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07 一直線


 俺たちの乗る底には氷がはりついていて。

 前には一直線に凍った道がどんどんできて。

 背後からは強風だから、氷上高速移動。


 みるみる俺が森に近づいてくる!


「ラーラさん、森が!」

 木々が迫ってくる。

 ラーラさんの左手の光が消えた。

 背後からの強風が停止。

 そして箱の周囲に新たな氷が現れ、地面の氷をひっかくようにして速度を落としていく。


「うわっ」

 無理な力が加わったせいか、箱が割れ、俺たちは投げ出されるように前へ。

 しかし風が吹いて勢いが止まる。

 ぺた、と着地。

 ラーラさんの風魔法だ。


「ちょっと、改良の余地があるわね」

 ラーラさんは真剣な顔で言った。


 ラーラさんを抱えたまま立ち上がる。

 まだ、高速移動の、箱の強烈な振動が体に残っている感じがした。


「こんなに速く移動できるんだったら、馬車もいらないと思わない?」

 ラーラさんが興奮して言う。

「……偉い人は嫌がるんじゃないですかね」

「なんで? こういうの好きそうじゃない?」

 そうか、と思う。 

 ラーラさんは俺が抱えていたから、それほど振動を感じなかったのかも。

 布などを積めば、利用もできるか?


 振り返れば、町から続いていた氷の道がずっとあって、キラキラ光っていた。

 遠くはないが、歩けばちょっとかかっただろう。それがほんの一杯、お茶を飲んだくらいの時間で到着。

 すごいのはすごい。

 お尻は痛い。


「場所を選びますけど、商売にはなるかもしれないですね」

「でしょ?」


 森を見る。


 たっぷりの木々。

 まだ日は高さがあるのだが、森の中はすぐ薄暗くなってしまって、先は見通せない。


「そうだ」

 と思ってまわりを見ると、町から持ってきた、ウイングタイガーの頭が落ちていた。

 良かった、特に問題はなさそうだ。

 俺はラーラさんを抱えつつ、ウイングタイガーを前に突き出すように持った。


「いなかったら帰るんですよね?」

「いたら、できるだけ倒しましょう」

「……」

「行きましょ」

「はい」

 俺が歩きかけると、待った、というラーラさんの声。


「なんですか?」

 と俺が言うのと同時に氷の槍が飛ぶ。

 ドサ、と落ちてきたのは。

「うわ!」

 ウイングタイガー!

「やっぱりここにいるのね」

「ででで出た!」

「ウイングタイガーって、木の上にいたりするのよね」

「ええ!」

 新情報!


 あわてて、木、木、木、と見ていくが、ウイングタイガーの姿はないようだ。


「気をつけて行きましょう」

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ」

「なあに?」

「あの……」

「やっぱり嫌になったって?」

 ラーラさんがあきられたように言う。


「いえ、その、木を切るのはどうですかね」

「木を切る?」

「そうです」


「このまま歩いていったら視界も悪いですし、危ないじゃないですか。だから、ラーラさんの氷の刃で、木を切り倒しながら進むと、視界が確保できるというか。よく見えるじゃないですか」


「……」

 ラーラさんが黙る。

「……だめですか?」

「……、いいんじゃない?」

「そうですか」

 ほっとした。


「氷の刃を、大きめに出して、木にぶつければいいのね?」

 俺たちの前に出現した氷の刃が、ドン、と木に突っ込んでいった。

 メリメリメリメリ! 

 木が手前に倒れてくる。


「おっとっとっと」

 ザザザー、っと木の葉がこすれながら、木が俺たちの横へと倒れた。

「あぶなくない?」

 ラーラさんが言う。

「いや、木は、横に切れ目を入れておけば横に倒れますよ」

「そうなの?」


「こんな感じです」


 おおよそ説明し、ラーラさんが氷の刃を飛ばした。

 ドン!

 側面、根本近くに切れ込みが入る。

 ドン! 

 二つ切れ込みが『>』のような形になると、木がメリメリ音を立てながら横へ倒れた。

 ラーラさんは近くの木にまた氷の刃を打ち込む。

「なるほどね」


 どんどん打ち込んでいく。

 どんどん木が倒れていく。

「すごいすごい」 

 同時にいくつも氷の刃を出してバンバン飛ばしてバサバサ切っていく。


「……いいんですかね?」

「なにが?」

「いえ」


 道をつくる、というのを、どのくらいの幅かと思ったら、ラーラさんはかなり大胆に木を倒していく。

 冒険者ギルドの建物の横幅くらいあるだろうか。

 いいのかな。

 自分たちの利益のためじゃないし、いいか!


 ラーラさんはどんどん倒す。

 木も、ウイングタイガーも。

 魔力がありあまっているせいか、飛ばす前の、氷の刃と氷の槍が、常にたくさん、俺たちのまわりにフワフワ浮かんでいる状態で進んでいた。

 だから、俺なんてウイングタイガーを見つける前に、もう仕留められたウイングタイガーが落ちてくる感じ。


 なんていうか、あれだけこわかったはずなのに。

 もう、ウイングタイガーを見たときの、ウイングタイガー感、みたいなものが欠けている。


 なにかが落ちてくる。

 ウイングタイガーだった。

 この程度。


 氷の槍が刺さるとザク。

 死体が見つかる。

 メリメリ、ザザザー。

 木が倒れる。


 ずんずん進む。

 もっと、命がけのことをしにきたつもりだったけど。

 これはなにをしてるんだろう。

 なんというか。

 収穫?

 開拓?

 みたいな?


 途中、何度かウイングタイガーの爪を回収した。

「前足の方が高く売れるの」

 きれいなやつは取っていこう、とラーラさんはすばやく判断。

 器用に、死んだウイングタイガーから、きれいに輝く爪を外していった。


 爪は、どういう仕組みになっているのか、ラーラさんが手でうまくやると、血が出るわけでもなく、ぱきっ、ぱきっ、と音を立ててかんたんに外れていく。

 俺はラーラさんを抱えながらしゃがんで、やっているのを見ていたが、よくわからなかった。


 ザク。

 メリメリ

 ザザザー。

 ザク。

 メリメリ。

 ザザザー

 メリメリ。

 ザザザー。

 ザク。

 ザク。

 メリメリ。

 ザザザー。

 メリメリ。

 ザザザー

 ぱきっ、ぱきっ。

 ぱきっ、ぱきっ。

 ザク。 

 メリメリ。

 ザザザー。


 振り返ると

 あちこちにウイングタイガーの死体。

 大量の倒れた木々。

 まっすぐに抜けた道。町が遠くに見える。


 ……俺たちはなにをしてるの?


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