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それぞれに理由

 

「癒しの聖者アイルテイル……?」


 場に現れたのは、立派な杖を持った女性の聖職者の姿。

 その攻撃力は1、耐久力は3。

 攻撃こそ出来るが、あまりにも攻撃力が低すぎる。


「我はこれでターン終了だ……」


 と、その宣言を聞いた瞬間、化け物は拍子抜けしたように笑い出した。


「ぷっ……はははははは! そいつが反撃の鍵ってかァ?」


 化け物は首を横に振る。


「馬鹿も休み休み言いやがれよォ、悪魔の姉ちゃん……」


「ふん……この式狛を甘く見ているようだな」


「なにぃ?」


「まぁすぐにはわからんさ……貴様のように、自身の能力ばかりに特化している者なんかにはな」


 そう言って我がほくそ笑むと、ギロリと化け物はこっちを睨んだ。


「召喚が上手くいったぐらいで調子に乗ってんじゃねェ!」


 相手のターン、置き札から2枚引き、手札から2枚が行使される。


「自身の能力に特化している奴にはわからねェだと? だからって勝利に繋がるわけでもねェ癖に、戯言言ってんじゃねェ!」


 その札は、どちらも召喚札だ。


「オレは、毒蛾のバッドフライ、さらにコスト2で横転殺戮虫ニードルワームを召喚、そしてっ……」


「この瞬間――――!」


「……!」


「癒しの聖者アイルテイルの常在効果を発動するっ!」


 割り込むようにして、アイルテイルは杖でタンッと地を叩く。


「アイルテイルは、他の式狛が出るたびに、自分の手札を2枚まで置き札の一番下に置く……そして、その後に我は置き札を1枚引く!」


 今出てきた式狛は2体。

 我は自分の手札を4枚置き札の一番下に置き、札を2枚引く。

 これが時間稼ぎという理由。

 式狛が出れば出るほどライフを回復していけるのだ。


 アイルテイルは、自分が立っている周囲に魔法陣を展開する。

 そこから緑の泡のような物体が湧き出てくると、それが我の身を包んでいく。

 これが、この召喚札が持つ癒しの力か。


「これで……先ほど受けたダメージ分は取り返した……」


「っぎは……だからなんだってんだァ、あァ!?」


「……!」


 落ち着きも束の間。

 四枚羽になった化け物が、我の目に突っ込んでくる。

 先ほどよりも、威力を増して――――。


「オラァ、バッドフライの攻撃力2、ニードルワームの攻撃力3を足して、オレの攻撃力は9だァ!」


 その勢いはまるで巨大なボーアが全速力でぶつかってきている様。

 だが、刺突の威力はそれの数十倍。


 ドズンッ!


「ぐ……っァハ……」


 もはや吹っ飛ばないように受け止めるのすら、精一杯。


「っち、本当に丈夫な悪魔だ……だが、そろそろ限界は近いみてぇだがなぁ?」


「はぁ……はぁ……」


 確かに、こんなターンごとに増していく攻撃、じきに耐えきれなくなるだろう。

 だが、あと少し。

 あと少しで見える気がする。


 奴にとっても我にとっても、無駄に見えるかもしれないが、それを一瞬のうちにどんでん返されるようなものが、きっと。

 なぜならあいつらは……。

 ウィズと淳介は、それをいつだって作り上げてきた。


【      ☆      】


「はい、これでとどめです! 墓地にある札のコストは2、4、3、追加攻撃権を得て、攻撃!」


「ぐっ……むぅ……」


 それは、コロシアムでの戦いに勝利し、セリーヌとの一件も終えて、数日経った頃の話になる。

 ウィズと淳介が、試作段階で構築したというデッキの調整役として、我は卓上デュエルをしていた。

 結果は見ての通り。

 準備段階である戦略札『永久の墓穴』までは使えるのだが、そのデッキが使う連詠唱というギミックが先に発動できてしまうために、どうしても我は勝ちを拾うことが出来ずにいた。


