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アテリースマギサ  作者: かいり
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2話―③『自称"最強"』

「魔具を持っている」という噂は、案外馬鹿に出来ないものだった。

「ねえ君だよね? 魔具持ってるって子は」

「え? あ、あの……」

「私と戦わない? 強いんでしょ?」

「え、えーっと……」

 食堂で夕飯をとっている間、蘭李に声をかけてくる輩は大勢いた。しかも決まって「戦え」と。

 恐らく上位クラスの連中だろうが……ここまで好戦的だとはな。そんなに戦いに飢えてるのか?

「ほら、早くやろ」

「えっ……⁈」

 蘭李の腕を掴み、無理矢理引っ張っていこうとする女。当然蘭李は嫌がるが、力で勝てるはずもなく。それが分かると、懇願するような視線を俺に向けてきた。

 ったく……仕方ねえな……。

「ストオオオオオップ!」

 さあ立ち上がろうとした瞬間、紫乃の声が響き渡った。食堂が一斉に静まり返る。唖然とした女に、紫乃は構わず近付いた。

「華城さんと戦いたいのなら!」

 ビッと俺を指差す紫乃。

 ―――ちょっとまて。何となく言いたいことがわかったぞ。

「おいやめ―――」

「この神空蒼祁君を倒してからだよッ!」

 この………馬鹿!

「おい、ふざけんな! 何勝手なこと言ってんだよ!」

「神空君は最強なんだって! 自分で言ってたって! ねっ⁈ 華城さん!」

「えっ⁈ うっ、うん!」

「おい―――」

「……へえ」

 一瞬にして、周囲の空気が変わった。あらゆる視線が俺に集中する。

 今ので標的が俺に変わったことは明白だ。紫乃は蘭李を助ける為に言い放ったんだろうが、俺には迷惑でしかない。

 戦うこと自体が嫌だとか、勝つ自信がないとか、そういう理由ではなく。いちいち相手をしなくちゃいけないことが嫌なんだよ。

 言っておくが、強がりじゃねぇからな? 事実だからな?

「じゃあ戦ってよ。自称最強君?」

 女が見下ろしてくる。檸檬色の目は、やる気に満ち溢れていた。

 くそ……こうなったらやるしかねぇか……。

「いいよ。やってやるよ」

「ええっ⁈ 本当にやるの⁈」

 蘭李が驚き、女は笑う。好奇の視線を浴びながら食堂を後にした。前を歩く女の背は自信に満ちている。

 くいっと服を引っ張られた気がして振り向くと、蘭李が不安そうに俺を見上げていた。

「だ、だいじょうぶなの……? 蒼祁がやらなくても……」

「じゃあお前、勝てるのかよ」

「そ、それはムリだけど……」

「なら大人しく見てろ。大丈夫だよ。負けるわけがない」

「うん………」

 あまり納得していないような返事をし、大人しくついてくる蘭李。同じく心配そうな桜井と、心配どころか楽しそうに喋る朱兎と紫乃も、その後を追ってきた。

 どうせ放っておいて蘭李が大怪我なんてしたら、朱兎が大暴れしそうだし。どの道戦う羽目になるんだ。さっさと黙らせた方がいいだろ。

「私もここを使うのは初めてなのだけれど……」

 女はそう言いながら、演習ルームの隣の部屋のインターホン(・・・・・・)を鳴らした。少しして、気だるそうな女の声がスピーカーから聞こえてきた。

「なんだ?」

「あの、演習ルームを使いたいのですけれど……」

「あー? チッ、めんどくせぇなぁ……場所は?」

「え……? ば、場所?」

「知らねぇのかよ。めんどくせぇなぁ……」

 本当に女なのか疑うくらい口調が荒かった。通信が切られると、演習ルームの扉が開く。女に続いて入っていった。

 中に入ると、草原(・・)が広がっていた。

「なっ、なにこれ⁈」

「わーすごーい!」

「魔法……⁈ 幻術……⁈」

 ざわざわと野次馬が騒ぎだす。膝をついて草を触ってみると、たしかにそれは本物だった。空には眩しい太陽、心地よいそよ風も吹いている。

 漏れなく全員同じ風景を見ている。これは幻術ではなく―――この場所に移動したのか?

