狙われた者達
「何者じゃ!」
俺は耳をピクッと動かす。
声の方向に目をやると、透き通る羽を生やした少女がそこには立っていた。
身長はウィズより少し小さいくらい。
しかし、俺はすぐにわかった。
「わぁ……!」
目を輝かせる。
そう、そうだ。
千年世界樹があるなら、彼女を語らなければいけないだろう。
「大妖精……リーンブル、本物だ……」
千年世界樹の守り妖精。
背景だと、崩壊していく世界の中、最後まで千年世界樹を守り抜こうとした偉大なる妖精。
しかし、それだけにとどまらないのがこの御方のすごいところだ。
『フェアリーズロックミッドレンジ』。
その種族、コストを増やすことに長けたフェアリーズを中心にした構築が出来たのは、大妖精リーンブルが収録されてから新しい弾を二つ挟んだ頃。
大妖精リーンブルは、場にいる限り、自分のフェアリーズは攻撃されず、スペルによる影響を受けないという効果がある。
一見強いどころか勝負が決してしまう効果に見えるが、最初はコストが9という重さとフェアリーズの大半がパワーの低いことで軽コスト除去に引っかかりやすく、それほど評価が高くなかった。
しかし、新しい弾を重ねると、フェアリーズの種類増加や小型の攻撃力や耐久力を引き上げるカードが登場し、唯一の弱点だったサイズ除去(パワー指定などで除去対象を指定するカードのこと)に耐性を得たこのデッキは、一時的に大会を濃い色に染め上げていった。
俺の身体は、震えている。
それを心配そうにウィズ。
「じゅ、淳介……」
だが、ウィズには申し訳ない。
本当に申し訳ないことだが、この震え、小刻みに揺れる身体は……。
「す、す……すっげぇーっ!」
俺は、抑えていた嬉しさを思わず声に出した。
「な、なんじゃ!」
「あ、す、すみません……俺、淳介って言います!」
「……淳介じゃと?」
俺を睨みつけるリーンブル。
そして、すぐに俺ではなく、ウィズの後ろに隠れていた3匹に目線を移した。
「「ひぃっ!」」
ノノとテテは小さく悲鳴を上げた。
その間には、彼女らの姉であるリリが気を失ってそこにいる。
「なるほど……リリは負けたということか、あるいはあの力を無理に使おうとしたか……」
あの力……。
もしかして、あの一角鮫のことだろうか。
「しかし……ノノ、テテ、どうしてここに彼らを入れたのじゃ?」
「そ、それは……」
「……」
口籠るノノと、怯えながら目を揺らすテテ。
答えが返ってこないと判断したリーンブルは、ため息を付きながら言った。
「まぁよい……どうせこの場所には連れてくるつもりじゃったからの……ここで捕まえてしまえばどの道変わらん!」
「なっ……」
俺は思わず身構える。
リーンブルがそう言った瞬間、俺とウィズに向けて大勢の妖精が集まってきた。
暗くてよくとは見えないが、点々と光る光沢の光で何が向けられているかすぐに分かる。
だが、あれほどの小さい弓矢でもこれだけの人数で浴びせれば、小さい俺や傷ついたウィズを殺傷するには十分だ。
「ま、待ってッテ!」
テテが前に出て静止させる。
「そこをどけ、テテ……我々にはもう時間がないのだ!」
「リーンブル様、やっぱこんなのおかしいッテ! 私にはどうしてもこの人達が悪い奴には見えないッテ!」
怪訝な表情をするリーンブル。
「……そこをどくのじゃ、テテ」
「どかないッテ! こんなの絶対間違ってるッテ!」
震えた身体で、それでも一歩も退かないテテ。
「やむを得ん……構えっ!」
リーンブルの周りに飛んでいる妖精達が、一斉に弓弦を引き絞り始める。
やばい……。
俺は……。
俺は、どうしたらいいんだ。
「テテ、ノノ、リリ……すまないが、我々のために、死ね!」
「……!」
「テテ、逃げるノぉ!」
その声も虚しく、引き絞られた矢は降り注ぐ。
そして、響いた。
矢の突き刺さる音が、俺の耳に劈くように。
「はぁ……はぁ……」
「あ……あ……」
ごめんな、ウィズ。
こういう時の俺は、やっぱ無力だ。
「なぜ……」
リーンブルは目を疑っている。
俺たちは多分、避ける隙がいくらでもあったし、すぐにここから背を向けることだって出来ただろう。
でも、それじゃあ、ノノとテテをその場に残すことになってしまう。
ウィズは、抱き込むように守っていた二人を見ながら、安堵する。
しかし……。
「ぐっ……あ゛あ゛あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
背中に受けた矢による激痛で悲痛な叫びを上げる。
「なぜ……なぜじゃ、なぜ避けなかった!」
「はぁ……はぁ……当たり前……です!」
そうだ、当たり前だ。
「もう、こいつらは俺たちにとって、友達……なんだ……俺たちは、こいつらとまたデュエルがしたいんだ!」
「なんだそれは……たったそれだけのために、庇ったというのか!」
「っは……なんだ……そりゃ、大妖精リーンブル様ともあろう者が友達をたったそれだけなんて……言っちまうのかよ……この……偽物、め……」
だめだ、意識が……意識が遠くなる。
「ウィズ……ウィ、ズ……」
ズルズルと地を這いながら、俺はウィズに近づいていく。
ごめんな、守ってやれなくて。