「えへへ、デュエルありがとうございます、マスティマさん」


「へっ、これでウィズが三連勝だな!」


「むぅ……」


 我は低く唸り声を上げる。


「……マスティマさん?」


 これでもう三回は負けている。

 どうあがいてもあの連詠唱を溜めてから『逆さ釣りの魔女窯』からのノーコスト『リコードタグワンモアテイク』は、我のデッキと相性が悪いような気がしてならない。

 いくら我が式狛を場に並べても、ウィズ自身のマスターカード効果とリコードタグワンモアテイクの追加攻撃により、ダメージを抑えるどころか、全壊して一方的にダメージを大量に喰らってしまう結果だけが残る。

 こんなデッキ相手に、我はどう戦えというのだ。

 というか、そもそもこのデュエル、我が一方的に不利を強いられてばかりではないか。

 というよりも、追加攻撃とはなんだ。

 そんなことが許されるなら、どんなデッキでも勝ててしまうだろ。

 思考が、悪い方向に傾き始めた我は、ウィズに向けてこう言った。


「ウィズ……そろそろデッキを変えてはくれないか?」


 その言葉に、淳介がピクリと反応する。

 しかし、先に声を上げたのは、言葉を掛けられたウィズの方だった。


「え?」


「もう十分そのデッキが強いことは証明されただろう? これでは我が全く練習にならないではないか!」


「え……ですけど、まだ三回しかやってないですし……このデッキしかまだ作ってなくて……」


「ウィズ……もしかして、ただ我に一方的に勝ちたいがために三回もデュエルしたんではないだろうな?」


「ち、違いますよ、回し方の練習が足りないと思ったから……その……」


 その時の我は、ウィズが我を一方的に負かしたいがためにやったのではないか、その思考にばかり染まりあがっていた。

 恐らく、あのまま話が進んでいたら、ちょっとのいざこざでは済まなくなっていただろう。


「ぷっ……ははははは」


 淳介は、そんな我らを見て笑って見せた。


「淳介、なぜ笑う!」


「いや、だってよ……ははははは!」


「ぐぅ……笑うなっ!」


 我からして、まるでそれは嘲笑っているようにしか見えなかった。

 しかし、淳介は、こう続ける。


「つまり、マスティマはこう思っているんだろ?」


「……?」


「どうしてまだルールも覚えて間もない相手で、こんな強いデッキの調整に付き合わされているんだ……ってな」


 心の隙を突かれたように、我は目を反らす。


「……図星か?」


 それを見て、淳介はニッと笑った。

 まさにその通りだったのだ。


「ど、どうしてそんな具体的なところまでわかった……」


「別にわかったとかじゃねぇよ、よくある話さ……デュエルにおいて、強いデッキほどめんどくさいし、付き合えば一方的に負けるしな……マスティマ、お前が不機嫌になるのもよーくわかる、うん!」


 淳介の言うことは、的を射ていた。

 恐らく我が癇癪を起してしまったのは、それが原因と見ていい。


「でもな、マスティマ」


「ん?」


「お前のデッキ、実はウィズのデッキよりもはるかにパワーは高いんだ、あとは()()()()()()()()()()ってとこかなぁ……」


「タイミング、だと?」


「ちょ、ちょっと淳介、それじゃ私が不利なるじゃないですかぁ!」


「ははは、悪ぃ悪ぃ、ウィズ! さぁ、マスティマ、ヒントは与えたぜ、どうする?」


 タイミング、か。

 まだ少しわかっていないが、その言葉が指す言葉は、なんとなく理解できる。

 まだ半信半疑だが……。

 我は、目の前で淳介にプンプンと怒るウィズに向かって言った。


「ウィズ……もう一度デュエルを頼めるか?」


「あ、もちろん!」


「……切り替え、はやいな、不利かもしれんのにデュエルを受けるのか……?」


「そんなのやって見なきゃわかりませんもん! ね?」


 なぜそこで我に同意を求めてくるのか。

 全く、本当に変な奴だ。




 

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