08 陰謀の気配
ラーラさんはだいぶ森林伐採になれてきて、俺は草原をまっすぐ歩いているのと変わらないくらいの速さで、進んでいた。
氷の刃で森は切り開かれ。
住み着いたウイングタイガーは氷の槍で殺され。
ふと見上げると、太陽はまだ高い。
というかそれが見えるのがすごい。
振り返れば、大量の木が倒れている。
そのあちこちにはウイングタイガーの死体が転がっていた。
「順調ね」
ラーラさんが言う。
「順調ですね」
順調ってどういう意味だっけ? と思いながら俺はこたえた。
森の中心部くらいまで進んだか、というころ。
茂っていた木が、ちょっとすくなくなってきたあたりだった。
ドドドド、という音が聞こえる。
「なんの音ですか?」
「滝ね?」
「滝?」
言われてみれば、そんな音にも聞こえる。
「ウイングタイガーの巣かもしれない。行きましょ」
「巣って、滝がですか?」
「そう」
音のする方へと歩く。
「水はあるし、滝の裏が洞窟になってたりすると、ちょうどいいでしょ」
「なるほど」
ウイングタイガーの生態系は知らないが、穴に住んだりするのか。
木を切り倒して進む。
「あ」
ウイングタイガー。
俺が見つけたから、槍が刺さって死んだ。
ちょっと言いすぎかもしれないが、草むらをつついて虫が出てくる感じというか。
これまでよりも、断然出やすくなっていた。
もちろん、ラーラさんがあっという間に氷の槍で串刺しにしてしまうので、こわいと思う時間はないのだが。
ラーラさんは氷の槍を飛ばしつつ、これまでよりも幅広く、木を倒していく。
すると、急に視界が晴れた。
ゴツゴツした岩と、大きな池。
池の対岸、盛り上がった地面の上からは、大量の水が降り注いでいる。
滝はここか。
と見ている間にも、ラーラさんはウイングタイガーをどんどん始末している。
「あれ?」
滝。
その裏側から、ウイングタイガーが顔を出した。
俺の持つ槍に刺さったウイングタイガーの頭を見て、こちらへ向かってくる。
……前に氷の槍で死ぬ。。
また、滝の裏側から。
「本当に洞窟がありそうね」
ラーラさんが右手を光らせる。
すると、滝がどんどん凍っていった。
上の方だけだ。
すると、落ちていく水は止まり。
滝の裏の洞窟が見えた。
「洞窟が」
洞窟の奥から、ウイングタイガーが
のっしのっしと歩いてくる。
氷の槍で死ぬ。
「あそこね。行きましょう」
ラーラさんは池を凍らせた。
滝の裏の洞窟に入った。
どんな冒険をするのかと思ったら、一度右に曲がって行き止まりだった。
何頭もウイングタイガーがいられるような広さはない。
それに、子どもがいるわけでもなく、食料があるわけでもなく。
行き止まりには、ただ、鏡があった。
石壁にくっついていて、俺たちの姿を映し出している。
とても大きく、テーブルの天板くらいの大きさがある。
鏡としては、見たことがない。
「なんですかね」
「そうねえ」
そのときだ。
鏡の中から、ウイングタイガーが顔を出した。
「うわ!」
瞬間、ラーラさんが氷の槍で目と目の間を貫いた。
だらりと力なく、タイガーが鏡を抜けて地面に落ちた。
ラーラさんは、鏡の表面を凍結させた。
「あの鏡、外してくれる?」
「……」
「大丈夫、もう出ないから」
「……はい」
俺はラーラさんをおろして、おそるおそる鏡に近づく。
よく見ると、岩のでっぱりに、鏡の裏のへこみをひっかけていたようだ。
「鏡を裏返してくれる?」
「はい」
いったん二人をおろした。
そして、壁の鏡をつかむ。
なんとか、割らないように、裏返して壁に立てかけた。
「これは……」
ラーラさんは裏面に顔を近づけた。
鏡の裏面全体に、よくわからない、文字のようなものがずらずらと書いてある。
「なんなんですか?」
「別の場所から、ウイングタイガーを呼び出す魔法……」
「それを、誰かがやったってことですか?」
「たぶん」
「なんのために」
「知らないわよ」
「……そうですよね」
「モンスターがやったっていう可能性もあるんですか?」
「文字が書けるレベルのモンスターは、鏡を使わないほうが、むしろ楽でしょうね」
「じゃあ」
「人間がやったんだと思うわ」
「とにかく、凍らせておけばこれ以上ウイングタイガーは出てこないはずだから。これは、王都に持っていって分析してもらうしかないでしょうね」
「やったのが誰かわかるんですか」
「たぶん」
「王都で、動いてくれるんですか」
「それはそうでしょ。ウイングタイガーをこんな場所に出すなんて、人の被害もそうだけど、モンスターの生態系にも影響するだろうし」
「そうなんですね」
「でもこれ、お手柄かもしれない」
「え?」
「だって、こんなに早く解決する問題じゃなかったはずなのよ」
「普通、ウイングタイガーが出た、被害が出る、調査に行く、退治に行く、この鏡を見つける、っていう順番で行動していったはず。それも王都と往復してからだから、何日もかかったでしょうね。被害もかなり出たはず。それを、初期で防げたわ」
「なるほど」
「これをやったのは、この国の人間じゃない可能性もある」
「……他国の攻撃?」
「ええ。……、これ以外にも、なにか強いモンスターが出るような仕掛けをされてる可能性がもあるわね」
「まずいじゃないですか!」
「他の可能性もあるけどね。単純に、このあたりの町を全滅させたいとか、ウイングタイガーを増やして、アイテム狩りをしたい人とか。王都の防衛費を増やしたい人、なんていうのもあるかも」
「そんなに」
「考えてもきりがない」
「まずは、これを王都に運びましょう。ちゃんと封印、分析をしてもらわなくちゃ」
「でも、誰に?」
「知り合いはいるから」
「はあ」
「じゃあ、行きましょうか」
「……俺、ウイングタイガーの件までじゃないんですかね」
「あのね、ここで別れたら、私も魔力切れでウイングタイガーにやられるし、イン君もやられるわよ」
「あ」
あ!
あー!
「とっくに私たち、別行動なんてできなくなってるの。わかった?」
「……………はい。わかりました」
帰れると思ってました……。