06 魔物退治へ
「俺の能力の対象になる人の話は、ひとまず置いておきましょう」
「で、森へは、俺とラーラさんだけで行くんですかね」
「そうね」
「なんていうか、ソソイさんとダドグさんが来てくれる、と思って来てくれないことになると、不安というか」
最初からもらえないものならしょうがないけど、くれるって言われたあとに、やっぱりやめたと言われるときついというか。
「イン君」
ラーラさんが立ち止まった。
「……はい」
「こっちから行けば、戦うだけでいいけど、ウイングタイガーが来たら、町の人を守りながら戦わないといけないのよ? だったら行ったほうが楽じゃない」
「その発想はなかったです」
「ルルちゃん、魔法でウイングタイガー倒してたでしょ?」
「はい」
「あの子より、私、下手だと思う?」
「思わないです」
「私は魔力の調節の方が得意で、魔力の量に関してはそうでもないんだけど、その私が量も手に入れたわけ。この意味わかる」
「すごいことになりそうです」
「でしょ?」
「はい」
「ウイングタイガーはいないかもしれない。でもいたら危ない。そして時間をかけていたら、また来る可能性が高まる」
「いなかったらいないでいいじゃない。いたら、ある程度倒して、あとは王都に任せる」
「いまこの町にそれができる冒険者は、私とイン君以外にいるの?」
冒険者自体はいるかもしれない。
でも、さっきの、ウイングタイガーとの戦いに加わろうとする冒険者はいなかった。
戦いはすぐ終わったというのもあるけれど、逃げる用意をしていたのではないだろうか。
冒険者とはしてはそれがふつう。
町を大切に思うのは、俺たちであって、彼らではない。
彼らはここにいなくてもいいからだ。
そういう立場であるはずのラーラさんが、ここまで言ってくれている。
なにびびってんだ、俺は。
やれ。
やるんだ俺!
「すいません。行きましょう」
「そうこなくちゃ」
町を出て北東へ草原を歩いた先に森がある。
町の中で森に近いのは孤児院などがあるあたりだ。
「ウイングタイガーは森に住んでいて、このあたりまで出てきた感じでしょうか」
「そう思う」
「森の、どのあたりだと思います?」
森といっても、この町がすっぽり入る以上の広さがある。
「それは行ってみないとわからないかな」
「え、じゃあ森をずっと歩いて探すってことですか?」
夜までは探せないだろうし、おたがいにとって視界が悪い。
「あ、俺たちが森に行ってる間に、ウイングタイガーが町に来るかも」
「行く前に、今日のところは出歩かないようにしてもらいましょう。とにかく行ってみるしかない。できるだけ時間短縮を目指すの」
「時間、短縮……」
「そうだイン君、行く前に、ちょっと探してきてほしいものがあるの。あと、町の人への指示も」
町長への指示を伝えに行ってもどると、町の入口にラーラさんが立っていた。
「行ってきました」
指示というのは、今日はもう外に出ないこと。
それと、ウイングタイガーの爪やキバ、皮をはいだら、すぐに食べるか埋めるかして処分をしないと、ウイングタイガーを呼び寄せることになるから注意、ということだ。
そして。
「ありがとう、もらってきてくれたのね」
用意したのは、槍で刺したウイングタイガーの首だった。
ラーラさんが言うには、ウイングタイガーは仲間意識が強く、また、仕返しという考え方を持っているという。
死体を探す能力も高いが、死体をさらしものにすると、かなり怒りを覚えて襲ってきやすくなるらしい。
「嗅覚が鋭いから、寄ってきてくれると思う」
「怒って来るんですよね」
「だから動きが単純で読みやすくなるの」
「そうですか」
「あと、なにそれ?」
ラーラさんが俺の持っている物を見た。
俺が用意したのは、縦横はベッドの半分くらいの大きさの木箱。高さはひざくらい。
厚みのある木を使っていて、かなりがっしりしているから、裏返して底面に座っても、底が抜けたりはしない。
「急いでますよね」
「そうね」
「だったら、使えるかもと思って」
俺はラーラさんに、箱をこういう使い方ができないか、という説明をした。
「なにそれ、おもしろいじゃない! やろうやろう!」
反応が良すぎて、ちょっと後悔した。
村の入口で、箱を裏返して置いた。
ラーラさんの右手が光る。
手をかざすと、箱の底が凍りついた。
氷がはっきり浮き上がるまで凍らせる。
「よし」
充分凍った。
箱の裏には、皿をかぶせたみたいに、つるつるの氷がくっつている。、
箱をひっくりして元にもどした。
そして、ラーラさんは地面を凍らせた。
まっすぐ、氷の道ができていく。
「ちょっとそろそろ魔力がきつい」
「あ、はい」
俺はラーラさんを抱える。
ラーラさんの右手がはっきりと光った。
「じゃあ、そろそろ乗りましょうか」
俺は箱を氷の道に乗せ、箱に乗る。
足を、箱にしっかり突っぱって体を固定する。
「いいですよ」
「よし!」
「ではいきます!。3、2、1、出発!」
ラーラさんの左手も光る。
すると、後方から猛烈な風を感じた。
ラーラさんの魔法で作った風だ。
ゆっくり進み始めた。
そう思ったとき、箱が草原の、凍った道を滑り出す。
「うわわわわ!」
「やった!」
ラーラさんが声をあげる。
みるみる箱は速度を上げていく。
「氷魔法で、箱の底と道を凍らせ、風魔法で推進力をつくったらどうなるかと思って」
すごくてきとうな考えが、形となって走り出していた。
道はどんどん、ラーラさんが氷魔法で足していく。
調整がうまいというだけあって、ちゃんと道をたどれる。
魔力が無限供給できるからこその、高速移動。
「すごいすごーい!」
「あの、ラーラさん、ちょっと、速度をおとしてください……」
「えーなにー? 聞こえなーい」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」
ちょっとこれは。
速すぎませんかねー!