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遅すぎる合流、キレる推測

【      ☆      】


 空は一面猛吹雪。

 そんな中を、飛びながら進む。

 あのカレナリエンを倒す寸前まで追い詰め、一人ウィズ達の行方を追ったガロンは、元の北、フリーズフローズンダウンに近しい寒冷の地まで引き返していた。


「視界が……悪いですねぇ」


 こうも目で見える範囲が狭まっていると、目的を見つけるのは難しい。

 そしてなによりも……。

 ガロンはブルッと背筋を震わせる。


「全く、メイは何をしているんですかっ……」


 効率化を制限しているのは、この寒さのせい。

 本来であれば、竜人であり体温を高く保っているメイがいたからこそ、捜索は上手くいっていた。

 もうそんなふうに寒さをこらえながら辺りを見回すこと数時間になる。

 耐え難い寒さと、見ても見てもいない目的と、メイの遅すぎる合流に、ガロンはイライラを募らせていた。


「これだけ見てもいないとなると……飛ばされたのはこの辺りではないということ、でしょうか……」


 既にその線は疑っていた。

 いくらカレナリエンが転移魔法の精度に長けていた可能性というのを考えても、ウィズらの目的がフリーズフローズンダウンであることを知っていたかは定かではない。

 そうだとすると、飛ばされたのは……とりあえず元来た道というわけではないだろう。

 あの辺りには、まだあの双子が徘徊している。

 もし振り出しに戻されているなら、すぐに彼らが捕まえてしまうはず。

 匂いを追っている彼らだ。

 早々に探すのは容易だ。

 だとすると、飛ばされた先は恐らく――――。


「よぉ、何ボケっと浮いてんだ?」


 ……聞き覚えのある声に、ガロンは一つため息をついた。


「遅いですよ、メイ……一体どこをほっつき飛んでいたんですか?」


 怒声を強く込めながら言うと、そんなガロンにメイはガンを飛ばす。


「そういうおめぇ……俺様に一つ隠し事をしてたんじゃねぇのか?」


「はいぃ? さて、なんのことやら……」


「とぼけてんじゃねぇ、てめぇ、飛べることを隠してやがったなっ!?」


 何を言われるのかと思えば……。

 今更か、とばかりに首を横に振るガロン。


「隠しておいた方が得することもありますからねぇ……」


「っは、んじゃあ、もう得はしねぇな……もう一生抱えて飛ぶこともなさそうでスッとするぜ……」


 それはまるで、ここから先の極寒をたっぷりと味わえと言わんばかりの言い草。

 勝ち誇ったように顔を背けるメイに、ガロンはムッとしながらこう続けた。


「どうやら、この近くには飛ばされていないようですよ、メイさん?」


「はぁ? おめぇ、ちゃんと探したのかよっ!」


「無茶言いますねぇ……この寒さではワタシには少し厳しいですし、よく考えてみてください……カレナリエンさんが、彼らの目的地であるフリーズフローズンダウンのことを知っていた思いますか?」


「うっ……」


「まぁーったく……これだから脳みそ筋肉のドラゴンは……」


「てめぇ、ぶっ殺すぞコラァ! じゃあ聞くが、奴らがどこへ飛ばされたか、検討はついてんのかよ!」


 ガロンは表情一つ変えない。


「ほれみろ、わかってねぇじゃねぇか! てめぇの脳みそも小さすぎて、この辺りばっかうろうろしてたんだろ?」


「いいえ、いくらかの検討はついてますよ?」


 メイは、そのガロンの反応に違和感を得た。

 なんというかこう……いつもの張り合ってくるようなものではなかったのだ。


「……?」


 不思議な顔で、その後の返答を待つメイ。

 少しばかり考え込んでいる様子だったが、ガロンは言った。


「メイさん、恐らく彼らの飛ばされた先は、この寒冷の地から西……気温の高い亜熱帯雨林の地ではないかと思われます……」


「なんだよ、随分冷静に言葉返してくるな……らしくないんじゃねぇか?」


 また沈黙をきめるガロンは、どうやらメイの言葉を無視したようだ。

 腹が立つ態度だ、とメイが考えていると、突然としてこっちを見た。


「メイさん、ひとまず彼らを待ち伏せすることにしましょう……」


「はぁ?」


 それは、明らかに今までメイが見てきたガロンの性格とはまるで違う、そんな一言だった。


「場所はそうですねぇ……例の機械都市がいいでしょう、あそこならフリーズフローズンダウンに向かう途中ですし、必ず彼らが補給に立ち寄るはずです……」


「ちょ、ちょっとまておい!」


「なんですか、メイさん?」


 いくらなんでもおかしい。

 根強く執着するガロンが、ここまであそこら辺の地域をまるで避けているようにも見える。


「別に追ってもいいんじゃねぇのか? その方が体温を保てねぇてめぇ自身にも有利だろ?」


「……」


「どうしてそこまで、頑なにあの場所へ行くのを拒むんだ?」


 何も知らないのか、と言わんばかりにガロンは肩を落とす。

 その後のセリフは、いつもと変わらない。


「これだから、全身筋肉のドラゴニュートは……」


「っ……てめぇ、また言いやがっ……」


 しかし、珍しくガロンはこう言い返した。


「まっ……しかし今回ばかりは無理もないでしょう、ワタシも内容だけしか知りませんからねぇ……」


「なんだよ、もったいぶるんじゃねぇ、さっさと教えろ!」


「仕方がないですねぇ……では、向かいつつ話してあげますよ」


 と、ガロンは西へと空路を切り始める。

 それにつられる様にして、メイも後を追った。


「で、その西にある亜熱帯雨林……そこに何かあるのか?」


「……」


「黙ってんじゃねぇ、それともなんだぁ? あんだけデカい口叩いといて、実は何も知らないってオチかぁ?」


「メイさん……」


 ガロンは、そっと横眼をこっちに向けた。


「生態融合って――――知っていますか?」



【      ☆      】



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