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深い傷と種明かし

【      ☆      】


「はぁ……」


 千年世界樹の上は地味に入り組んでいて、妖精達でも全ての場所を把握出来ていない。

 というより、こんな小さい枝の空洞を見つけている妖精が、あたしくらいしかいないというだけではあるのだけど。


「……」


 あたしはここが好き。

 昼間は空がとても綺麗で、夜は満月や星がよく見え、何よりも雲がかかっていない時は、森の向こうにある白い景色もたまに見える。

 これを見ていると、嫌なことなんて全部どうでもよくなる。

 そう、こんな狭い村に鳥籠みたいに囚われていることも、全部、全部。


 ……出られるわけがないんだ。

 あたし達は、ずっとこの村で、この森で、ひっそりと暮らすしかない。

 外の世界に興味がないといえば、それは嘘になる。

 あの白い景色が見える場所は、きっとすごく寒いんだろうけど、この森じゃ見られない物がいっぱいあるんだ。

 ワクワクするし、見てみたいとも思う。

 けど――。


「綺麗な場所だな、ここ……」


「っ!」


 あたしは、後ろに振り返る。


「よっ、やっぱここにいたんだな」


 翼の生えた黒猫、確か、淳介だったかしら。


「……なによ、なにしにきたの?」


「へへっ、ちょっとお前とは話したいことがあってな? 隣、いいか?」


 淳介は、あたしの隣に身体を降ろす。

 話したいこと、か。

 あぁ、そういうことね。

 あたしはすぐに理解した。


「笑いに来たんでしょ、ハンデスなんて嫌らしい戦略使って負けたあたしのこと……」


「……」


 淳介は、何も言わない。


「だってそうよね、最後の最後であんな負け方しちゃうんだもんね……ほんと、自分で言うのもなんだけど、無様……」


「なぁ」


 あたしのネチネチとした言葉に、淳介が割って入る。


「……なによ」


「お前のマスターカード、あの木偶人形だったんだろ?」


「――え?」


 それは、思いがけない一言だった。

 しかし、あたしは次の言葉にも驚いてしまう。


「そして多分、その効果は、相手の置き札から引いた札を公開するって効果……違うか?」


「……せ、正解」


「おお、やっぱりそうか……!」


 嬉しそうな顔をする淳介。

 頭の中が疑念でいっぱいになる。


「どうして……」


「ん?」


「どうして、わかったの? あたしはあんた達にそんな素振り見せなかったはずよ?」


「うーん……これはマスティマが気づいたことで、俺の発見じゃないんだ……俺も、言われるまで全然気づかなかったよ」


「……」


 それでも、よく気づいたと関心する。

 あたしのハンデスは、少し特殊だ。

 相手に札を引かせる代わりに、こちら側にとって苦手な札は全て山札の下に置く。

 そうしているうちに、自分は直接ダメージを与えてくる攻撃を防ぐ式狛や、条件を満たすことで出せる巨大な式狛を並べていくことを戦法としている。


「ハンデスっていうのは、相手の手札を見ることが出来た方が一番やりやすい……けど、手札を全て公開するなんてマスターカードだと、絶対コストが重いからな、それを補うためにドローカードを透かせるマスターカードと、相手に置き札ドローを強要させる『戯れの沼妖精』が採用されているわけだ」


 そう、それだった。

 手札を全て見たくても、コストがどうしても重かった。

 最初そこであたしは躓き、このデッキをどうするべきかとずっと迷ってしまっていた。

 しかし、そこにあのコスト3の木偶人形『知詠みの木偶像』を見つけた。

 

「それで、このコンボによって相手は自分の使いたい札が下に行って、たいていはテンポダウンするわけだが……」


 淳介は俯いて考える。


「どうしたのよ」


「結局、そのデッキっていうのは、何を狙うデッキなんだ?」


「……え?」


 これまた意外な一言。

 ここまできたなら、あたしの戦略も全てバレているものだと思っていたから。

 思わず、あたしは、


「……ふっ」


 クスッと笑ってしまう。


「なんだよ、人……いや、猫をバカにしたかのような笑い方しやがって……」


「ふふっ、だって、ここまでわかっておいて、何を狙うかわかってないっていうんだもん……ふふっあっははははは!」


「なっ……そんな爆笑することないだろ? 勿体ぶらないで教えろよ!」


「あーはいはい、馬鹿なあんたにもわかるように説明してあげるわ」


「馬鹿っていうな!」


「馬鹿でしょうが、そんなんで現神を倒そうなんて思ってるの?」


「うっ……」


 目を逸らす淳介。


「ふぅーん……何も言えなくなっちゃうんだぁ」


 ちょっと可愛い。


「と、とにかく教えろよ!」


「はいはい、馬鹿淳介」


 あたしは、ちょっと可哀相になった淳介にどんな動きをするのかを説明する。


「といっても、ここから狙うのは簡単、横に並べた式狛によるワンショットよ」


「ワンショット?」


 淳介は、首を傾げる。


「でもよ、伏札はどうするんだよ、それがある限りワンショットなんて……」


「そうね、伏札あれば、ワンショットは通らない、でもそれは置き札になければ発動できないでしょ?」


「あっ……あぁー!」


 どうやら淳介はようやく理解したようだ。

 そう、伏札は置き札にないと発動できない。

 ならば、伏札を全部手札に加えさせてしまえばいいというのが、このデッキの戦略。

 こちら側にとって不都合な札を使わせないようにひたすら動き、そうしてデッキが一周したのを確認してから殴り始める。

 その頃には、自分の場には相手が処理出来ずに並んだ大量の『沼の半鮫龍』が並んでいるため、ハンデスの欠点である火力を絶妙に補っているんだ。


 

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