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09 初王都


「ここが、王都……」


 人が多い。

 祭りかなにかみたいに、通りの石畳の上はたくさん人が歩いている。

 その先、

 塀にかこまれた城が見えた。


「ここはまだ王都じゃないのよ」

「え?」

「まだ城下町。王都はこの先。城下町の方が人が多いけどね」


「なんてことだ」

「王都は初めて?」

「町と村で生きてきました」

「それも悪くないけどね」


 ちなみに森からここまでは、森で切った木を使って、氷と風とで高速移動してきた。

 死ぬかと思った。


 鏡は、板に、木に巻きついていたつるで縛りつけて、俺がぶらさげている。


 もちろん、ここでは俺はラーラさんを抱えていない。


「行きましょ」

「は、はい」

「おいそこのお兄ちゃん、どうだい」

 ガラガラ声の、人相の悪い男が笑顔で近づいてくる。

「え? あの、あの」

「いらないから」

 と、ぴしゃりとラーラさんがひとことで追いやり、ずんずん歩く。


「そんな言い方しなくても」

「はっきり言わないとついてくるよ」

 俺はずんずん進むラーラさんについて歩く。

「どこに行くんですか」

「まずはそこ」


 道具屋へ。

「こんにちはー」

 ラーラさんと入っていくと、背の低いおじさんが顔を上げた。

「いらっしゃい」

「買取、いいかしら」


 ラーラさんがふところから取り出した小袋から、ザラザラー、とカウンターに出したのは。

「こりゃあすごい」

 おじさんがそれに顔を近づける。


「これ全部、本物のウイングタイガーの爪か?」

「ええ」

「それも第一指!」

「よくわかるわね」

「わかるもわからないもねえ!」

 おじさんは拡大鏡を使って、夢中で爪を見ていく。


「ほとんど傷もないな。うん」

 おじさんは拡大鏡を外した。


「……10万でどうだい」

「全部で10万? 案外安いのね」

 ラーラさんが言うと、、おじさんは大きく首を振った。

「バカ言っちゃいけねえよ! 一枚だ、爪一枚あたり10万!」


「ウイングタイガーの爪ってあんなに高く売れるんですか」

「私も初めて知った」

 ジャラジャラともらった金貨をラーラさんがしまう。


「でも、黙ってたら私たち、わからなかったから、騙されなくてよかったわよね」

「もどって、もうちょっと拾ってきますか?」

「どうして?」

「もっともらえますよ」

「だってこんなにたくさんお金があるんだから、別にいいんじゃない? 他の人にあげたら」

「あ、そうですね……」

「だいじょうぶ、イン君の分はあとで半分あげるから!」


 ラーラさんはにっこり笑う。

「なんか……。もらえるものはもらっておいたほうが、って思ってたのが恥ずかしくなりました……」

「なるほど。そういう考え方もあるわね」

 今度からそうするわ、とラーラさんは笑った。


 次に入ったのは服屋だった。

 なにを買うのかと思ったら、俺の服?。

「はいこれ」

 肌触りがよく、それでいてしっかりとした生地の服を持たされ、小部屋に案内される。

 

 着替えて出ると、ラーラさんが満足そうにうなずく。

「すいません、この服ください」


 それから今度は武器屋だ。

「このショートソードちょうだい」

 ラーラさんは買って、俺にくれる。

「こんなもの、使ったことないですよ」

「モンスターを倒す以外にも、いろいろ使えるから」

 そう言って勝手に俺の腰に差す。


「イン君、冒険者っぽくなってきた」

「なにしてるんですかこれ」

「お城に行く準備」

「え?」

 

 ずんずん歩いていくラーラさん。

 おそるおそるついていく俺。


 そして、前に立ちはだかる高い塀。

 その塀の切れ目には、兵士が二人立っていた。


 ラーラさんは、服からなにか、銀色の板のようなものを出して見せる。

 兵士は確認し、道を開けた。

「後ろは付き人です」

 と俺を指し。

 入っていく。


 兵士の前を通るとき、やっぱりお前はだめだ! と槍で道をふさがれるんじゃないかとヒヤヒヤした。


「ここが王都ですか」

 さっきまでの城下町とは雰囲気がちがう。

 歩く人たちの歩調も、なんとなくゆったりしている。

 がやがやとした声はないし、俺のところになにか売りつけようという人もいない。

 そして自分の服を見る。さっきまでの服だったら、浮いていたろう。


「どこに行くんですか」

「そりゃ、お城でしょ」

 ラーラさんはすました顔をしている。


「なにしに行くんですか」

「ウイングタイガーの報告」

「ラーラさん、お城の関係者なんですか?」

「元々私、お城で魔法の勉強してる人だから」

「冒険者じゃないんですか?」

「実地で研究することもいろいろあるから」

「こんなに危ないことするんですか?」

「変種のスライムを見に行くはずだったんだけど、こんなことになっちゃった」


 城の入り口が近づいてきた。

 ラーラさんはまた銀色の板を見せる。

「魔法研究室所属です」

 

 兵士は道を開けた。

 一歩はいると石畳はきれいにならんでいて、植物もきれいに手入れがされている。

 ガチガチに緊張しながら、ラーラさんについていった。


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