「とりあえずこれでいいだろ?」

 先程の女の声が降ってきた。

 成る程。ここで戦えと。つくづくこの学園はとんでもないことをしてくれるな。

 女は笑い、奥へと歩いていった。振り向くと、随分とギャラリーが増えていた。ざわざわと、俺達を見ては仲間内で何かを話している。

「アニキー! がんばれー!」

「不安だなあ……蒼祁クン大丈夫?」

「大丈夫大丈夫! 神空君強いから!」

「紫乃くんがいうことじゃないよね……」

「えへへ、まあね。ねーそれよりもさー! 華城さん、らんちゃんって呼んでもいい?」

「えっ?」

 ―――あいつ、俺に押し付けたくせに何してんだ。「それよりも」とか言うな。もう少しこっちに興味持てよ。

「桜井さんは、ももちゃん!」

「いいよいいよー!」

「オレはオレはー⁈」

「うーん……じゃあ、ラビくんで!」

「ラビくん?」

「ウサギのラビットから! 朱兎って朱い兎って書くんだよね?」

「あーなるほどー!」

「おい」

 俺の声に、蘭李達は振り向いた。特に紫乃や桜井は「何?」みたいな顔をしている。

「何だその顔は。少しは緊張感持てよ」

「持ってるよ! アニキ!」

「蒼祁クンにもつけてあげなよ! 紫乃クン!」

「えー……うーん……」

 つけんでいい。そんなに考えるな。絶対変なのつけるだろお前。

「神空君は………神空君のままかな!」

「―――おい」

 何でだよ。この流れで何故俺だけ。

「何で俺だけそのままなんだよ」

「何となく!」

「つけてあげなよー! 蒼祁クン、仲間外れにされて拗ねちゃうよー!」

「誰が拗ねるか。それにつけなくていい」

「でもイヤなんでしょ?」

「嫌じゃなくて、何でその流れで俺だけそのままなのかって訊いてるんだよ。おかしいだろ」

「だからあ、つけてほしいんでしょ! もおーツンデレなんだからあー!」

 駄目だ。話にならない。桜井は無視しよう。

 その後も、紫乃は馴れ馴れしく蘭李に喋りかけていた。同じ位の年だから親近感が沸いたのだろうか。人に仕事押し付けておきながら。

 ―――チッ。腹立つな。さっさとこんな戦い終わらせよう。

「馬鹿の集まりね」

 フッと笑う声。女が俺達を傍観しながら、嘲笑していた。女だけじゃない。他のギャラリーもクスクスと笑っていた。それに気付いた桜井は、恥ずかしそうに肩をすくめる。

 まあ、良いものではないな。朱兎や紫乃は平気みたいだが。

「早く始めようぜ」

「ええ。いいわよ」

 女が黒いとんがり帽子を被った。俺はポケット内の魔導石を左手で握りしめる。

 先に動いたのは女だった。呪文を呟きながら一直線に駆けてくる。俺もその場で呪文を唱えた。

「『ソーマ・プロードス』」

 唱え終わった瞬間、女が銃口を向けてきた。右へと飛ぶと同時に銃声。追撃が迫るが全てかわす。距離を詰められないよう、女との距離は注意していた。

「チッ………ちょこまかと……!」

 女が急停止し、懐からナイフを取り出す。呪文を唱えると、ナイフは宙に浮いた。そのままこちらへ飛んでくる。

 これは今日授業でやった魔法か。慣れた感じを見ると、恐らく他のクラスの授業ペースは早いんだろうな。

 ナイフが刃を振るってくる。その間に銃弾も飛んでくる。初めに唱えた「強化魔法」のおかげで、全て避けることが出来た。

「……やっぱり、がら(・・)じゃないな」

 強化魔法はたしかに便利だ。だが、これは朱兎の十八番だ。俺は俺のやり方でやった方がしっくりくる。

 呪文書を先読みしていてよかった。左の手のひらをぎゅっと握り、呪文を唱えた。

「『プラーグマ・カノ』」

 直後、俺の周囲にドーム状の結界が現れた。ナイフや銃弾は弾き飛ばされる。

「なっ……⁈」

「ああ、やっぱこれが一番楽だな」

 女へ向けて右手を水平に上げ、再び同じ呪文。すると、指先から青い紐(・・・)が伸びていった。それは蛇のように、女目掛けて飛んでいく。女は避け、紐へと銃弾を放った。しかし外れる。

「馬鹿か。そんな細いもの狙うより、俺を狙った方がいいんじゃねえの?」

「……うるさいっ!」

 思い出したかのようにナイフが振るわれるが、結界には傷一つつかなかった。五本のうち一本の紐を、そのナイフの柄に絡めた。そして、逃げ惑う女へと目標を定める。

「もう……! 何なのこれ……ッ⁈」



 ――――――――――――グチュッ



 余程動揺していたのか、もともと弱いだけか。案外簡単にナイフを刺すことが出来た。

 女は硬直する。紐を操って、背中に突き刺したナイフを抜くと、女は倒れた。緑の草が赤へと変わっていく。俺は魔法を全て解いた。ナイフは女の顔の傍に落ちる。

「油断していたのか? それとも……見たこともない魔法に焦ったか?」

「なっ……なんなの……君……」

「底辺だからって見くびってると、殺すぞ」

 しんと辺りが静まり返る。溜め息を一つ吐き、踵を返した。蘭李達の元へと歩き出す。

「さ。戻ろうぜ」

「さすがだねー! アニキー!」

「当たり前だろ」

「ま、まってよ蒼祁! あの人、どうするの……?」

 蘭李が心配そうな視線を女へと向けている。相変わらず、こいつはこういうこと(・・・・・・)に慣れないな。

「知るかよ。勝手に自分で治すだろ」

「で、でも……」

「戦った相手が負傷者を医務室まで運ぶことになってんだよ」

 空から声が降ってきた。どうやらずっと見られていたらしい。

 戦った相手がって……チッ、めんどくせえな。それならやっぱりやらなきゃよかったと思う。

「ちなみに殺してしまったら……キツーイおしおきがあるそうだぞ?」

 ケラケラと笑いながら、女の声は消えていった。俺の顔を窺う蘭李。

 仕方ない。運ぶか―――倒れている女の傍へ行き、呪文を唱えた。女の体が浮く。それを連れて出口へ向かうと、皆すぐさま道をあけた。困惑や恐怖の視線が占めている。

 そんな中、一人だけ異質な者がいた。もともと俺の実力を知っていた朱兎でも蘭李でもなく、全く別の人物。



 ――――――紫乃が、笑っていたのだ。


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