渡る。

 流石にケイルも何かを感じたのか、表情が真顔だった。

 しばらく沈黙が続いた後、ケイルは構えていた手札を下ろす。


「……?」


 ケイルは、俺のことをハッキリと見ている。

 そして、満面の笑みを浮かべながら、


「タァーンエェンド……」


 ふざけたような音程の台詞は、俺に聞こえるように間違いなく言っていた。


「……て、てめぇ!」


 そうか、それが今から負ける奴の態度ってわけか。

 なんなら見せてやろうじゃないか。

 俺達の持てる最大火力ってやつを。


 

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